2、ここはどこ?
あらあら、まぁまぁ・・・。あの子達に悪戯していたら・・そんなに時間が経っていたのねぇ・・・。ニンゲンの時間は難しいわねぇ・・・。
さぁあの子達は・・・どうなってるのかしらぁ・・・。
2人は、すぐさま周りを確認した。
間違いない…と、思われるその場所は【アジトがあった場所】である事は間違いない…。
リリタナが周辺を探っている間、リウは朽ちた建物を調べていた。
リウ『…。』
ひとつひとつの朽ちた木材を手に取り確認していく。
リウ『我は梟なり。真実を知る目なり。』
リウの目がフクロウの様な目になり、全ての痕跡を辿り始めた…。
その頃、リリタナは…
リリタナ『我は鷹なり。我が目は全てを見通す目なり』
上空より見下ろし、森の状態を知った。
間違いなくここは、精霊の森であった…。
リリタナ『…。』
そして、改めて周辺の様子を伺いながらアジトがあったとされる場所へ戻ると、リウが木片を睨みつける様に見つめていた。
リリタナ『何かわかった?』
しかめっつらをしたまんまリウは振り返った。
リウ『ここ、やっぱりアジトだよ。だけど、フクロウの目でも確認したけど…うん...。朽ちてる。』
リリタナ『ん?朽ちてる??家がか?』
リウ『うん。朽ちてる。元々森の木を使って建てたし、そこまで古い木材じゃないはずなんだけどね…。朽ちてるわ。で、周辺の様子は?』
リリタナ『マジかよ…。どういうこった…。あ、あぁ、周辺は鷹の目を使って確認したけど、特にいつもと変わらない…とも言い切れないな。』
リウ『なんか異変でもあった?』
リリタナ『いや。異変というか…森が大きくなってる様に感じたわ。木が成長したって言うのかな…。あとは…。』
リウ『ま、まだあるのか…で、あとは?』
リリタナ『気のせいじゃないと思うんだが、なんだか妙に街が明るいんだよ。』
リウ『明るい?』
リリタナ『うん。明るい。』
リウ『と、とりあえず今晩は野宿するしかないとして…。』
リリタナ『そうだね。明日、街に行ってみよう。』
2人は朽ちた家の木片を器用に使い、簡易的なテントを作り一晩を明かした。
チュンチュン
チュンチュン
小鳥がいつもの様に鳴く。
変わらない森の朝。
木々が揺れ、葉がサワサワと心地よいメロディを奏でる。
リリ&リウ『んーー♪』
さすがスラム育ちの2人、屋根があれば熟睡出来るのである。
リリタナ『とりあえず、街に向かうとしますか…。』
リウ『今日はどうする?』
リリタナ『うーん…。変装道具も無くなっちゃったしな…。このリュックを背負って旅人のフリでもしますかー。』
リウ『了解!余計な物とか持たないで、ただの旅人って事でいいよね?』
リリタナ『んだね。よし!行ってみますかー!』
森を抜け、しばらく歩いた。そこを抜ければ街道に出るはずだ。
リウ『あれ…。』
リリタナ『なんじゃ…これ…。』
今までの街道も石畳の立派な街道ではあったが…今眼前に広がる街道は…
見た事もない素材で、驚くほどに平らになった道であった。
そして、何より…
リリ&リウ『馬車が…馬無しで走っとる…。』
そう。その通り。馬車と思われる乗り物が馬無しで走っているではないか。
瞬時にリリタナがリウに話しかけた。
リリタナ『リウ…。これは想定外だ。これは、もう何も知らない田舎から都会に一旗上げにきたって感じで田舎者になりきろう。』
リウ『了解…。いやぁ…。馬無しで走る馬車って…うぅ〜む…。』
キョロキョロと周りを確認しつつ、田舎者っぽいフリをしながら、城門前まで辿り着いた。
兵士『ようこそ!カイネローゼン王国へ!旅の方かな?』
リリタナ『はい!田舎から出てきて、ちょっとびっくりしちゃって…。』
兵士『うんうん!ここは世界でも指折りの都市だ!観光するもよし!一旗あげるもよし!腕を試すもよし!全ての希望がここにはあるぞ!!』
リウ『うん!ありがとう兵士さんっ!私達!一旗あげるよ!!』(キャルルーン♪)
