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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
一章 私が消えるまで
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8話

 エルマが、竜王陛下の運命の番。

 そう聞こえて思わず執務室を飛び出した。


 話していたのは、エルマが隊長を務める第6部隊の隊員たちだった。


「……すみません、団長。うるさかったでしょうか?」


「……執務室の中まで聞こえていたのは、事実です」

「大変失礼いたました!」


 しゅんと反省した様子で私を見つめる隊員たちを見つめ返す。


「あなたたちが先ほど話していた内容だけど……」

「エルマ隊長の話でしょうか!」


 途端に瞳をきらきらと輝かせる隊員たち。


 そういえば第6部隊は、エルマの信奉者が多いとノクト殿の記載で見た。


「そうです。エルマがどうしたの?」

「隊長からはまだ内密に、とのことですが、団長にお話しします」


 一人が一歩前に出て、私に耳打ちした。


「エルマ隊長は、『竜王陛下の運命の番』だったんです」

「……」


 どうやら先ほどの言葉は聞き間違いではなかったらしい。


「団長? 大丈夫ですか、顔が真っ青ですよ」

「あ、そうだ。団長は隊長のご親友でしたね。安心してください、我々も先ほど聞いたばかりなので」


 隊員に先に話した嫉妬のせいで顔色が悪いと思われたようで、口々にフォローされる。


 実際にはその話は、昨日エルマから言われている。


「大丈夫です、隊長の親友は団長だけですから」

「そうです、そうです」


 ――もう隊員にまで話が広がっている。


 話したのはエルマ自身だろう。

 ……ということは、エルマは撤回する気がないのね。


 竜王陛下の運命の番は、国の栄衰に関わる。

 これまでの伝承によると、運命の番と結ばれたときの天候の安定や流行病の減少率は目を見張るものがあるらしい。


 前世で運命の番を立てなければ、特に何もないようで、逆に運命の番と結ばれなかった例は残っていない。


 また、竜王の運命の番を詐称した例もない。


 なぜなら、生まれ変わっても運命の番のことは記憶に残っているし、必ず片方は一眼見るだけで、気づくようになっているから。



「それにしても、竜王陛下の運命の番が親友だなんて! 鼻が高いですね!!」

「ふふふ、私たちも同じ隊として鼻が高いですけどね!」



 わいわいと二人でエルマの話に盛り上がり出す隊員たち。


「エルマ隊長って、どうしてあんなに美しいのかしら」

「本当に太陽みたいな眩しさよね! はぁー、今日も美しかったわぁ」


 廊下を通る時は話し声を落とすように注意してからその場を立ち去る。


 エルマは、どこにいるんだろう。


 エルマ、たった一人の私の親友。

 もう終業時間は過ぎているから、寮だろうか。



 ――ごめんなさいね、私が陛下の運命の番だったの。だから、諦めて。



 そう言ったときのエルマの表情がふいに蘇る。


 エルマ、あなたは……もしかして、私のことを。


「まずは、確認しないと」


 頭を振って気持ちを切り替える。

 けれど、女子寮にエルマの姿はなかった。

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