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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
五章 私が取り戻せたもの、取り戻せなかったもの

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18話

「……陛下」

 陛下は憂いを帯びた表情をしていた。

「ロイゼ、私と――……少しだけ話さないか」

 告げられた言葉は、初夏の空気にゆっくりと溶ける。

 陛下が話したいのは、魔術師団長の私だろうか?

 それとも、竜王陛下の運命の番であるロイゼ?

「…………」

 意図がわからず、答えるのを躊躇った。

 そんな私を深青の瞳が見つめる。

返事を急かすことなく、私の答えがでるのを待っていた。


「……はい」

 小さく頷く。

 魔術師団長に求められるエルマの件の話だろうと、運命の番に求められる何かでも。私には、陛下と話す責任があった。


 ……陛下と並んで歩く。

 かつての私が焦がれたことの一つである、アレックスの生まれ変わりと並び立つこと。


 その一つが達成されている。


 そう思うと、少しだけ気分が上向いた。

「…………」

 ……とはいえ。

 無言で歩き続ける陛下の横顔を盗み見る。竜王家に引き継がれる、銀髪も深青の瞳も変わっていない。

 アレックスがどんな表情だったのか、声だったのかは、記憶喪失以来、朧げにしか思い出せないけれど。


 謎の探究という目標は今、私を突き動かす大事な道標だ。それでも、かつて焦がれた熱の消失は、私の胸の中にたしかな空洞を作っている。


 ……でも。

 もしかしたら、ようやく私は、「運命の番」である陛下、ではなく、今目の前にいるハロルド・ソフーム陛下自身と向き合う機会を得たのかもしれない。


 そしてそれは、この胸に空洞がある以上に、大事なことかもしれなかった。


 ……ふ、と前を見ていた、深青の瞳がこちらを向く。


「……ロイゼ」

 困ったような声音に、慌てて頭を下げる。

「申し訳ございません」

 この人は一国の王なのだ。

 不躾にじろじろ見るべきではなかった。


「違う、そうじゃなくて……少し、緊張するから」

「緊張、ですか?」

 私の脳内では、変わらず魔力糸が映像を流し続けている。

 特に危険はなさそうだけど……。


「君に見つめられると、緊張する。私が変な顔をしていなかったかと思って」

「陛下はいつも麗しいですが……」

 そういえば、記憶喪失のときの第一印象は、美しい人だった。

 まさか一国の王であり、私の運命の番だとは、さすがに思い至らなかったけれど。


「! …………はぁ」

 陛下は少しだけ目尻を赤くしたかと思うと、谷より深いため息を吐いた。


「陛下?」

 気の利いた返しができず、失望させてしまったかも。

「いや……君は、変わらないな。そうだ、君は変わらない……あの頃のまま、だから……」


 ――きっと、変わったのは、変わってしまったのは、私の方だ。


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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! 陛下。全く、それな。です。
>私には、陛下と話す責任があった。  おー、ロイゼさん、カッコよ、です。引導でも渡すのでしょうか… いやいや。ハロルド陛下が崩壊するかも、です笑〜  作者様、ご更新誠にありがとうございます。  記憶…
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