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蟄跋渉  作者: 更科
2/10

1 ひだまり日和

『裏山から聞こえる、笛の音』


最新の記事のタイトルを見た瞬間、拓摩の眉間に皺が寄った。いつものお洒落なカフェ巡りの話でも、愛猫の可愛い仕草でもない。拓摩は不意に湧き上がった違和感を感じつつも、本文を読み進めるのであった。


________________________

裏山を散歩していたら、奥の方から変な笛の音が聞こえてきた。ピーヒョロ、ピーヒョロって、どこかの民謡みたいなんだけど、なんかこう、胸の奥がざわつくような音で…。祖母に聞いても『山に住む何かの音だ』って笑うばかり。気のせいかな?

________________________


添付されていた写真には少し薄暗い山の小道が写っており、一見すると美しい静かな雰囲気な風景だった。だが、画像を拡大してみると奥の木々の間に、白い影のようなものが微かに写り込んでいるように見えた。気のせいだろうか。拓摩は目を凝らしたが、ピントが甘くはっきりとは分からない。

その翌日、また新しい記事が更新された。


『蔵で見つけた、変な道具』


拓摩はスマホを握りしめた。やはりおかしい。ブログ主の文体が、どこか不安定になっている気がする。


________________________

実家の整理中に、開かずの蔵の奥から妙なものを見つけた。木でできた人形みたいなのが、たくさん。どれも顔がのっぺらぼうで、手足が異様に長い。古いお札が貼ってあったりして、ちょっと不気味だった。何に使うものなのか聞いたら、祖母は機嫌を損ねたように『昔、村の入り口に飾ってた魔除けだよ』って。でも、魔除けにしては変じゃない?

________________________


添付写真には、薄暗い蔵の片隅に、不気味に並べられた木製の人形が写っていた。やはり写真がブレていて、鮮明には写っていない。だが、その輪郭からでも、のっぺりとした顔と、異様に長い手足が、人間の比率を歪ませたような不気味さを感じさせた。

「何これ。いつものほんわか路線どうしたんだよ。何かあったのか?」

拓摩はブツブツ呟いた。まるで、ブログ主の人格が、少しずつ変質しているような、そんな不気味な感覚に襲われた。これは、ただのブログではない。何か、本当に「現実」で異変が起きているのかもしれない。退屈だった日常に、小さなひび割れが入った瞬間だった。


その日の夜、拓摩は大学のサークル仲間であるハルと、オンラインゲームをしながらボイスチャットを繋いでいた。ゲームの休憩中に、拓摩は意を決して、ハルにブログの話を切り出した。

「なぁ、ハル。お前さ、個人ブログとかって読む?」

「ん?たまーに?なんか面白いブログ見つけたん?ってか拓摩、お前そういうの読むタイプだっけ」

ハルは興味がまるでなさそうに返事をした。拓摩をよく知っているハルならではの、慣れた対応だった。ハルにとっては、拓摩の興味の対象がゲームから個人ブログに移っただけの話だったのだろう。

「いや、それがさ、最近読んでたやつがマジでヤバくてさ。元々はカフェ巡りとか、猫の画像とか上げてた普通のブログだったんだけど、一週間くらい前から急におかしくなってんだよ」

拓摩は興奮気味に、ブログ主が北陸の祖母の家に行ってからのブログの異変について話し始めた。写真がブレていたり、文章が支離滅裂になっていく様子を熱心に語る。ハルは「へぇー」「ふーん」と気のない返事を繰り返した。拓摩の熱量と、ハルの温度差が、はっきりとしていた。

「でさ、最近は『、深し。道、断たれる。』とか、真夜中に更新されててさ。写真も真っ黒だったり、なんかよくわかんない記号の羅列だったりして。マジで人がおかしくなっていく様子がリアルなんだよ。これ、ガチなんじゃねーかなって…」

拓摩が熱弁する傍らで、「はは、お前も好きだな、そういう話。俺には無理だわ、夢に出てきそう」と笑い飛ばした。拓摩の感じているゾワゾワするような肌触りの悪さを、ハルはまるで理解していないようだった。さらにハルは続ける。

「でもさ、そういう都市伝説とか心霊系のヤバい話って、『ああいう』掲示板とかにいっぱい転がってるんじゃね?なんていうか、本物っぽいガチの話を集めてるみたいなやつ。お前、オカ板とか、そういうの好きだろ?」

ハルの言葉に、拓摩は「あぁ、なるほど」と頷いた。自分の見ているブログが、ネット上の「ヤバい話」の一つとして、より深掘りできる場所があることに気づいた瞬間だった。

「もしかしたら、そのブログの変な話も、すでにどっかの掲示板で話題になってたりしてな。知らんけど」

ハルはそう言って、またゲームに意識を戻した。拓摩は、友人の軽いあしらいに少しがっかりしながらも、スマホの検索窓に「オカルト 掲示板」と打ち込み始めるのだった。

退屈な日常の終わり。何かが始まる予感がした。

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