18話
「……陛下」
陛下は憂いを帯びた表情をしていた。
「ロイゼ、私と――……少しだけ話さないか」
告げられた言葉は、初夏の空気にゆっくりと溶ける。
陛下が話したいのは、魔術師団長の私だろうか?
それとも、竜王陛下の運命の番であるロイゼ?
「…………」
意図がわからず、答えるのを躊躇った。
そんな私を深青の瞳が見つめる。
返事を急かすことなく、私の答えがでるのを待っていた。
「……はい」
小さく頷く。
魔術師団長に求められるエルマの件の話だろうと、運命の番に求められる何かでも。私には、陛下と話す責任があった。
……陛下と並んで歩く。
かつての私が焦がれたことの一つである、アレックスの生まれ変わりと並び立つこと。
その一つが達成されている。
そう思うと、少しだけ気分が上向いた。
「…………」
……とはいえ。
無言で歩き続ける陛下の横顔を盗み見る。竜王家に引き継がれる、銀髪も深青の瞳も変わっていない。
アレックスがどんな表情だったのか、声だったのかは、記憶喪失以来、朧げにしか思い出せないけれど。
謎の探究という目標は今、私を突き動かす大事な道標だ。それでも、かつて焦がれた熱の消失は、私の胸の中にたしかな空洞を作っている。
……でも。
もしかしたら、ようやく私は、「運命の番」である陛下、ではなく、今目の前にいるハロルド・ソフーム陛下自身と向き合う機会を得たのかもしれない。
そしてそれは、この胸に空洞がある以上に、大事なことかもしれなかった。
……ふ、と前を見ていた、深青の瞳がこちらを向く。
「……ロイゼ」
困ったような声音に、慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません」
この人は一国の王なのだ。
不躾にじろじろ見るべきではなかった。
「違う、そうじゃなくて……少し、緊張するから」
「緊張、ですか?」
私の脳内では、変わらず魔力糸が映像を流し続けている。
特に危険はなさそうだけど……。
「君に見つめられると、緊張する。私が変な顔をしていなかったかと思って」
「陛下はいつも麗しいですが……」
そういえば、記憶喪失のときの第一印象は、美しい人だった。
まさか一国の王であり、私の運命の番だとは、さすがに思い至らなかったけれど。
「! …………はぁ」
陛下は少しだけ目尻を赤くしたかと思うと、谷より深いため息を吐いた。
「陛下?」
気の利いた返しができず、失望させてしまったかも。
「いや……君は、変わらないな。そうだ、君は変わらない……あの頃のまま、だから……」
――きっと、変わったのは、変わってしまったのは、私の方だ。
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