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依頼:煙の王国④

「弾頭に含まれた結晶は天の湿りを吸い寄せ、重き(しずく)へと変える力を持つ」

「煙の王国に打ち込めば、王国の(きり)は自らの重さに耐えかね、黒き涙となって崩れ落ちるだろう」


改竄者(かいざんしゃ)はそう語ると砲手に指示を出した。

その表情は黒い仮面によって(うかが)うことはできないが

声は雨の日の夜のように不気味で切なかった。


(止めるべきか……いや、だめだ。危険すぎる)

(あの改竄者が何を企んでいるのかをまず見極めねばなるまい)


もはや塔とも呼べるほど巨大な瓦礫の砲台は天を見据(みす)える。

それは人の希望とよぶには(いびつ)だった。


そして―――


人々が熱狂する中、その弾丸は天高く撃ち込まれた。

天を覆い尽くさんとする煙の王国の雲に吸い込まれたそれは

強烈な爆発音と共に世界が夕日色に染まっていく。


「おお!やったぞ!!」


男たちは手にした酒を飲みあい

女と子供は抱きあって喜んだ。


だが、彼らの笑顔は消え失せていく。


煙の王国を構成していた雲は真っ黒の(すす)のようになっていった。

泣き声のような音が聞こえたと同時に

空から黒い雨が降り始めた。


「おお!救い手さまのおっしゃるとおりだ!!」


街の長らしき人物は嬉しそうに言ったが

その言葉は段々と形を失っていく。


「これでおrtえんnおm……ぎぃいいいいいいいいいいいい」


男の顔からは鼻と口の境界が消えた。

まるで習字の筆を洗った後の水差しのように

表情がだらりと下に向かって溶け出し始めたのである。


黒い雨に触れた人々が次々と異形と化していく。

人々は悲鳴を上げようとしたが、その叫びさえあげることは許されない。


私を案内してくれた農夫の家族も

お互いを抱きしめ合いながら溶けていく。


(これは一体……!?)


私も雨に触れてしまったが

変化することはなかった。


ほっと胸をなでおろしたところ

目の前に黒いローブを着た改竄者が立っていた。


「あなたも鑑賞している人なのですね。少女の肉の中には―――」

「熟れた魂がみえる。なんと香しいのでしょう」


改竄者の冷たい指先が頬に触れる。


「人の物語に手を加えてバッドエンドにするのが狙いか?」

「いい趣味とはいえないな」


「悲劇はもっとも大衆が(よろこ)ぶ作品ですよ」

「これは彼岸に向かう老人に手向ける葬送曲(レクイエム)なのです」


戯言(ざれごと)を」


私は改竄者の手をはねのけ

意識を集中させ、脚本を出現させた。


「なにをなさるかは知りませんが、無駄ですよ」

「一度描きこまれたページを消すことはできません」


「そうだな。だがお前が描きこんだのは下書きにすぎない」


「―――なんですって」


「そしてその下書きは保存されない」

「破棄すればいいんだから」


「リテイクなんて認めません……この完成された物語は……!」


脚本の上に一本の筆が浮かび上がる。

七つの色を放つそれは

黒いモノクロの世界のなかで異彩を放っている。


「万奏の筆よ―――今こそ(つづ)(かな)でよ」


脚本に筆を下ろすと

暖かな光が世界を包み込んでいく。




―――「物語の続きを、始めよう」―――





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