兵士『うんうん!腕に自信があるならば、この先の冒険者ギルドで冒険者として登録をすれば良いぞ!腕利の職人になりたければ、その冒険者がギルドの向かいが職人ギルドだ!さらに進むと魔法ギルドもあるからな!まぁ貴族か素質ある者でもなければ入れないが…』
リウ『ありがとう♪兵士さん♪』(キャルルーン♪)
リリタナ『えっと、街に入ってもいいんですかぁ?なんか検閲とかは?』
兵士『ふっふっふ…こう見えてもおじさんはな…大ベテランなんだ!目を見れば悪人か指名手配犯かなんてなぁ!すぐにわかるっ!!大丈夫!君達みたいな夢溢れる目をした少女達はこの王国は歓迎するよ!頑張りなさい!!』
リリ&リウ『はいっ♪』(キャルルーン♪)
リリ&リウ心の声
(わたしら、泥棒だけどなw)
テクテクと城門をくぐる2人
リリタナ『なぁ、リウ』
リウ『ん?なぁんだー?』
リリタナ『あの、キャルルーンって声はどっから出てるん?』
リウ『はぁ?リリだって、キャルルーンしてたぞ。』
『っふ…。』っと2人は鼻で笑いながら、カイネローゼン王国へと入っていった。
リリタナ『おい。』
リウ『あぁ。』
見知った街が、見た事ない街へと変わっていた。
石造りがメインだった建物は、木造とレンガ、見た事のない素材や建築技術で作られていた。そして何より、王宮でしか見た事のなかったガラスがふんだんに使われていたのだ。
街のメイン通りも、街道と同じく美しく仕上がっている。路地裏でさえ舗装はされてないものの、物凄く平坦にならされていた。
そして何より驚いたのは、そこらかしこに街灯があり、街を美しく照らしていたのだ。
リリタナ『こりゃ…もしかして…。』
リウ『うん。昨日の夜に話してた可能性があるかもな…。』
2人は、眠る前にとある仮説を立てていた。
1、魔導書によって家が壊された。
2、魔導書によって、遠くに飛ばされた。
3、魔導書によって、過去もしくは未来へと飛ばされた。
リウ『仮説3か…な。』
リリタナ『だな。』
リウ『よし。とりあえず冒険者ギルドで登録してみよう。そしたら情報もわかるし、お金も稼げる。とりあえずは生活してかないとだしなぁ。』
リリタナ『んだな!冒険者ギルドへ行ってみるべー』
2人は、兵士に教わった冒険者ギルドへと向かった。
バタンッ!
見た目よりもスムーズに開いた大きな扉。
目の前にはカウンターが並び、その先に職員と思われる多種多様な民族の者達が忙しそうに働いていた。
ガヤガヤと賑やかな雰囲気、片方に目を向けると壁一面に何やら紙が貼り付けてある。冒険者と思われる個人やパーティーがそれらをはぎ取り、受注カウンターと書かれているカウンターの前に並んでいた。もう片方は食堂かなにかのようだ。そこでは食事をしている人や酒を飲んでる人たちが楽しそうにしている。
?『おい!邪魔だ!』
リリタナとリウはその光景に見入ってしまい、ついつい入り口で立ち尽くしていた。
怒声を浴びてハッと振り返ると、それは山かと思うほどの背丈と横幅を持つ熊の獣人族であった。
熊『入り口で突っ立ってんじゃねーよー!』
リリタナ『あ゛ぁ!?』と言いかけたリリタナの口を押さえてリウが話しかけた
リウ『ご、ごめんなさい!私たち初めてここに来て…みなさんの活気に驚いてしまって…。』
熊『ん?新人か!?なんだ!新しい仲間じゃねーか!デカい声だして悪かったな!ガッハハハ!!』
?『ウチの熊がごめんなさいねぇ〜』
後ろからひょっこりとエルフが顔を出した。
エルフ『貴方達、登録はすませたの?』
リウ『い、いいえ!これからなんです!』
エルフ『ウフフ…じゃあお姉さんが案内してあげるわ♪ちょっと!そこの熊!あんたは良さそうな依頼を探しといて!』
熊『お、おぅ…わ、わかったよ…怒んなよ…。』
熊の獣人族はびっくりするほど小さくなってうなだれながら依頼書が貼ってある方へと向かった。
エルフ『ウフフ。改めまして私は見た通りエルフ族よ。エルミアと言うの。これからよろしくね♪』
リウ『はい!よろしくお願いします!リウです!アレはリリタナです!』
