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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
二章 私が消えたあと

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ハロルド 1-6話

 ――どれほど、羽ばたき続けただろうか。

「……ついた」

 吐いた息が白い。


 そこは、天に御座す神々と私たちの世界の境界の空間だった。


 ――この先を行けば、戻れなくなるかもしれない。


 本能的な恐怖が、羽ばたきを止めようとする。


「知ったことか」


 それを抑えつけて、無理やり翼を動かす。


 境界の空間には、引く力は存在しない。

 だから、羽ばたきをやめても落ちることはないが、それでは進めないのだ。


 その空間には、小さなものばかりが浮いていた。


 石、先程の水差し、アクセサリー……。


「こっちだな」


 ロイゼの灯火を感じる。

 そちらの方へと進む。


 徐々に空気が薄くなる。


 胸が苦しくてたまらない。


 こんな場所にロイゼは――。



 ――早く、早く。

 

 急く心とは反対に、翼の動きが鈍くなる。

 

 ――早く、早く。


 それでも、少しでも早く動こうと、手足をバタバタと動かした。


 その時間が永遠とも呼べるほど長く、続いた。


「……ロイゼ」


 ――淡い光が何かを包み込んでいる。

 その中に――とらえた。


「ロイゼ!!」


 彼女の名を呼び、抱きしめる。

 いつのまにか、手足は人のものに戻っていた。


 固く瞼を閉じたその体は、凍えきっている。

 心音も弱い。


「――急がねば」


 













 ――ただ、夢中だった。

 ロイゼを抱き抱えながら、飛び続ける。


 ――私に魔法が使えたら。

 ――私が間違えなければ。

 ――私が信じていれば。


 後悔が幾度も私を襲った。


 それでも、翼だけは止めなかった。




 ――私を呼ぶ声が聞こえた。

「陛下!!!」


 ……副団長だ。

 ああ、もうすぐ、私の部屋だ。



 ――ロイゼの心音はまだ、聞こえている。



 副団長が、窓から飛び出してきた。

 そうか、彼は魔法が使えるのだったな。


「ロイゼを、頼む」


 ロイゼを彼に抱かせる。


「できるだけ温めて、それに医者も――」

「かしこまりました!!」


 彼は泣きそうな顔でロイゼを抱くと、頷いた。

「陛下も休まれてください」

「そうさせてもらう」


 自室についたのと、意識が遠のいたのは同時だった。



◇◇◇




「……ロイゼ、は」


 はっ、と目を覚ます。

「ロイゼ、ロイゼは――」

「隣室で眠っておいでです」


 側近の言葉に、ベッドから飛び降り、隣室へ向かう。


 隣室では、副団長がロイゼのそばについていた。


「――陛下。医師によると、あとは本人の生命力次第だと」

 一睡もしていないことがわかる、顔だった。


「ありがとう。私が代わろう。君も、休め」


 私の言葉に頷いた彼の代わりに、ロイゼの手を、握る。


 ベッドで眠るロイゼの心音は、先ほどまでよりも、ずっと強くなっていた。


 手を握りながら、祈る。


 ――何を犠牲にしても構わない。


 君が、もう一度、目覚めてくれるなら。


 ――何と引き換えにしても構わないから。だから、どうか……。


 ずっと、ただそれだけを祈り続けた。


「!」



 ――朝日が昇る頃。

 ぴくり、と手が動いたのを感じる。


 思わず祈るために閉じていた目を開け、ロイゼを見る。


 ロイゼが長いまつ毛を震わせた。


「ロイゼ、ロイゼ……」


 名前を呼ぶ。

 取り戻すように、呼び戻すように。


「!!」


 ロイゼが、瞼を開いた。

 焦点がまだあっていないようで、ゆっくりと、瞬きをする。


 そして――、私をとらえた。


 紫水晶の瞳に、私が映る。

 偽物ではない多幸感が、あふれる、

 涙が、零れる。


 でもーー。


「……あの? だれ、ですか?」


 ――世界が崩れ落ちる、音を、聞いた。

 


これにて二章終了です!ここまでお付き合いくださり、ありがとうございまさ。

先にエルマ編をするか三章をするかのアンケートがTwitterにあるのでぜひお願いします!!


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!

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お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
分岐フラグきた!? 両方見てみたい。
節穴様もトッチャン坊やも可愛いっちゃ可愛い。 ただし可愛さを愛でるのと伴侶選びは別。 もしも可愛さを愛でる生き方するなら自立して猫様の下僕になろうぜ、ロイゼ。
読者がこれだけ感情移入してヒロインに肩入れしてヒーローにブチ切れているのは、それだけ作者様の書き方がお上手だからなんだなと実感しています! 元サヤになろうがどうなろうが作者様のお気に召すままでござい…
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