3話
私の入学式での魔法の能力は、下の中といったところ。
ここから、どうやったらあそこに。
アレクの――ハロルド殿下の元へいける?
ただ卒業なんて、王太子の隣を飾るには足りなさすぎる。
魔術師団に入るのは必須だ。
でも、それで、その後は――?
無事に魔術師団に入ったとして、相手は王太子だ。ハロルド殿下が竜王陛下になれば、一番上の上司にはなるけれど、到底一度きりの面会も叶わない。
隣になんてとても立てない。
平民の私が胸を張って、ハロルド殿下の隣に立つ方法はただひとつ。
――この学校の主席になり、魔術師団幹部候補になること。そして、その後、魔術師団長になることだ。
前世の記憶によると、魔術師団長は月に一度は必ず竜王陛下と面談をする機会が与えられていたはず。
ただ、問題となるのは……。
「大丈夫?」
「!?!?」
急に後ろから肩を叩かれて、飛び上がった。
「……ごめん、ごめん。驚かせちゃったね。君、入学式が終わってもずっと直立不動だったから」
振り向くと、金の瞳と目が合う。
この金の瞳に、烏羽色の黒髪は……。
「ノクト・ディバリー……様」
なぜ、という言葉が喉元まででかかった。
ノクト・ディバリー。公爵子息かつ成績優秀で将来有望とは彼のためにある言葉だろう。
貴族でない私でも名前を知っていたのは、先ほど新入生代表ーーつまり、入学試験を主席で合格した――挨拶を読み上げていたからだ。
「ああ、良かった。僕の名前をご存知だったのですね」
……良かった?
公爵子息ともなれば、平民の成績下位で入学した魔術師見習いの知名度さえ気にするのかしら。
心の中でたいそう不躾なことを考えながら、ふっ、と息を吐く。
「これでも、緊張していたから。誰の印象にも残らなかったらどうしようと思って」
つまり、平民たる私が彼を知っていたことで、彼の挨拶が印象に残った、とそう捉えられたのだろう。
「そうですね、大変素晴らしい挨拶でしたよ」
じっ、と目の前の人物を観察しながら、考える。
彼のスピーチは今でも印象に残っている。
それは、ハロルド殿下が壇上する前というのもあったけれど、内容が素晴らしかったからだ。
学校と魔術師団の歴史に触れながら、高い学習意欲も見せ、そつなくまとめていた。
……私は。
ノクト・ディバリー。地位もあり、実力もある。
そんな彼を超えなければならない。
なぜなら、魔術師団長の椅子はひとつだけ。
私がハロルド殿下の隣に胸を張って立てる可能性は、この椅子にしかない。
「ノクト・ディバリー様」
名前を呼ぶと、彼は金の瞳を瞬かせた。
ハロルド殿下に、現時点での婚約者はいない。
婚約者がいる貴族がつける、腕輪をしていなかった。
制限時間はどれだけあるのかわからない。
卒業して幹部になって、団長になるまで時がまってくれるのかも。
でも、それでも。
――ミルフィア。
温かな、声を思い出す。
最期に握りしめた大好きな手も。
――私は何度生まれ変わっても、君が、いいんだ。
「私に魔法を教えてくれませんか?」
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