10話
「……え?」
竜王陛下が、朝礼に?
――なぜ。
私が魔術師団に入団してからそんなことは今まで一度もなかった。
魔術師団は竜王陛下の管理下にある。
けれど、竜王陛下は多忙だ。だからこそ、魔術師団長との面談も月に一度と決められている。
「理由はわかりませんが、重大なことを告げるとの伝達です」
「――!」
重大なこと。
そういえば、隣国の動きが最近怪しい。
そのため、何人かの魔術師が調査に行っている。
まさか、開戦予告――?
竜王陛下のおさめる国ソフームではここ三百年間戦争をしていない。
もちろん、国の防衛の要たる私たち魔術師団は毎日訓練を行ってはいるけれど、実践経験に乏しい。
対して隣国は、ここ数百年で見ると、何度か他国と小競り合い程度ではあるけれど、争っており実践経験がある。
万が一開戦となると、まず被害を受けるのは国境あたりの……。
「――あ」
ノクト殿は振り向かないまま、窓の外を見て声を漏らした。
「先ほどまで良い天気だったのに……。一雨きそうだ」
その言葉につられて、私も窓の外へ目をやる。
先ほどまで確かに晴れていたはずの空を厚い雲が覆っていた。
「ノクト副団長、朝礼場所を第二ホールへ変更の伝達を各部隊長と竜王陛下へ」
「はっ」
ノクト殿が団員に伝えるために廊下をかけていく。
その後ろ姿を見ながら、言いようもない不安を感じていた。
◇◇◇
朝礼が始まる。
まず、各部隊の今日の動きの確認を行った。
また月末だったので目標とその目標の達成度をそれぞれ部隊長が発表した。
今月の目標で目を見張る成果を上げたのは、第3部隊だ。
魔導具開発専門の部隊の第3部隊は、視力が弱い人々に向けた魔道具の開発を目標としていた。
そして完成した魔道具は、使用者ごとに適切な見え方に変化するのだそうだ。
元々視力が弱い人々だけでなく、すべての人の視力を強化する素晴らしい完成品だった。
市場への流布は、再来月を目処に考えているらしい。
その成果は、褒賞に値するので、後日、授与会を行うことになった。
竜王陛下はここまでの朝礼を神妙な顔で聞いている。
――ということは、第三部隊の褒賞の件ではなかったみたいだ。
となると、残る可能性は――。
朝礼の必要事項を終えた後、竜王陛下にみんなが視線を向ける。
「諸君」
隊員たちが緊張した面持ちなのは、みんな開戦の可能性を考慮してのことだろう。
……?
そういえば。
エルマはどこだろうか。
第6部隊は、副隊長がエルマの代わりに主導していた。
ノクト殿によれば、免れない予定により遅れるとのことだったけれど……。
なぜか、先ほどまでよりも嫌な予感を覚えながら、竜王陛下を見つめる。
「まずは今の所、開戦の予定はない」
その言葉で、みんながほっとした顔をする。
「今回私がこの朝礼に出席したのは、これからの未来の話をするためだ」
未来の話……、そして現れないエルマ。
「――エルマ、ここへ」
竜王陛下がエルマを呼ぶ。
とても愛しそうな声で。
「はい」
エルマはホールの扉を開けて入ってきた。
その姿は魔術師のものではなく、美しいドレス姿――侯爵令嬢としてのエルマだった。
心臓が、嫌な音をたてる。
「ここにいるエルマが、私の『運命の番』だ」
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