9話
結局、エルマを見つけられないまま、翌朝になった。
「……はぁ」
王城の廊下を歩きながら、ため息をもらす。
エルマと話ができなかったこともそうだけど、ノクト殿のこともため息がもれた原因だった。
「ノクト殿……」
あんな苦しそうな顔、初めて見た。
深く傷つけてしまった彼と、もう一度笑い合える仲に戻れるのかな。
まだ隠し事をしたままの私と、まっすぐな彼。
「早く陛下に会えれば――」
竜王陛下に運命の番のことを話せば、他の誰に言っても問題はなくなる。
月に一度の面談をどうにかしてずらせれば、あるいは。
だけど、面談はしたばかりだ。
それもエルマの乱入という形で終わりを告げた。
竜王陛下は、言った。
エルマこそが運命の番だと。
でも、それでは、私がまだ王太子だった頃の陛下を見て、沸き上がった感情は何だったのか。
私の中に残る温かな記憶の正体は、何なのか。
「全部、ただの夢なのかな……」
いっそのこと、そう思った方がいい。
そうすれば、エルマと竜王陛下のことを素直に祝福できるし、ノクト殿に隠し事もなくなる。
エルマのあのときの表情も、番を取られるのを危惧した顔だと納得できる。
でも。
心が、そうではない、と告げていた。
「独り言をつぶやいて、どうしましたか、団長」
「――あ」
後ろから聞こえた声に思わず振り向く。
穏やかな、声。
まるで敵意や憎しみなんて感じられない。
でもその中からは、確かに以前は感じられたはずの『親しみ』が消えていた。
「……ノクト殿」
ノクト殿は、私と目が合うと首を傾げた。
「どうされました? 顔色が悪いですよ」
微笑みさえ浮かべているその顔からは、けれど一切の友愛が感じられない。
……ああ、私は。
「ノク――」
「今朝は良い天気ですね。これなら朝礼も外でできそうだ」
窓から差し込む陽光に、金の瞳が反射して、目が眩しい。
その眩しさに眩んだ瞬間に、追い抜かれる。
「――ノクト殿」
待って、いかないで。
私、まだ、あなたに……。
大切な師で友人で副団長の彼を引き留めようと伸ばした手は、届くことなく宙をかく。
それは、明確な拒絶だった。
「ああ、そういえば」
ノクト殿が振り返らないまま、足を止めた。
「今朝の朝礼には、竜王陛下がいらっしゃるようですよ」
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