4話
「……ああ」
ひとまずソファを勧め、陛下が座ったのを確認してから私も向かい側に座る。
「――エルマ・アンバーが姿を消した」
「……エルマ・アンバー?」
エルマ、ともう一度その名をつぶやく。
初めて聞く名前だ。
……少なくとも、今の私にとっては。
でも、違和感がない。
まるで、ずっと呼んでいた名前みたいだ。
「そうだ」
陛下は頷くと、私を見つめた。
「エルマ・アンバーは、侯爵家の令嬢であり、魔術師団の隊員でもあり、そして――」
そこで言葉を切った陛下は、長い息を吐き出した。
「陛下?」
「……いや。そして――、君の親友であり、私の運命の番を騙った人物だ」
私の親友ならば、エルマという名前が口馴染みが良かったのも納得だわ。
……でも。
「彼女は運命の番を偽称するだけの何かがあったということですね」
何の証拠もなしに、陛下が運命の番だと思うことはないだろうし。
「なぜ彼女が偽称できたのかは、調査中だった。……現在は、貴人牢に魔法封じの腕輪をつけた状態で捕らえていた」
……なるほど。
頭の中で知識を探す。
魔法封じの腕輪は、特殊な石で出来ており、一度つけられれば、自力で外すことは不可能に近い。
そして、魔法封じの腕輪は、基本犯罪者につけられるため、探知機能も備わっている。
この様子だと、その探知機能も生きていない、つまり、単純に脱獄しただけではなく、腕輪も外されたのだろう。
「彼女――エルマ・アンバーは、君に成り替わろうとしたんだ。……確かな狙いは明らかではないが、君に危害を加えようとする可能性がある」
「……それで、来てくださったのですね」
先ほどの陛下の様子を思い出す。
「ああ。……ロイゼ、不便をかけてしまうことになるとは思うが、しばらく外出を控えて欲しい。この邸の中は、強い魔法防壁が張られているから、城には劣るが、外よりは遥かに安全だ」
「……番に何かあれば、盟約により陛下にも影響がでますものね」
以前、盟約について話していたときのこと思い出しながそう伝えると、陛下は顔色を変えた。
「違う! 盟約や番などではなく、君が、ロイゼが心配なんだ」
それは……どうだろう。
運命の番だから、盟約があるから、価値があるし心配するのだったら、納得がいく。
「私は君に番だと告げられる前から、君のことを知っていた。……とても熱心な平民出身の魔術師がいると」
真っ直ぐな深い青の瞳は、私だけを映す。
「君についての報告を聞くたびに、自分のことのように嬉しかった。何がそこまで君を駆り立てたのか当時はわからなかった。それでも、国を守り、目標まで必ず辿り着くのだと笑っていた君が、誇れる国にしたいと、そう思っていた。だが……」
その深青の瞳は、深い後悔に満ちていた。
「私は間違えて、君を傷つけ、そして――君から記憶を奪った」
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