18話
「……ありがとう、カイゼル」
言葉には打算がなく、素直な賞賛だった。
だから、私も素直に受け止められた。
「いいえ。では、銀行までご案内しますね」
カイゼルにエスコートされて、街を歩く。
さすが王都なだけあって、活気がある。
はぐれないように気をつけているうちに、あっという間に銀行に着いた。
「近いのね」
「はい。足は痛みませんか? 近くなので徒歩の方が早いと思い、馬車は使いませんでしたが……」
きめ細やかな心配に思わず、微笑む。
「ありがとう。歩調を合わせてくれたおかげで、靴擦れもしてないわ」
「いいえ……本当に彼の方とは大違いだ」
彼の方? 誰のことだろう。
小さく呟かれた言葉に首を傾げる。
「あぁ、いえ。ロイゼ様の前でする話ではありませんでした。申し訳ございません」
「いいえ、謝る必要はないわ。それより……」
なぜだか、その人のことが気になり、深く聞きたくなった。
「――ロイゼ?」
自分の名前に思わず、振り向く。
「……」
目の色も、なんなら髪の色も違う。
でも、この顔と声は――。
「陛下?」
――竜王陛下が銀行の前に立っていた。
頭の中で囁く知識によると、竜王陛下の財産は、城で管理されているはずだ。
つまり、ここにはない。
それなのに、なぜ銀行に来ているのだろう。
竜王家特有の色を隠しているあたり、いかにもお忍びなのだろうけれども――。
「……ああ。この姿では、ハロルドと」
陛下とこの国で呼ばれるのは、竜王のみだ。
だから、陛下呼びではせっかくの変装も台無しだろう。
「かしこまりました、ハロルド様」
陛下は頷くと、周りにいた側近らしき人たちに合図をする。
すると、側近たちは人混みに溶け込んでいってしまった。
……その様子を眺めていて、はっとした。
まだ、お礼を言っていない。
「ハロルド様、たくさんの贈り物をありがとうございました」
「急いで用意したので、君が気に入ったものがあったなら良いのだが。……そのドレス、とても似合っているな」
「ありがとうございます。ハロルド様のおかげで、快適に過ごしております」
丁寧に、礼をする。
今着ているドレス代と他のドレスの返品の件……はわざわざ立ち話でする話ではないかな。
それに竜王は多忙、という知識も浮かんできた。これ以上時間を取らないために、別れの挨拶をしよう。
「本件については、また後日改めて、お時間をいただけましたらと思います。それでは、失礼いた――」
「待ってくれ」
挨拶の途中で陛下に遮られ、首を傾げる。
「はい、いかがなさいましたか」
「なぜ、そんなにも他人行儀なんだ」
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