リリタナ『はーい。アレのリリタナでーす。』
リウ『悪かったって…。』
エルミア『ウフフ。仲良しなのね。』
リウ『エヘヘ。同じ東の果ての村からここに稼ぎにきました〜。』
エルミア『うんうん♪ここは大きな国だから沢山の依頼があるわよ!まぁ後でギルドからも説明を受けると思うけど、その気になればガッポガッポよ♪』
美しい顔がイタズラに笑いながら下品な仕草でお金のマークを手でしめした。
リウ『エヘヘ♪』
エルミア『ウフフ♪』
リリタナ『おふたりさん…ヨダレ…ヨダレ…。』
2人『ジュルリ』
エルミア『さって!案内するわ!登録カウンターはカウンターの左端よ!』
美しい髪をなびかせ歩く姿に、ギルド内の冒険者たちは振り返ったり、目で追ったりする者が多く存在した。
エルミア『ここが登録カンターよ♪いつか一緒にガッポガッポしましょうねっ♪』
美しい顔と所作。けれども冒険者らしい粗野な部分も併せ持つ。彼女こそ冒険者そのものであった。
エルミアに教えてもらった通り、登録カウンターへと向かい登録する事にした2人…
受付嬢『ようこそ!冒険者ギルドへ!登録でお間違いありませんか?』
リウ『はい!2人お願いします!』
受付嬢『では、こちらの登録用紙に名前と出身地とご職業を【自己申告】でお書きください♪』
リリタナ『自己申告?』
受付嬢『はい♪自己申告です♪書きたくなければ空欄。呼ばれたい名前で名前は書いてくだされば結構ですよ。冒険者は全ての人に開かれた職業です。結果こそ全てです。今まで何をやられてたかは問いません。これから何を成すのか?それが冒険者です。』
リリタナ『いいねぇ…。』
2人はスラスラと登録用紙に記入していった
名前 リリタナ・バタフライ
出身地 空欄
職業 スカウト、サバイバル術
名前 リウ・ラフェル
出身地 空欄
職業 スカウト、初級医療術
受付嬢『はい♪ありがとうございます♪次は、このオーブに手をかざして頂ければ登録初回特典として無料でステータス確認が出来ますがいかがなさいますか?』
リウとリリタナは顔を合わせ、目でお互いを確認した。
リウ『お願いしまーす♪』
どちらからやるかと受付嬢に聞かれたので、まずはリリタナかそっと手をかざした。
受付嬢『!!!?』
騒がしかった受付嬢が、急に黙って静かな声で話し始めた。
受付嬢『わ、私…トリプルって初めて見ました…す、素晴らしい素質をお持ちですね…。』
リリタナ『はぁ?』
受付嬢『火、土、闇の3属性をお持ちなんて…まさか貴族様!?』
リリタナ『い、い、いや、ただの田舎者ですよ…。お、おい、次はお前やれよ。』
リウにやれと声をかけ、しぶしぶと受付嬢は業務に戻った。
受付嬢『ぶっふぉぅぅ!!!ゲッホ!ゲッホ!ゲッホ!』
むせる受付嬢。
受付嬢『水、風、光…。え…まって…貴方達…え…2人揃ってトリプル…え…これで...ぜ、全属性…そろ?そろ…った?も、も、も、申し訳ございません!!!し、少々お待ちを!!私では対応出来かねますので、ギルドマスターへ通させていただきます!!』
そう言い残し、受付嬢は奥へと消え、他の受付嬢に横の食堂に案内されそこで食事しながら少しお待ちくださいと言われたのであった。
しばらくして、2人が丁度食事を終えた頃を見計らって、屈強な老龍人族が声をかけてきたのであった…
老龍人族『やぁどうも。お待たせしました。食事はお口に合いましたかな?』
リリタナ『ええ。美味しく頂きました。』
老龍人族『ふぉっふぉっふぉっ…。それはよかった。それではここではアレでなのでな…ちょいと上までご足労願う。』
そう言われ、リリタナとリウは冒険者ギルドの2階の応接室へと通された。
ガチャリ。
老龍人族『ささ、中へどうぞ。』
穏やかな口調で中へと案内され、奥には…
メガネを掛けた、高貴は雰囲気のエルフが居た。だがしかし、まるでダークエルフの様な妖艶さも併せ持つ姿に、少し緊張が走る。
エルフ『やぁ。わざわざすまないね。さぁ、座ってくれたまえ。』
