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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
四章 私の望み

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8話

 ノクト様の手が差し出される。

 手を重ねると、一瞬体が浮いたような感覚があり、次の瞬間には別の場所に立っていた。


「空間酔い……は、なさそうだね」

「はい」


 笑って離した手の先に見えたのは、大きな絵だった。


「ようこそ。ここが、君が働いていた場所だ」


 その証拠。

 ここが私の職場だったという証は、目の前にある。


 大きな絵画。

 今着ているローブとは違う。

 もっと複雑な模様が入ったローブに、桃色のバッジ。

 自信ありげに笑った私の横で、支えるように立っているのはノクト様だ。


 ノクト様は瞳と同じ金色のバッジをつけている。


「……」


 なぜだろう。

 今の私には何一つ身に覚えがない。

 遠い彼方の知らない過去のはずなのに。


 その絵を見た時、胸の中に『何か』が湧き上がった。


 嬉しい、とも、苦しい、とも違う何か。


 この感情は、なんだろう?


「この絵はね、僕たちの就任記念に描かれたものなんだよ」

「……そうなんですね」


 食い入るように絵を見つめる私の隣に立って、ノクト様は続けた。


「うん。……あ」

「どうしました?」


 なぜ、急に顔を覗き込まれたんだろう?


「ううん。さっきも思ったけど、桃色のアクセサリーつけてるんだね」


 髪を束ねるのに桃色のリボンを使ったのだ。


「……変でしたか?」


 魔術師団は、軍の役割も果たすと知識が囁く。

 華美なものではないとはいえ、魔術師団の隊員らしくなかったかな。



「ううん。やっぱり姿形が変わっても、君にこそ、似合う色だね」


 そう言って微笑んだ、ノクト様の顔が一瞬、何かと重なる。


『ロイゼ団長こそ、似合う色だと思います』



 そう言って、微笑んだのは。

 あの時、隣にいたのは。


「……ノクト殿」


 思わず口から滑り落ちた、その呼び名。


「え――」


 ノクト様が目を見開く。


「……いえ、すみません。前にもそんなこと、言われた気がして」


 でも、ノクト様の反応からして、違――。


「ううん、そうだよ、そうなんだ。この組織では、君は僕をそう呼んでた」

「!!」


 じゃあ、さっき一瞬浮かんだのは――私の記憶の欠片?



「ノクト殿」


 噛み締めるように、その名を呼ぶ。

 やっと見つけた、『私』の手がかり。


「……うん」


 頷いたノクト様の声は、少しだけ震えていた。


「もっと記憶を取り戻したいです。……ううん、私は、私を取り戻したい」


 今の私の感情は、凪いでいることが多い。

 でも、きっと、前の私はもっと喜怒哀楽があったはずだ。


 だって、この絵を見た時に感じたのは、きっと追憶の切なさ。

 過ぎ去った過去への憧憬。


「だから、もっと教えてください。前の私がどのようにしていたのか、どんな話をしたのか」

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
ノクトくんまで自分の願望をゴリゴリ押し付けないでおくれよ… (おそらく)ダブルヒーローものなのに陛下が対応微妙すぎて(いや、彼なりに考えて頑張ってるだろうが本能に逆らいきれないというか)ノクトまでまた…
 少しでも「ノクトにとって都合のいい」「言い訳がましい」匂いがすれば、ロイゼはもうノクトを頼ろうとはしないでしょうね。自分をノクトに便利なように組み立てられる事になる訳だから。  しかし、喉元過ぎてだ…
>もっと教えてください。前の私がどのようにしてたのか、どんな話をしたのか  信用ならず認定継続中のノクト殿でして、不穏フラグが立ちました笑〜 ノクト殿の邪な心は無垢なロイゼさんに耐えられるのか…
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