表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
一章 私が消えるまで
9/71

9話

 結局、エルマを見つけられないまま、翌朝になった。

「……はぁ」

 王城の廊下を歩きながら、ため息をもらす。 

 エルマと話ができなかったこともそうだけど、ノクト殿のこともため息がもれた原因だった。

「ノクト殿……」

 あんな苦しそうな顔、初めて見た。

 深く傷つけてしまった彼と、もう一度笑い合える仲に戻れるのかな。

 まだ隠し事をしたままの私と、まっすぐな彼。


「早く陛下に会えれば――」

 

 竜王陛下に運命の番のことを話せば、他の誰に言っても問題はなくなる。


 月に一度の面談をどうにかしてずらせれば、あるいは。

 だけど、面談はしたばかりだ。

 それもエルマの乱入という形で終わりを告げた。


 竜王陛下は、言った。

 エルマこそが運命の番だと。

 でも、それでは、私がまだ王太子だった頃の陛下を見て、沸き上がった感情は何だったのか。

 私の中に残る温かな記憶の正体は、何なのか。


「全部、ただの夢なのかな……」


 いっそのこと、そう思った方がいい。

 そうすれば、エルマと竜王陛下のことを素直に祝福できるし、ノクト殿に隠し事もなくなる。

 エルマのあのときの表情も、番を取られるのを危惧した顔だと納得できる。


 でも。

 心が、そうではない、と告げていた。


「独り言をつぶやいて、どうしましたか、団長」

「――あ」


 後ろから聞こえた声に思わず振り向く。

 穏やかな、声。

 まるで敵意や憎しみなんて感じられない。

 でもその中からは、確かに以前は感じられたはずの『親しみ』が消えていた。


「……ノクト殿」


 ノクト殿は、私と目が合うと首を傾げた。

「どうされました? 顔色が悪いですよ」

 微笑みさえ浮かべているその顔からは、けれど一切の友愛が感じられない。

 ……ああ、私は。


「ノク――」

「今朝は良い天気ですね。これなら朝礼も外でできそうだ」


 窓から差し込む陽光に、金の瞳が反射して、目が眩しい。

 その眩しさに眩んだ瞬間に、追い抜かれる。


「――ノクト殿」

 待って、いかないで。

 私、まだ、あなたに……。


 大切な師で友人で副団長の彼を引き留めようと伸ばした手は、届くことなく宙をかく。


 それは、明確な拒絶だった。


「ああ、そういえば」


 ノクト殿が振り返らないまま、足を止めた。

「今朝の朝礼には、竜王陛下がいらっしゃるようですよ」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