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絢爛(1)

 もしも、過ぎ去ってしまったあの頃に戻って、もう一度過去をやり直すことができたのなら。

 私はきっと、すべてが始まったあの日に戻って、未来(いま)を生きる自分が楽になれるよう、行動するのだと思う。

 でも、君と出逢えた今の私は、こう言うだろう。君が私にしてくれたように、私も大切な人のために、さいごまで駆け抜けると。

「       」

 たとえすべてを失くしたとしても、君に伝えたいことがある。



 ああ、まただ。また、彼と目が合った。意図的に視線を動かしたわけじゃないのに、ふとした瞬間、視線の先で本を読んでいる彼と目が合うのだ。


 いつの間にか、必死に黒板の文字をノートに写していたはずの手は止まり、英文の羅列を追っていた目は彼の黒瞳に囚われている。そんなことが、最近よく起きている。


「——それ、恋の前兆じゃない?」


 そうあっけらかんとした顔で言ったのは、小学生の頃からの付き合いである由香だ。


 【来栖くんと、よく目が合う気がする】と打ち込まれている画面から私に視線を戻すと、にっこりと微笑んだ。


 そんなこと、あるわけない。そう示すように顔のまで手を左右に振った私は、由香に私の言葉を届けるために使っていたスマートフォンを、ブレザーのポケットに滑らせた。


 由香は「あるんだな、それが」と意味不明な言葉を呟くと、私の背中を軽く叩いて、声を上げて笑う。


 私はすっかりその気でいる由香の背を見送り、机の上に転がっているシャープペンシルを掴み、再び手を動かし始めた。


 けれど、それもつかの間。ノートに授業内容の続きを書くはずだった私の意識は、攫われたように、彼へと向けられていた。


 彼の名前は、来栖(くるす)くん。苗字が珍しいせいで、下の名前は忘れてしまった。


 彼は窓側にある自分の席で、いつも難しそうな本を読んでいる、顔立ちをしている綺麗な男の子だ。


 そんな彼と、私はよく目が合う。ふとした瞬間で、偶然に起きていることだけれど、こうも頻繁にあると、実はこれは運命的な何かなのではないかと思ってしまう。


 今日この日、この場所で、この瞬間に視線が交わる。そんな運命が、私の人生のシナリオに書かれているんじゃないかと思ったのだ。


 そのシナリオは誰が書いているんだ、と怒られてしまいそうだが。

 

 まるで何かの漫画やドラマにありそうな設定だなあと思った私は、心の中で自分に馬鹿ね、と囁いた。そうして、仕舞ったスマートフォンを取り出し、写真を撮ることができるアプリを開く。


 もしも、運命なんてものが、この世に存在するのだとしたら。私の物語の結末が、初めから決まっているのだとしたら。

 それを変えることができる人は、存在するのだろうか。


(…もしも、存在しているのなら)


 結末を迎える前に、大切な人のために走りたい。なんて、らしくもないことを思ってしまった。


 どうして私はそんなことを思ったのだろう。そんな存在は、私にはいないはずなのに。


 風に揺られている木々を窓越しに一目見て、私は画面に指を押し付けた。


 このシャッター音が、三度目の秋の始まりだとは知らずに。

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