果てしない夜空
伏竜と一心が村を発った日の夕方ごろ
2人は早速、困難に直面していた。
「竜ちゃん…魔物居なくない…?」
「僕も思ってた、このままじゃまずいね
今日の晩ご飯はその辺の草になっちゃう」
それだけはダメ!と薄暗くなってきて静かな
森の中で一心が大声をあげるが
伏竜はそれを予知していたのか耳を塞いでいた
「なにか1匹でも取れればそれだけで
数週間分になるんだけどな」
「干し肉とか持ってきたら良かったね」
それから数十分ほどさまよい歩いたところで
テントを立てるには最適な場所を2人は見つけるが
食料がないまま夜を過ごす訳にも行かず
さらに頭を悩ませていた所で一心が提案する
「じゃあさ、竜ちゃんがテント立てたり
火起こしたりしててくれない?
私がなにか狩ってくるからさ!」
「一心が?危なくない?変わろうか?」
「いや、私の方が強いし
私、火起こしたりテント立てたりできないし」
適材適所だから心配しないでよと
父親のように心配する伏竜を宥める。
そうして、2人の別行動が始まった
(魔物を探すなら1人で駆け回った方が早いわね)
伏竜と歩いている時は話しながらだったので
全力で走ることはしなかったが
1人なら喋ることもない上、全速力で動けるため
森の中をものすごいスピードで駆け回る
木々の間を疾風の如く駆け抜け
足場がぬかるんでいるところは木を思い切り蹴って
また別の木に跳びまたその木を蹴る。
さながら壁キックのようにして前に進んでいく。
しかし、突然走るのをやめて地面に伏せ
前方を見てニヤリと笑った
(悪熊の肉はおいしい!)
一心が悪熊を見つけ戦いだした頃には
テントを立て終え火をつけていた。
(割と直ぐにやることが終わっちゃったな
一心の方は大丈夫かな)
この男は基本的に一心のことしか考えていないが
やることはやるのでほんとに優秀である
現に今も一心のことを考えながら
本で得た知識でその辺の薬草をスパイスにしている
「竜ちゃんただいまー!」
伏竜は、自分の2倍ほどある悪熊を担ぐ
一心の姿はこの上なく頼もしかったと後に語る
「ご馳走様!さっすが竜ちゃんおいしかったね!」
「いや?僕はただ焼いただけだよ」
「え、嘘、私スパイスの味感じたんだけど
勘違いだったの…?」
味覚狂ったかもと焦る一心に、少しだけ
味付けしたと、思い出したように言う伏竜を
一心がびっくりさせないでよ、と
軽めに小突くと思ったより伏竜が痛そうに
していたのはまた別の話
「それはそうと、私たちどこを目指して
旅していくんだっけ?」
「うそでしょ?出発する時に話したのに?」
忘れちゃったと力なく笑う一心を横目に
伏竜はコホンと咳払いして説明し始める
「僕らの村は大体プロト王国の東端にあたるんだ
そして、王都は中心部。
でも、僕らが初めに目指すのは最北だ」
「最北に何があるの?」
「白さんが言うには、世界で1番綺麗な
海と朝日が見れるんだって!」
本で見たときから行きたかったんだ!
と目を輝かせる伏竜を可愛いと思い
空を見上げると簡単の声を上げる
「綺麗な場所って言うとさ…
星空ってこんなに綺麗だっけ?」
空を見たまま動かない一心を見て
伏竜はちゃんと説明を、聞いていたのか
尋ねる前に空を見上げる。
そこには雲ひとつない夜空に
無限と思える程の数の星と真っ暗な森を優しく
照らす月が神々しく輝いていた
「確かに、村に居た時より綺麗に感じるね」
そう言い、2人で夜空を見上げ数秒たち
伏竜が一心の方を見やるとまだ空を見上げいた
そんな一心の姿は、月明かりに照らされ
今までの子どもっぽい顔つきよりも大人っぽく見え
伏竜は思わず声を出してしまう
「綺麗だ…」
「そんなに綺麗?」
その声を聞いた一心は空を見上げるのをやめて
伏竜の方に視線を戻し訪ねる
伏竜は失言したと思いながら何とか訂正
するため口を開こうとするが
それよりも先に一心が口を開く
「夜空」
「え?!あ、うん、すごい綺麗な夜空だね!」
いつも鈍感な一心に感謝しつつ
その日の夜を過ごした。二人の旅は
まだまだ、始まったばかりなのだから。