ノクト 0-2話
「教本のこのページがわかりません。私としては――」
ロイゼは、『優秀な』生徒だった。
わからないところを自ら炙り出し、仮定を立て、必ず自分の意見として持ってから質問に来ていた。
なかなかできることではない。
それに、彼女は習うことに慣れているようにも感じた。
平民であるロイゼに家庭教師はついていなかった。だから、誰かに教わる機会なんて、これが初めてのように思うのに。
実際、出会ったばかりのロイゼは魔法の知識に乏しかった。
けれど、ロイゼは、今まで全く知らなかった知識を飲み込んでいく。それは急流のような勢いだった。
――天才だ。
教えると決めたからには、僕自身も覚悟を決めなければならない。
僕自身の持てる知識と、知識によって裏付けられた技術を、ロイゼに。
そう、中途半端なことは許されない。
それが我がディバリー家の家訓だった。
――ロイゼに師と仰がれるようになって、二月が経った。
この頃になると、ロイゼについて、少しだけわかるようになっていた。
当初は、ロイゼを天才だと思っていた。
けれど、違う。
ロイゼは――天才と呼ばれるようなほどの才能は、ない。
ただ、誰よりも何よりも、努力していた。
僕が貸した教本を読み込むのに使ったノートは、書き込みと付箋でいっぱいだった。
いつでも勉強できるように、小型化魔法を覚えてからは、そのノートを常に携帯していた。
同期のみんなだって頑張っている。
でも、同期が談笑している間、ロイゼはひたすら教本を読み込み、同期が遊んでいる間、ロイゼは魔法を実践していた。
かといって、眠っていないわけではない。
眠らないとかえって効率が悪いと、必ず6時間は睡眠を取るようにしていた。
ただ、毎日過不足なくきっかり6時間睡眠をとることにしていると聞いた時は、そのひたむきさが怖いな、とも思った。
「ロイゼ!」
そして、不思議なことにエルマ嬢と仲が良い。
エルマ嬢――エルマ・アンバー侯爵令嬢は、優秀な生徒が多いと言われる百五代の生徒の中心的存在だった。
「エルマ!!」
二人はこの二月で打ち解け、お互いを敬称なしのファーストネームで呼び合う仲になった。
僕を除いて、エルマ嬢は誰とも仲がいい。
ただ、誰よりも選民思想の強い彼女が、ロイゼを親友に選んだのはただただ不思議だった。
僕といえば、昔から彼女を苦手としていたので、二人の邪魔をしないようにエルマ嬢が来た時は15分間そっと離れるようにしていた。
15分間――それはロイゼが決めた時間だ。
魔法の勉強や日常で必要なことをする以外の時間は少なくとも今はそれだけ。
そう、ロイゼが決めた。
反対にいえば、そのこれ以上なく大切で尊い時間いっぱいをロイゼはエルマ嬢に捧げていた。
――それほど、ロイゼはエルマ嬢を大切に思っていた。
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