ノクト 0-4話
馬車が止まった。
目的地に着いたみたいだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ロイゼをエスコートして馬車から降りる。
到着したのはいつもの場所――孤児院だった。
「あ、ノクトさまだー!」
「今日はロイゼちゃんもいる!! やったー!!」
そう、僕がロイゼに対価としてもらっているのは、孤児院での慰問の同行だった。
僕だけで訪れたときとロイゼがいるときでは、子供の反応が段違いなのだ。
子供達は、はしゃぎながら、ロイゼを囲む。
「今日は何を教えてくれるのー?」
「そうね、今日は――」
ロイゼが収納魔法で本を出した。
簡単な文字で書かれた絵本だ。
「今日は、みんなが大好きな『竜と運命の番』を使って、読み書きの練習をしましょう」
「はーい!」
竜と運命の番。
――それは、この国の始まりの物語。
初代国王とその妃を描いた恋物語だ。
その絵本にも記されている通り、この国は、恋の女神に祝福されている。
だからこそ運命の番という存在があるのだ。
子供達が、孤児院の中に入り、机に紙とペンを広げる。
その物語の一節を言葉に出しながら紙に書き出した。
「ええと、『りゅうのなみだは、かわになりました』」
いきなり終盤から始める子供もいる。
「『りゅうは、ひとめでつがいをすきになりました』」
この子は、最初から始めるタイプだな。
「『めでたしめでたし』」
いくらなんでも、終盤すぎないか!?
「ふふ」
ロイゼが、笑う。
「……いえ、子供達ひとりひとりに反応するから」
そう言われて、かっと頬が熱くなる。
「ああ、馬鹿にするつもりはなくて。ただ、私に魔法を教えてくれるように、子供たちに接しているところを見るのが、嬉しかったんです」
「嬉しい?」
ロイゼの言葉に、首を傾げる。
「はい。ノクト様は私も子供も、馬鹿にしない。私は平民でーーさっき言った言葉も夢物語に聞こえたかもしれません。でも、あなたは馬鹿にしなかった」
――それは、そうだ。
だって、僕は想像ができてしまった。
ロイゼが魔術師団長になるところを。
「だから、嬉しかったんです」
その言葉はどこまでも、純粋で、透明だった。
「……それならいいけど」
「あっ、ノクトさま、照れてるー!」
「顔真っ赤っかー!」
――子供達に揶揄われる。
でも、ロイゼが優しく笑うから、ちっとも嫌じゃなかった。
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