東洋のタバコ、キセルをふかしながらニコニコとしながら席へと促された。
リリタナとリウは立派なソファに腰を掛け、周りをキョロキョロとしていた。
立派な彫刻、高そうな絵画、名持ちと思われるモンスターの首の標本。魔力を宿す武器や杖などが飾られている。
エルフ『やぁ。改めまして、私はこのギルドを任されているエルフ族のアガサ・エルウェというものだ。』
リウ『エルウェ…?』
アガサ『おや?エルウェの名を知っているのかい?』
リウ『あ、あ、はい。なんかどこかで聞いた事があるような…。』
アガサ『ふふふ…。そうだね。私の国が【まだ存在していたのならば】、私は世に言う王族に連なる者と言われてもおかしくないかもしれないね。』
老龍人族『う、ウウン。』
咳払いして話を止める老龍人。
アガサ『あぁ、悪い。話が逸れたね。彼もまた見た通りの龍人族。うちのギルドの副ギルドマスターを務めてもらっている、ナクラ=マグニだ。』
ナクラ『よろしく。』
物腰柔らかいが、この御仁…恐ろしく強い。武人…いや、武神とも言うべく覇気を感じる。
まぁ、ギルドマスターのアガサの底が見えない魔力の方がヤバそうだが…。
アガサ『そうそう。受付から聞いたんだが、君らトリプルなんだって?』
リウ『あー…それが…私達は田舎から出てきたばかりで…ちょっとよくわからないんですよ…。』
アガサ『あ〜はっはっはっは!!!』
腹を抱えてアガサが笑い転げた。そして、すまんすまんと言いながら椅子に座り直し…
続けて言葉を発した。
アガサ『タイニー・モス(ちんけな蛾)』
その言葉が発せられた刹那、リリタナとリウは腰に潜めていたダガーを抜き、リリタナはアガサの首へ。リウはナクラの首へと刃を飛ばした。
ガキーーーン
金属と金属が触れる様な音が1つだけなった。それほど完璧なタイミングで同時にリリタナとリウはアガサとナクラの首を掻き切ろうとしたのだ。
アガサは吸っていたキセルでダガーをやすやすと止めてみせた。
同じくナクラも持っていた杖で、やすやすと止めてみせた。
リリタナ『アタシらは、アビス・バタフライ【深淵の蝶】だ…。次に蛾なんて言いやがったら...ブッ殺す…。』
こぼれ落ちるほどの殺気を放ちながら、リリタナとリウはダガーを首に向かい更に押しつけた。
アガサ『まぁまぁ、落ち着けガキ共が。』
ナクラがゆっくりと杖を下げ、リウの肩をポンポンと叩いた。
2人はゆっくりと、だが殺気は向けたままダガーを鞘へと納めた。
アガサ『んで、今更なんだが…闇ギルドの大泥棒がなんの様だって言うか…。うーん…。』
リリタナ『あぁ?どういう意味だ?』
アガサ『いやいや、うん。いや、いいんだよ別に。冒険者になってくれても…うん。』
リウ『何か問題でもあるのかよ。』
ナクラ『うむ。改めて聞くが…お主ら…種族はなんだ?』
リリタナ『は?知らねーよ。アタシらの事を知ってんだから、アタシらがどんな奴なのかは知ってんだろ?』
アガサ『うむ。知っておるぞ。実に久しぶりに聞く名だ。』
リウ『あ?久しぶりだぁ?』
ナクラ『お主ら…人族よな?』
リウ『まぁスラム生まれなんでな。どんな血筋かは知らねーけど、まぁ人族の血は入ってるだろうな。』
アガサ『うむ。そこなんだよ。』
リリタナ『だから、なんだってんだよ。』
アガサ『また、お前らの嫌いな通り名を言う事を許して欲しい。だが、説明しよう。』
リリタナ『あぁ…。別にかまわねー。現状を知る方が先だ。』
アガサ『うむ。話が早くて助かるぞ。して...お前ら、魔導書を盗んだよな?国の特級危険認定の禁書をさ。』
リリタナ『っち…。バレてやがったか…。あぁ。そうだよ。アタイらがやってやったよ!なんだ?衛兵にでも突き出すんか?あぁ〜ん?』
アガサ『うむ。落ち着いて聞けよ。』
リウ『さっさと言えよ!』
アガサ『お前ら、タイニー・モスが禁書を盗んだあの日から…。』
部屋には緊張が走り、静寂が支配する。ほんの数秒が何十秒にも感じられる。
アガサ『お前らが盗んだあの夜から、もう…』
