6話
「団長……?」
「!!!」
――団長。
その言葉で、過去から現実に引き戻される。
そうだ、私は――。
「どうしました?」
俯いていた顔を上げる。
第3番隊の魔道具開発専門の少年が、私を見つめていた。
「あ、いえ――。ノクト副団長が探してました」
「ノクト殿が?」
そう言われて太陽を見ると、なるほどたしかに、このベンチに座る前よりかなり傾いていた。
「わかりました、ありがとう」
お礼を言って立ち上がる。
私は魔術師団の団長なのだ。
しっかりしなければ。
……本当に? だって、竜王陛下は私のことを――。
「……っ」
頭の中に浮かんだ考えを首を振って締め出す。
私は団長だ。
不純な動機からだとしても、現時点で私がその地位についていることは間違いない。
だったら、その地位に恥じないひとにならないと。
「ロイゼ団長?」
「――いえ。執務室へ戻ります」
少年に微笑んで、今度こそ執務室へと歩き出す。
ノクト殿、怒っているだろうな。
かつて師だった彼のことを考えながら、道を急いだ。
「……」
「団長」
執務室に戻ると、ノクト殿が腕組みをして待っていた。
「遅くなって、すみません」
……これは説教2時間コースかな。
まぁ、当然だ。
少しと言っておきながらかなり長い時間席を外していた。団長にしか処理できない書類もたくさんある。
随分と執務が滞ったに違いない。
ノクト殿によって防音魔法が展開されるのを感じた。
長い説教が始まるのを覚悟しながら、ノクト殿を見つめる。
ノクト殿は、つかつかと私に近寄った。
「……どうして」
「え、ああ、休憩時間が長すぎたことですね。それは、少しぼんやりしていて」
「違う! 僕が聞きたいのは、団長は――ロイゼは、どうして僕には何も言ってくれないんだ」
それは、初めて見る表情だった。
魔法を暴発させて私が死にかけていたときよりも、ずっと、苦しげな表情。
「ロイゼ、君は言ったね。絶対に魔術師団の団長になりたいって」
「――」
言った。
何度も他の人に馬鹿にされた。
それでも、私はアレクに竜王陛下に会いたい一心で駆け抜けてきた。
「目標に向かって、努力する君を見ていた。あまりにもひたむきで――触れると切れてしまう糸みたいで心配もしてた」
「!!」
そう、だったんだ。
たまに休憩だ、と言ってノクト殿が私にお菓子を持ってきてくれたのは、その心配からだったのかしら。
「……君が僕を越えても、この8年間僕はずっと君をみていた。いつか君が助けを求めたらこの手を差し出せるように」
ぎゅっと自分の手を握りしめたノクト殿は、ふ、と息を吐き出した。
「でも……君は団長を目指した理由も、今元気がない理由も何も教えてくれない。この8年間で君が見た僕は、そんなに信用がおけない人間なのか?」
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