7話
「っ、そんなこと――」
「ない、とは言い切れないはずだ。……もういいよ。僕の勝手な期待とお節介を押し付けて、ごめん」
そう言って、ノクト殿が去っていく。
でも、私は彼を引き留める術を持たない。
なぜなら、私はノクト殿をはじめとした誰にも、前世を話していないから。
もちろん、団長を目指した理由も。
「……私は、」
前世のことは私とアレクの大切な思い出で。
そこを不可侵領域として、大切に守ってきた……というのももちろんある。
でも一番の理由は、「運命の番」の話を最初に話すのは竜王陛下でなければならないからだ。
相手が竜王陛下でなければよかった。
竜王にとっての「運命の番」は、特別だ。
国の栄衰に関わる。
……でも。
「――傷つけてしまった」
ノクト殿はずっと私を心配してくれていた。
そのことに気づかなかったことが、こんなにも苦しい。
……でも、そうだとしても私は。
――ミルフィア。
柔らかなかつての私を呼ぶ声を思い出す。
「……アレク、どうしよう」
一人残された執務室で、その名をつぶやく。
前世でどんな時でも助けてくれた、彼はいない。
ああ、それに。
君は私の運命の番じゃない。だから――君のことは選べない。
そう言われたんだった。
「……どうして」
竜王陛下は、エルマこそ運命の番だと言った。
私はノクト殿にもエルマにも運命の番の話はしていない。
竜王陛下と直接話をすればなぜ運命の番だと思ったのか、わかるかな。
二人きりだけの面談はまた一月後だ。
「それまでに、ノクト殿と仲直りできるかな……」
隠し事はまだやめられない。
でも、ノクト殿は大切な人だ。
師として、友として、副団長として。
関係性が移り変わっても、大切な一人であることは変わらない。
「理由は言えない。でも、信じて欲しいなんて――」
そんな身勝手なことを、彼は許してくれるだろうか。
――それに。
ごめんね、ロイゼ。
「エルマとも……話さなくちゃ」
でも……なぜ?
運命の番はともかくとして、私はエルマに竜王陛下への恋慕を伝えていない。
それなのに、なぜエルマは私の気持ちを知っていた?
考えるべきこと、やるべきことは沢山ある。
俯いている時間はないはずだわ。
「よし!」
頬を叩いて気合いを入れる。
そのとき、廊下から楽しげな声が聞こえてきた。
「――ええ!? そうなんですか!?」
「もう、ナルセったら声が大きいわ!」
「でも、だって――エルマ隊長が竜王陛下の運命の番だったなんて」
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