最後の授業
白眉がパンドラボックスを持っていないと
嘘を偽ったのは、2人にそれに頼って欲しく
なかったことに起因する。
たしかに、パンドラボックスを頼れば
強くなりたければ、強くなることができるし。
ある程度の願いは、叶えることができる。
しかし、願いに代償は比例する。
それが欲の果てと呼ばれる所以
(わしも、パンドラボックスに頼った
ものを何人か見た事があるが
あれが、願いを叶えた者の面とは思えなかった)
故に、白眉はパンドラボックスに願いを込めず
いつか来るかもしれない時のためにずっと
手中に収めているのだった。
そんな白眉の悩みなんて露知らず
組手と称しながら戯れる伏竜と一心を
白眉は大きな声で呼び寄せる。
「お前たち。17で旅に出る予定じゃったが
もう少し予定を早めて16でもいいとわしは思う」
「急にどうしたんだよ」
「私たちなにか悪いことした…?」
白眉は2人が喜ぶことを想像していたため
少し行きたくなさそうな返答を聞いて
キョトンとした後大きな声で笑う
「いやいや、悪いどころか最高じゃよ!
わしが3年で及第点と見込んだところをお前たちは
たった一年半でそれを大きく超えたんだ!」
誇っていいんだぞと2人の頭を撫で
自分事のように喜ぶ白眉に2人も釣られて
大喜びして3人で抱き合った。
それから、半年間いつも通り修行し
白眉との手合わせではハンデありなら
勝てるくらいに成長してついに
旅立ちの日が来てしまった
「お前たち、ちゃんと荷物は持ったか?
あ、簡易テントだけは無くすなよ
あとは、万が一勝てない敵がいたらすぐ逃げろ
それから、目的を達成したら必ず戻ってこい
それと…」
「白じい、過保護すぎるよ…」
我が子のように面倒を見てきた
2人が旅に出るというのだから当たり前
かもしれないが白眉は何日か前から
ずっとオロオロとしている
「平気だよ白さん。何も戦いに行くんじゃないよ
ただ、自分の目で世界を見に行くだけさ」
2年前とは比べ物にならないくらい
背が大きくなり精神面でも大人び、逞しくなった
伏竜が希望に満ちた目で夢を語る
「私も、お腹すいたら竜ちゃんに
何か作ってもらうから大丈夫!」
一心は体つきが随分ガッチリとして
さながら女騎士の風貌のくせして
精神面がほぼ成長していない。
「わかった。。気をつけてな!」
「「うん!」」
村からどんどん遠ざかっていく2人の背中が
小さくなり、やがて見えなくなるまで
遠くから見届けた、白眉の目には
薄く涙が浮かんでいた。