15話
「……ふふっ」
エルマは、ノクト殿の言葉に小さく笑った。
「それなら、意味ないわ。だって、ノクト様は最初から私の王子様だもの」
「残念、交渉は決裂というわけだ」
ノクト殿は甘い微笑を消すと、牢越しに何かを掲げた。
「『これ』に見覚えは?」
映像を拡大する。
それは7枚の花弁をもつ、紫色の花だった。
「……綺麗な花ね」
「そうだね、綺麗な花だ。でも、知っての通り、ただ綺麗なだけじゃない」
紫の花の茎をくるくると手の中で回転させながら、ノクト殿は続けた。
「さて、エルマ嬢。君には、自由がある。……今、ここですべてを話し減刑を求めるか。それとも、黙ったまま死を待つか。二つに一つだ。どうする?」
「…………」
エルマは、桃色の瞳を細め、ゆっくりと微笑んだ。
「そうね……三つ目、かしら。だって、全部話しちゃったら、ノクト様、もう会いに来てくれないでしょ? それに、減刑なんて興味がないわ」
エルマは、死にたくないと言っていた。
それなのに、減刑に興味がない、と言う。
この牢から再度抜け出すための算段があるということかしら。
「……目的、手段、理由、のうちの理由を今話すわ。手段の一部は、目星がついているんでしょうし。でもそれだけだと私に利益がない」
「君の望む対価は、なにかな」
エルマは美しく微笑んだ。
「私の手を握ってくださる?」
「…………」
無言でノクト殿はエルマの指を見つめる。そして、数分の後、ふ、と息を吐いた。
「わかった。理由は、君本人にしか話せないからね」
「私が運命の番を騙った理由は――」
私の……ロイゼ・イーデンの青い春。
エルマが運命の番に成り代わりたかった理由。
息を呑んで、その続きを待つ。
「ロイゼにずっとむかついていたからよ。……だから、誰にもこの役を譲りたくなかったの。それだけ」
――むかついていた。
その言葉は、確かに私の胸を引っかいた。
でも、その言葉よりも、ずっと、ずっと気になるのは。
「『誰にも』?」
ノクト殿も私と同じ言葉に引っかかったようだった。
エルマはその言葉には応えず、ノクト殿に手を差し出した。
「…………」
じっとエルマを見つめた後、ゆっくりとノクト殿はエルマの手を片手で握った。
手を握るというロマンスめいた仕草よりは、握手に近い握り方だ。……けれど。
「……ふふ」
満ち足りた表情で、エルマは笑う。
春に芽吹いた花の様な美しいその笑みは、どこからどうみても恋する乙女のそれだった。
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