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記憶

冬。


天より降りそそぐ雪は人の記憶。

私の住んでいる田舎ではそんな言い伝えがあった。


母はそれを「ロマンティック」だと評したが

私は「残酷」と返した。


積もった雪は春の訪れとともに溶けていく。

子供たちがつくった雪人形も姿かたちを失い

水となって消えていく。


人もまた同じもの。


記憶がその人物の人生そのもの―――

失われてしまったその人は

本当にその人だと言えるのだろうか。


いともたやすく記憶は消える。

春の雪のように。


しかし、記録を残すことで

人は失われた記憶を留めることができる。

そしてそれは誰かに届けることもできるのだ。


私はそれを「物語」と呼んだ。


本棚に並んだ書物はすべてが誰かの贈り物であり

ひとつひとつが世界を創造されている。


―――にも関わらず

創造主に見放され、結末へとたどり着けない「物語」がある


彼らは「なぜ」とその中で叫び問うている。


さあ、今こそ未完の物語に終止符を打とうではないか。

この―――

万奏(ばんそう)の筆によって


Omnia Ratio Canat


ツィドスキーは超然とした視線をカターニャに向けた。

「私は誰がそこにいたかは言ってないよ。なぜわかったのかね?」

カターニャは目を見開いて、一歩二歩と後ずさりしていく。

「それは、旦那様であればそう考えるであろうとわたくしめは考え……」

「素晴らしい慧眼だ。しかしそれは、あまりにも突飛すぎる思考と言わざるを得ない」

すると突然カターニャは懐から取り出したナイフを首にあてがった。


―――未完の物語『バイカルの底』より

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