ハロルド 1-3話
「僕が、殺した……っ」
副団長は声を震わせる。
「僕があのとき、たった一言、信じてるといえば――幼い嫉妬心をぶつけなければ、ロイゼは……」
崩れ落ちた副団長を支えることさえ、この手ではままならない。
竜の手は、そもそもひとを支えるためにできていない。
だからこそ、竜は盟約を結んだのだ。
――だが。
消えた。
ロイゼが、消えた。
突如として、胸の中に開いた穴。
解けない竜化。
消えたロイゼ。
感じられなくなった、多幸感。
――その全てが、一つの答えを指し示していた。
そうであるならば、私は。
ひとつ、ひとつ思い出す。
――お慕いしております。
平民の彼女が私に一言そう告げるために、どれほどの時間が必要だっただろう。
どれほどの労力を要しただろう。
それをおくびにもださず、真摯に告げたその言葉を。
――ここにいるエルマ――彼女が私の運命の番なんだ。
そう私が言った時の絶望の表情を。
――婚約は、近日中に行う予定だ。
泣き出しそうな瞳を。
――私の番を騙るとは。
そのときに呼ばれた、縋るような声を。
――君が困っていたら、飛んでいく。困ってなくても飛んでいく。約束だ。
ロイゼは、呼んだのだろうか。
アレクを――私を。
きっと呼んだのだろう。
何度も、何度も、呼んで、アレクなら――私なら必ず約束を果たすはずだと信じて。
信じて、信じて、信じて、――裏切られた。
「――――!!!!! ――――――――――!!!!!!!」
叫ぶ。
それはもはや人語ではない。
ただ、叫ぶ。
約束した。
――私は何度生まれ変わっても、君が、いいんだ。だから、私の運命の番になって。絶対、君を見つけだすよ。
約束した。
――愛してる。君だけを、ずっと。
約束した。
――私だけのお転婆姫。どこにもいかないでね。私も君から離れないから。
約束した。約束した。何度だって、約束した。
そして、君との約束を違えたことはないと――、それは私の自慢で誇りで、全てだった。
それなのに。
私は。
ミルフィア、君は、ずっと約束を守ってくれたのに。
何度だって、私に伝えてくれたのに。
それなのに、理由も聞かず、一方的に、私は。
「――!! ――――! ――――――!!!!」
轟音に近い、悲鳴に側近たちが耳を抑えた。
空を厚い雲が覆い、豪雨が降り出した。
それと同時に、雷も。
「――!!!!、!!!!!!!!」
どうして、信じられなかった。
信じようとすら、思わなかった。
だって、私の運命の番はすでにいて。
それを害するものを排除することが愛だと思っていた。
君は、愛とは傷つけることじゃないと教えてくれていたのに。
「――――!! ――!!!、!!!」
悲鳴は、止まらない。
このままでは、側近たちの耳どころか、城を壊す。
そうわかっているのに。
「っ、副団長、陛下をどうか――!」
何か聞こえる。
だが、そんなの、どうでもいい。
私は。
わたしは。
ミルフィアは。
ロイゼは。
「――不敬を、お許しください!!!」
その言葉と共に、意識が消えるその瞬間まで、私はずっと叫び続けていた。
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