7話
約束の午後、笛をもう一度鳴らすと、ノクト様がやってきた、
「やぁ、ロイゼ」
そう言って微笑むノクト様の顔色は、あまり良くないように見える。
ただでさえ忙しいのに、時間を作ってくれたのだ。
申し訳ない。
「すみません、ご無理を言ってしまいましたね」
「そんなこと――……もしかして、僕、変な顔してた?」
「変……というより、疲れた顔をされています」
「あぁ、それなら違うよ。単純に夢見が悪かっただけ。ちょっとした、悪夢にうなされてね」
……本当かな。
でも、さらりと言われてしまっては、これ以上追求できるはずもなく。
「お時間を作ってくださり、ありがとうございます」
「そんなに畏まらないで。ロイゼが僕を呼んでくれて、頼ってくれて、本当に嬉しいんだ」
本当に幸せそうにノクト様は、笑う。
前の私は、ノクト様を頼らなかったのかな。いや、魔法を教わる時点で十分過ぎるほど頼っているだろう。
……とすると。
やはり、ノクト様と前の私との間にあった『何か』のせい?
「あの……」
「ん?」
聞きたいと、知りたいと思う。
私たちの間に何があって、何がそれほどまでにノクト様を駆り立てているのか。
……でも。
「いえ、なんでもありません」
首を振る。
隠された理由を暴き立てたところで、今の私には過程が抜け落ちている。
そんな私が知ったところで、きっと意味はない。
「そう? そういえば、手紙でも話した通り、姿を変えてもらうことになるけどいいかな?」
私の今の姿では、魔術師団に混乱を招くということで、魔法で姿を変えるのだ。
「はい。それでは、魔法を使いますね」
姿変えの魔法。
記憶を探ると確かにある。
やっぱり、魔法は私の財産だ。
「――どうですか?」
魔法で見た目とついでに声も変えて、ノクト様に確認してもらう。身長は、歩いた時に違和感が出ないように今と同じ。
瞳は魔法を使っても変えられないのでそのままだ。
顔立ちと髪型と髪色を変えるだけでも、雰囲気が変わるかなと思ったのだけれど……。
ノクト様は、じっくり私の爪先からてっぺんまで見つめて――。
「……天才だ」
「――え?」
「あぁ、ごめん。やっぱりロイゼは、凄いね。君の知識にもあると思うけど、姿変えの魔法は調整が難しいんだ。姿を変えようとしても、どうしても前と似た姿になってしまうからね」
ノクト様の言った知識を確認しつつ、髪をつまむ。
金色の髪も全然違うし、顔立ちもイメージ通りなら、今とはかなり異なるはずだ。
「細部までイメージしていないとこうはならない。記憶がないのに、ここまで別人になれるとは思わなかった」
「ありがとうございます。……師匠」
きっと、師匠の教え方が良かったのでしょう。
そう続けて微笑むと、ノクト様は驚いた顔をした。
「……」
「ノクト様?」
黙ってしまったノクト様の顔を覗き込む。
ノクト様の顔は耳まで真っ赤だった。
「ロイゼは……ほんっとうに」
「? はい」
「 」
首を傾げる。
唇だけを動かした言葉は、わからなかった。
「ノクト様?」
「ううん! よし、それじゃあ、後は――」
ノクト様が指を鳴らすと、私の服が変わった。
以前着ていた魔術師団長の制服と似ている――けど、ローブに入った模様が違うし、色も違う。
「これが、魔術師団員の一般階級の制服だ」
「そうなんですね」
なるほど。
くるりと回って確認する。
ドレスよりも動きやすい、いい制服だわ。
「それでは、行こうか。ロ――いや、名前も変えた方がいいね」
何にする?
……そう言われて、ふと浮かんだ名前は。
「そうですね、フィア、でお願いします」
「わかった。じゃあ、フィア。行こう――君の職場に」
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