5話
――翌日。
私は魔術理論の教本を抱えながら、女子寮から学校へと走っていた。
教本は難しく、何度も何度も遡って前の頁を確認しながら読んだ結果、寝坊したのだ。
全て読み切ることはできたし、頭の中には入ったけれど、授業を欠席すれば意味がない。
授業が始まるまで、あと2分。
……全速力で走り続けられれば間に合う。
「あと、少し――」
息を切らしながら走っていると、上から歓声が聞こえた。
走りながらそちらに視線を向ける。
他の生徒たちが校舎の窓から身を乗り出して私を見ていた。
どうやら、貴族が多いこの魔術学校では、平民が爆走している姿が物珍しかったようだ。
「まだ間に合うぞー!」
「間に合う方に俺は賭けたからな!! 走り切ってくれよ!」
応援してくれる声の中で、嘲る声が聞こえた。
「見て、あの顔」
「はしたないわ、さすが平民ね」
かっと頬が熱くなる。
少しでも早く学校に着いて、この声を止めたい。そう思って走る速度を上げようとした。
「――っ!?」
それがいけなかった。
無理に回転速度を上げたせいで、足がもつれる。
「……あ」
それでも、ノクト様から借りた教本があるから手をつけない。
地面が、近づく――。
「!!」
衝撃に備えて目を閉じる。
その瞬間、ふわり、と体を風が包んだ。
「え――」
「大丈夫?」
――鈴を転がしたような、声だった。
「ふふ、ぎりぎり魔法が間に合ったわね」
楽しげな声に目を開ける。
まず目に入ったのは、陽光を受けて輝く、金の髪。
そして、特徴的な桃色の瞳。
「あなたの走り、見事だったわ!」
そういう桃色の瞳に嘲りは感じなかった。
「……助けてくれてありがとうございます」
体がふわっと浮いた魔法、すごかったわ。
――私はまだ、あんな魔法は使えない。
「ううん。私はエルマ、エルマ・アンバー。アンバー侯爵家の次女よ。あなたの名前は?」
彼女は――エルマは微笑んで私にハンカチを差し出した。スノードロップの刺繍の入った、可愛らしいハンカチだった。
そのハンカチをありがたく受け取りながら、微笑み返す。
「私は、ロイゼ・イーデンです」
――これが、のちに親友となるエルマとの初めての出会いだった。
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