リリ&リウ『ゴクリ…。』
アガサ『400年経っているんだ…。』
リリタナ『っぷ…!』
リウ『あ〜っはっはっは!冗談にしてはふざけ過ぎてんじゃねーか?』
ナクラ『コレを見ろ。』
バサっとテーブルに巻物を広げた。
ナクラ『これは王国暦である。お前らも知っているだろ?』
リリ『スラム生まれだって馬鹿にしてんのか!?今は王国暦625年だろ。』
黙ってナクラが指を指す。
そこには…
王国暦1025年と記されていた。
壁のカレンダー、後で確認したが受付カウンターの日付も1025年となっていた。
アガサ『お前ら、確か…精霊の森に住んでたな?』
リリ『っち…。アジトもバレてたか。』
アガサ『いや、お前らのアジトがわかったのは300年ほど前だ。その時に禁書が同じ場所で見つかり、王国は再度厳重に封印したんだ。』
リウ『ちょ、ちょっと待ってくれ…は?私達は…はぁ??』
ナクラ『お前ら…もしや禁書を読んだか?』
リリ&リウ『…。』
アガサ『読んだのか…。』
リウ『よ、読んではいない。タイトルすら2人とも読めなかった。だから…。』
アガサ『だから?』
リリタナ『リウが最初に本を開いたんだ。』
アガサ『うむ。それで?』
リリタナ『いきなり本から何かわからないモヤモヤが飛び出してさ…リウの目とか口とか鼻、耳、穴って言う穴に流れ込んでさ…。』
アガサ『うむ。それで?』
リリタナ『そしたら、次は穴って穴から血が吹き出すし、痙攣は止まらないし、本は手から離れないしで…どうしようもなくてリウの体から離そうとして…。』
アガサ『離そうとして?』
リリタナ『リウの肩をつかんだ瞬間、次はそのモヤモヤが自分に迫ってきて、気づいたら…。』
アガサ『きづいたら?』
リリタナ『昨日の夜になってて…周りを調査する為に街に来たら、何もかも変わっちまってて…。』
アガサ『ふむ。ナクラよ。どう考察する。』
ナクラ『えぇ。まずは彼女達が禁書から魔術、魔法を受け継いだ可能性。長き時間を経て蘇ったのか…時間を飛ばされたのか…あるいは…。』
アガサ『うむ。我も同じ考えだ。しかし、場所が場所だな…アレが悪戯に弄り回した可能性もあるな…。』
リウ『アレって…アレって何だよ!』
アガサ『精霊だよ。お前らがトリプルなんて属性を授かった可能性として、禁書から脳に焼けついたのか、精霊の悪戯として各属性の精霊をその身に植え付けられたのか…。』
ナクラ『どちらにしても…。』
リリタナ『なんだよ!どうなっちまうんだよ!』
アガサ『わからん。』
ガンっ!とテーブルを叩きつけながら立ち上がるリリタナ
リリタナ『わからんって!!』
ナクラ『落ち着け童!』
リウ『落ち着けるわけねーだろ!』
アガサ『お前ら、あの禁書がどんなもんか知ってんのか?』
リリ『知らねーよ!高く売れるもんなんだろ?』
アガサ『はぁ…無知は罪とは、まさにこの事…。アレはな、古の大賢者が書き残した魔導書なんだ。』
リウ『あぁ?私と同じ名前のあいつか?』
アガサ『うむ。かの大賢者が生涯に渡り作り上げた魔術をすべて書き示したのがあの魔導書だ。あれはな、それはそれは便利な魔導書なんだよ。』
リリタナ『は?意味わかんねーよ。』
アガサ『あの魔導書はな、開いただけで大賢者と同じ魔法が使える様になるそれはそれは便利な魔法がかかっているんだよ。』
リリタナ『なら、いいじゃねーか。便利でよ。』
アガサ『大賢者の魔力の器があって初めて受け入れられる魔力量だぞ?貴様のその小さなポーチの中に、エンシェントドラゴンを全て収める事は出来るか?』
リリタナ『出来るわけねーじゃん!』
アガサ『そー言う事なんだよ。大賢者は天才だ。天才が故に、他人も自分と同じ位できると安易に考えた。結果、便利と思われた魔導書を開いた瞬間に、脳は焼け焦げ、死に至る様になったのだ。』
リリ&リウ『…。』
困惑し、黙る2人…。
アガサ『これは、私の仮説だ。』
リリ&リウ『ゴクリ…。』
アガサ『お前達は、おそらく禁書を開け…死んだ。』
