ハロルド 1-5話
「……消失魔法の詳細、ですか?」
副団長が怪訝な顔をする。
「ああ。それから――エルマ・アンバーの捕縛指示を彼女を護衛している騎士に出しておけ」
側近の一人にそう告げる。
「しかし、彼女は侯爵家の人間で――」
「竜王の番を騙り、貶めた。理由はそれだけでも十分だ。それにアンバー侯爵の手の者が城へ迫っている。逃がされる前に急げ」
竜の目は広い範囲を見渡せる。
実際には瞳には映っていないことも。
「はっ!」
側近たちがばたばたと出ていったのを確認して、副団長に向き直った。
「それで……消失魔法の詳細を教えてほしい」
「詳細と言われましても、実はこの魔法は、理論がわかっていないのです」
「わかっていないとはどういうことだ?」
困った顔をした彼に、再度尋ねる。
「魔力でその対象を包み、消えろと念じれば、それは消えるということだけしかわかっていません。どういった仕組みで消えるのか、わかっていないのです」
……なるほど。
「では、副団長。今、その魔法を使えるか? 対象物は何でも良い」
その魔法が、見られればきっと。
「……」
彼は一瞬顔を歪めた。
彼はロイゼの消失を間近で見ている。
だから、心の傷を抉ることになるとわかっている。
だが、私はどうしても、その魔法を見なければならない。
「――頼む」
頭を、下げる。
私に魔法の素養はない。
だから、彼に頼るより他はない。
「……かしこまりました」
彼が頷き、私のそばにあった水差しを指差した。
「そちらで良いですか?」
「ああ、構わない」
私が頷いたのを確認すると、彼は目を閉じた。
その瞬間、ぶわり、と「何か」が水差しを包んだのがわかる。
なるほど、これが魔力か。
そのことを意識した瞬間、水差しは消えた。
そして、きらきらと光が舞う。
その輝きを漏らさぬように、目で見る。
――捕えた。
「そこ、にいるんだな」
ベッドから降り、窓に近寄る。
「陛下……?」
「副団長、礼を言う。――おかげで、間に合いそうだ」
私の言葉に、はっと彼が瞬きをする。
「では、ロイゼは――」
「あぁ。――生きている。かなり危うい状態だが」
彼の顔に、希望の光が灯る。
「……っ、ロイゼ。ロイゼは――」
「悪いが、これ以上説明する時間が惜しい。失礼する」
そう言って窓から飛び出して、羽ばたく。
――ロイゼ。
ひとりぼっちで、あんな場所。
寒かっただろう。
辛かっただろう。
――早く、早く、早く、早く。
ロイゼの命の灯火を感じる。
それは、徐々に細くなっている。
このままでは、本当に消えてしまう。
――早く、早く、早く、早く。
翼が折れても構わない。
それでも、君の元へ急がねば。
冥府に連れ去られてしまう前に。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!




