11話
ノクト殿はそこまで言うと、視線を上げた。
その視線の先にあるのは、団長と副団長ーーつまり私たちの肖像画だ。
私もそちらに視線を向ける。
あの肖像画を描いてもらった日を覚えている。
ロイゼ・イーデンを構成するとても大切な日のひとつだ。
「ーー……」
微笑みをむける私たちの姿は、鮮やかに8年間の記憶を呼び覚ます。
入学式、いきなり魔法を教えてほしいといった私を受け入れてくれたときのこと。
魔法の特訓で私が死にかけたときにとても心配されたこと。
遠すぎる目標を笑わないでくれたこと。
孤児院の慰問で子供たちとたくさん遊んだこと。
師弟関係を卒業した日のこと。
学園の主席と次席が発表された瞬間のこと。
魔術師団の部隊長をそれぞれ任された日に贈りあった花のこと。
たくさんの記憶が細波のように浮かんでは消えていく。
「……僕が」
肖像画から私へと視線を移した金の瞳。
その瞳には、深い後悔が映っている。
「ーーぎりぎりのところで踏ん張っていた君の背中を、僕の言葉が突き飛ばしたんだ」
その言葉は、震えていた。
「僕が……あのとき僕がロイゼの力になるべきだったのに。君は隠し事はしても、嘘をつかないって、僕はずっと知っていたのに。僕が幼稚だったからーー」
そこで言葉を止めたノクト殿は、一度目を閉じた。
「君ともう一度話せて本当にーーよかった」
……ああ。
開かれた瞳と共に言われた言葉に、そっと息を吐き出す。
浮かぶのは、記憶をなくしてからのこと。
私が記憶をなくしてからも、ノクト殿はずっと優しかった。
私に魔法の使い方を教えてくれて、住む場所も与えてくれた。
でも、その瞳にはずっと深い後悔があって。
「……ノクト殿」
その名を呼ぶ。
ずっと、私に優しさを向けてくれた人の名前を。私がずっとその優しさにつけ込んでいた人の名前を。
「ーーごめんなさい」
私は、何もわかっていなかった。
ノクト殿は自身を幼稚だと言っていたけれど……。それなら、私は。
「私は、ずっと自分が苦しいことばかりで、消失魔法だって……」
消えたかった。
塵ひとつ残さず、消えてしまいたかった。
でも、目の前で消失魔法を使われたノクト殿の気持ちなんか、少しも考えていなかった。考えられなかった。
ノクト殿を友と呼んでおきながら、その友が傷つくことまで考慮にいれられなかった。
「……ちがうよ、ロイゼ」
ノクト殿は首を横に振り、俯いた。
「君はちっとも悪くない。……悪いのは、僕も含め君を追い詰めた者たちだ」
……だから。
小さくつぶやかれた言葉と共に、金の瞳と再び目が合う。
「僕は『なんでも』する。君のためなら、なんだって」
ーーその言葉に呼応するように、ノクト殿の魔力が立ち上がった。
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