カッと目を見開き、うつむく2人…。
アガサ『そして、死にながらもお前達の脳には大賢者の魔法が刻まれた。そして、たまたまそこに居合わせた精霊が…たまたま生き返らせたのか…それとも作り替えたのか…。』
リウ『アタシらは何も変わってない!!あの夜の事も!!スラムで泥をすすりながら2人で生き抜いた事もちゃんと覚えている!!』
リリタナ『そうだ!!勝手な事をぬかしてんじゃねーよ!!!』
ガタッと立ち上がる2人を、まぁまぁとなだめる様に座らせたナクラ。
ナクラ『これは、仮説じゃよ。お前達が住んでいた精霊の森が何て呼ばれてた位は知っておるじゃろ?』
リウ『魔の…森。』
ナクラ『うむ。そうじゃ。あの森に住んでいるとされる精霊は、古来より悪戯が過ぎる。彼等はただふざけているだけかも知れぬが…なぜ、我々は精霊の森ではなく、魔の森と呼ぶのか…考えずともわかるじゃろ。』
アガサ『お前達は身を隠すのに都合がよかったのかも知れん場所だがな…。まぁ結果的に死ぬ事は免れたと…今は思うべきだろ。』
リリタナ『…。』
アガサ『とりあえず、お前達が死に戻りやら、泥棒ってのは伏せとくさ。これからは、いち冒険者として働いてくれ。たまーにその身を調べさせてくれればそれで良いさ。』
リウ『…。なんか釈然としねー。』
ナクラ『我ら長命種族でも、ギルドや国の幹部でも無ければ、お前達が禁書を盗んだ事は内密に処理されてて誰も知らんさ。』
アガサ『だが、しかーし。お前達も登録しちまったんだ。お前らは今この瞬間から冒険者だ。盗みと裏切りは御法度だよ。』
リリタナ『っち…。わかったよ…。』
ナクラ『あぁ、そうじゃ。それでもお前達は監視対象じゃからな。基本的な制約はないが2人パーティという事で登録してあるからのぉ。この後、受付に行ってパーティ名を登録しときなさい。』
リウ『っち…。』
アガサ『まぁまぁ、とりあえず禁書の魔力を受け継いだ可能性が高いからな。何かあったら私かナクラが駆けつけれる様にって事で監視対象って事だ。表向きは、トリプルの2人を魔法ギルドに渡さない為に囲い込んでるって事にするが…まぁ、面倒だからトリプルって事も隠蔽してあるからなぁ~♪』
ナクラ『稼ぐのは結構。人々の役に立つしのぉ、だがあんまり派手に魔法は使うなよ?』
リウ『っち…。そもそも使い方もわからねぇよ…。』
ダラダラと立ち上がり、応接室から出てきたリリタナとリウ。
リリタナ『これからどーすっぺ?』
リウ『とにかく冒険者としてどんな仕事があるか見ながらか?まぁそれなりに儲かりそうだしな。』
リリタナ『あー、なんだっけ?パーティ名だっけ?やりに行くか〜。』
リウ『だな。まぁギルドの飯は美味かったし、とりあえず冒険者として何とかやってくべー。』
階段を降りて、活気のある受付カウンターの左端。登録カウンターへと戻ってきた2人
リウ『すみませーん。』
受付嬢『あ!どうも!話は聞いてますよ♪パーティ名の変更ですね?』
リリタナ『変更?いや、登録しにきたんだが?』
受付嬢『あれ?ギルドマスターから話を聞いたら登録してあるやつの変更って聞いてて…。』
リウ『嫌な予感すんな…。』
リリタナ『あぁ…。あー、ちなみに何て登録してある?』
受付嬢『えっと…こ、これです…。』
申し訳なさそうに登録用紙を取り出した。
そこに書いてあったパーティ名は…
オールド・ブラット(古臭いガキ)
リウ『あの野郎…』
リリタナ『どーする?』
リウ『うーん…よし。これかな。』
エル・バイポーラ(双極の神)
リウ『私達は今日から、エル・バイポーラだ。』
リリ『うん。何て意味かわかないけど、なんかいい響きだな!』
こうして、時間の迷子となった2人の冒険が始まったのであった。
あらあら、まぁまぁ・・・すこーしだけ・・・面倒なXXXと出会ってしまったのねぇ・・・まぁでもいいわぁ。ウフフフ。冒険者・・・?よくわからないけれど、色んな所へお出かけするのねぇ・・・。エライわねぇ・・・。色んな場所を見ておくのよぉ・・・・・。