依頼:煙の王国⑤
小さな村に住む少年。
彼の名はグリンと言った。
ある晩のこと、みすぼらしい行商人の老人が彼を訪ねてきた。
宿を探しているが誰も泊めてくれないのだと。
閉鎖的な村ではごくあること。
どこの馬の骨とも知れない老人に家の扉は開けない。
だが、グリンは快く老人を招き入れ暖かい食事を与えた。
彼にとってはむしろ話し相手ができてうれしかったのだ。
長い長い道のりを旅しているという老人の商品は
どれも不思議な物ばかり。
消えることのないランプ。
尽きることのない蜂蜜酒。
なんでも開けられるピック。
グリンは目をかがやせて商人の説明を聞き入った。
だが彼には買う余力などはなかった。
両親を幼くして亡くした彼に残されたものは畑とわずかな財貨のみ。
さらには村中の手伝いをすることで食いつないでいたのだから。
残念そうに笑って購入できないことを伝えるグリン。
すると老人は一晩の礼にと小さな蒸留器を取り出した。
「これは願いのアランビック」
「お前さんの強い願いを込めれば、雲の如き煙が飛び出し形を成す」
説明を聞いても首をかしげるグリンに老人は蒸留器を握ってみせた。
すると蒸留器の中から煙が立ち上がり
豪華な食事へと形を変えていった。
「す、すごい!子羊やうさぎのローストにチーズに……!!」
老人にうながされたグリンは料理にかぶりついた。
おもわずほっぺが落ちてしまいそうな味わい。
彼の喉を通ったのは幻でもない本当の食べ物だった。
大喜びの彼は老人と食事を楽しみ、不思議な蒸留器を譲り受けたのだった。
ただ老人は一言だけ険しい顔つきでグリンに言った。
「人だけは願ってはならん」
と。
グリンは「なぜ?」と聞いたが
老人は答えなかった。
不審に思いながらも彼は約束は守ると誓った。
翌朝、グリンが目を覚ますと行商の老人は既にいなくなっていた。
残されたのは【願いのアレンビック】
これが始まりであった。




