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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
五章 私が取り戻せたもの、取り戻せなかったもの

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15話

「……ふふっ」

 エルマは、ノクト殿の言葉に小さく笑った。

「それなら、意味ないわ。だって、ノクト様は最初から私の王子様だもの」

「残念、交渉は決裂というわけだ」

 ノクト殿は甘い微笑を消すと、牢越しに何かを掲げた。

「『これ』に見覚えは?」

 映像を拡大する。

 それは7枚の花弁をもつ、紫色の花だった。


「……綺麗な花ね」

「そうだね、綺麗な花だ。でも、知っての通り、ただ綺麗なだけじゃない」

 紫の花の茎をくるくると手の中で回転させながら、ノクト殿は続けた。

「さて、エルマ嬢。君には、自由がある。……今、ここですべてを話し減刑を求めるか。それとも、黙ったまま死を待つか。二つに一つだ。どうする?」

「…………」

 エルマは、桃色の瞳を細め、ゆっくりと微笑んだ。

「そうね……三つ目、かしら。だって、全部話しちゃったら、ノクト様、もう会いに来てくれないでしょ? それに、減刑なんて興味がないわ」

 エルマは、死にたくないと言っていた。

 それなのに、減刑に興味がない、と言う。

 この牢から再度抜け出すための算段があるということかしら。

「……目的、手段、理由、のうちの理由を今話すわ。手段の一部は、目星がついているんでしょうし。でもそれだけだと私に利益がない」

「君の望む対価は、なにかな」


 エルマは美しく微笑んだ。

「私の手を握ってくださる?」

「…………」

 無言でノクト殿はエルマの指を見つめる。そして、数分の後、ふ、と息を吐いた。

「わかった。理由は、君本人にしか話せないからね」

「私が運命の番を騙った理由は――」

 私の……ロイゼ・イーデンの青い春。

 エルマが運命の番に成り代わりたかった理由。


 息を呑んで、その続きを待つ。

「ロイゼにずっとむかついていたからよ。……だから、誰にもこの役を譲りたくなかったの。それだけ」


 ――むかついていた。

 その言葉は、確かに私の胸を引っかいた。

 でも、その言葉よりも、ずっと、ずっと気になるのは。


「『誰にも』?」

 ノクト殿も私と同じ言葉に引っかかったようだった。

 エルマはその言葉には応えず、ノクト殿に手を差し出した。

「…………」

 じっとエルマを見つめた後、ゆっくりとノクト殿はエルマの手を片手で握った。

 手を握るというロマンスめいた仕草よりは、握手に近い握り方だ。……けれど。


「……ふふ」

 満ち足りた表情で、エルマは笑う。

 春に芽吹いた花の様な美しいその笑みは、どこからどうみても恋する乙女のそれだった。



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