104話 パスコード
「……何か他に聞きたい事は無い?友達だから聞けなかったこととか。」
ピザの空箱を片付けながら優しく聞いた
澪桜はうーーーんと考えながら
ピッと人差し指を立てた
「あった!あとひとつだけ!」
ふふふっと笑いながら周は言う
「いいよ。何でも聞いて」
「そんな事言っていいのかい?……ちゃんと答えてもらうよ?」
意味深な……澪桜の反応
んん?と心当たりが無さすぎて
もう秘密なんて無いしと首を傾げる
「いいけど、何も無いよ俺?」
「いいや!あるね!……君今まで何人に告白されてきたんだい?」
ギクッ!!!
そう来たかと思う周
確かに付き合う前、澪桜さんに聞かれた気がするな……
あれ?俺何回告白されたんだろう
ジッと澪桜に見つめられたじろぐ周
「えっと……それは……」
案の定答えられなかった。
澪桜さんに嫌われたくない
だけどいちいち数えてない
だって鬱陶しいだけだもん!
「……ほらね。思った通り……やっぱり物凄い数告白されてきてるんだねぇ。だろうと思ってたけどこれ程とはね……」
少し悲しそうに言う
焦った周は身振り手振りで言い訳を始めた
「いや……それはだって……興味ないから告白してくる女性の事とか。
俺の事何も知らない癖に何言ってるのかなって思うし。……だって会社の俺って完璧に作り物だから」
なるべく正直に答えた
すると澪桜は怪訝な顔をする
「……作り物?仕事中の周さんが?」
「……うん。こんな素になるの澪桜さんと居る時だけだよ。正直友達の頃から自然体でいられて自分でもびっくりしてたよ。」
「それは想像出来ない……仕事中の周さん。仕事中……どんな感じなのだろう??」
「ふふ。想像しなくていいよ、きっと幻滅するから。人に笑顔では接するけど言ってることかなり冷たいんだ俺は」
困った顔で言った
「冷たい周さん??余計に想像できないよ!
それでもモテるなんて恐ろしい。……これからもそれが続いていくのか……」
澪桜さんが必死に自分に言い聞かせているような気がした。
ん?なんか怒ってる??
あれ?ヤキモチ妬いてる??
え、ヤバい!死ぬほど可愛いんですけど。
って、いやいや、ちゃんと応えろ俺!
「……それは正直に言うと否定出来ない。でもだいたいインターンか、新入社員か、他部署の俺とあんま面識ない人達だよ。直接の長く一緒に働いてる部下にそんな人いないからね。……怖がられてるから俺。」
眉を下げて優しく説明する
「出会いは沢山あるんだね。そりゃそうか大手企業だもんね、周さんの会社は。……そして君怖がられてるの??嘘でしょ??」
「出会いとは言わないよ。俺にとってはかなり迷惑なんだから。……ふふ、ポンコツな所しか見てないから想像できないか。」
「そうだねぇ。ポンコツだもんねぇ。」
うんうんと頷く澪桜
しかしその周に苦言を呈した
「……でも告白した人に失礼だよ、迷惑だなんて。そんな考え方はやめたほうがいい」
悲しそうな顔で首を振る
……ねえ、なんでそんなこと言うの?
しっかり断ったよって安心して欲しくて言ったのに
なんでそんな顔するの?
周は不安に駆られつい重い言葉を口にする
「君が嫌なら仕事辞めてもいい。君の所に就職してもいい。君のそばにいられるなら俺は今の地位や仕事なんか捨てたって構わない。」
……ここまで言えば分かってくれる?
ねぇ、お願い。
俺を捨てるなんて思わないで。
ヤキモチは嬉しい
でも傷付かないで。
大丈夫、だって俺には君しか見えないんだから。
「……そんな事させられないよ。ごめん、言いすぎた」
澪桜は気持ちを切り替えて素直に謝った。
「なんでそんな顔するの?俺本気だよ?むしろそうしたいって……付き合う前から思ってた。」
「……え!?」
「そしたらだってほら……ずっと一緒にいられる。
澪桜さんの働いてる姿も見られる。何よりのご褒美だもん。出世も頑張ってするよ?あ、でも平社員でも何不自由なく暮らせる程度の資産運用と不労所得くらいあるし、全く問題ないから安心してね♥」
「え?待って待って?なに?え?」
「ふふふ。……意味分からない?」
意味が……分かった澪桜はみるみる顔が赤くなる
「……それ、それって……!?」
「……楽しみにしててね!プロポーズはちゃんとサプライズ準備するからね!」
張り切る周を見て毒気を抜かれた澪桜は
がくっと肩を落とした
「……予告するな……プロポーズを。」
「ねぇ、澪桜さんフェルメールの前で誓った事覚えてる?」
「……覚えてるよ。」
「俺はあの誓いに叛く事は絶対しない。今度は恋人としてね。」
「うん。分かった……。信じるよ周さんの事恋人として」
ふっと笑って周はスマホを渡す
「……俺のプライベート見て?」
「!?っそんな……いいよ!見なくても!!」
「俺が見て欲しいんだよ。お願い。開いてみて?」
「え?だって……パスコードも知らないし」
「……知らない?本当に?」
「…………え?」
目の前の周のスマホ。
そんな……まさか……
恐る恐るロック画面のナンバーを……入力する
0511
あっさり解除できた。
そして画面には……初めて作ってあげた料理、フリカッセが背面だった
胸が熱くなる
ずっと大切にしてくれてたんだ。
私と初めて過ごしたあの日のことを。
スマホから視線を外し周に向ける
照れたようにはにかんだ。
「……初めてお邪魔した日に作ってもらったご飯、俺忘れたくなくて。パスは誕生日わかった日にすぐ変えた」
ほほをかきながら彼は言う
それだけで
ずっと薄らあったこの不安が溶けていった。
彼をいつか失うかもしれないという不安が。
周のスマホを置き
そしておもむろに自分のスマホを操作し差し出した。
「はい。あたしのパスコード書き換えていいよ。」
「……え!?」
「君の誕生日、入力して?いつかまだ聞いてなかったから。」
「い……いいの?」
「いいよ。中身もいつでも見ていい。何も無いから。」
震える指で周は入力しした
1224
自分の誕生日。
「クリスマスイブなんだ。素敵だね」
「……全然だよ、孤独な上に外を歩けば俺の誕生日にカップルが毎年イチャついてる。……最悪だよ」
「でも、イルミネーションが綺麗だよ?周さんの誕生日祝ってるみたいで凄いじゃないか」
「そんなふうに言われたの初めてだよ。……でもいいの?パスコード」
「……私のプライベートは君一色だからね。」
「うぐっ!!!!」
澪桜の男前な言葉に一発で落とされた。
「にしても見てみたいなぁ」
「……何が??」
「君の働いてる所。きっとカッコイイんだろうね」
「っ……ふ……普通だよ……」
澪桜にまともにカッコイイと言われ
動揺した周は声が上擦った
正直、周も不安だった。
澪桜は初カレの後何人の男性と知り合ってきたのか
まだ連絡はとってるのか
付き合う前からずっと気になっていたのだから。
でも、もういい。
彼女は俺の誕生日をパスワードにしてくれた。
俺の気持ちを察して
スマホをいつでも見ていいって言ってくれた。
俺一色だって言ってくれた。
俺も同じだよ。
これまでも、これからも永遠に君一色だから。




