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第9話 俺にできる冴えないやり方

「ねぇ、タロー。ちょっと、いいかな」


 次の日の放課後一番に、あきらにそう声をかけられた。

 それ自体は正直予想していたことだったので、あきらに促されるままに校舎裏に歩いていく。

 奇しくもこの間俺が失恋した場所の同じ場所だった。呪われてんのかなこのスポット。そんな俺の思いをつゆ知らず、あきらはしばらく俯いていたが、何かを堪えるように口を開いた。


「昨日、蟹沢さん……生徒会長と、階段の踊り場で話をしていたよね」


「あぁ」


 バッチリ壁ドンしている所をみられているのでそこは包み隠さず正直に言う。


「どんな話をしていたのか、聞いてもいい?」


「―――それはできない。個人のプライベートに関わる事だから」


 さすがにビースト先輩の言葉をお借りして会長に迫ってましたとかは言えない。

 いやアホかって感じだけどさ!!勿論その意図や理由、やっていた事も、言えるはずがないからな。


「どうして隠すの?お願い、話を聞かせてよ……タローって理由もなくああいう事、する奴じゃないじゃん。急に蟹沢さんに迫ってるなんて変だよ」


「ちょっと性欲を持て余して蟹沢さんが気になったからだよ。俺目覚めたんだよ」


 本当に真剣に、思いつめたながら言葉を選んでいるあきらには大変申し訳ないがここは芋を引くわけにはいかない。あきら相手だからどうせすぐ見抜かれるし嘘もバレるけど、ここは……凄みと勢いで押し切る!!


「嘘、だってタローってずっと犬井が好きだったじゃん。

 それに、私と蟹沢さんが付き合ってるって、知ってるのにあんな……理由もなく言い寄るような事、する奴じゃないでしょ」


「誰だって趣味嗜好は変わる可能性があるだろ?知らなかったのか?俺はノンケだってホイホイ114514しちまう男なんだぜ」


 そんな俺の、のらりくらりとした態度に、あきらはふざけないで、と大声を上げる。びっくりしたけどそりゃあきらも怒るよな。


「ごまかすのはやめてよ!

 お願い、何があったのか正直に話してよ。短くない付き合いなんだし、私、理由を聞かせてもらえたら、きっとタローの事、悪く思わないと思うから。

 何も教えられないまま、こんな変なきっかけでタローと喧嘩したくないよ」


 そう言うあきらの瞳は、多分、いままで見たことがないくらい、真摯で、真剣で、俺の心に訴えかけるものがあった。


 ―――それでも言えないと、ごめん、と心の中で謝る。


 いっそ、感情的にぶつかられたり、罵られたり、話も聞かないまま憎まれたり、そういう事をされたらもっと簡単だったろう。

 けどあきらは俺ときちんと話をして、俺の意図を知ろうとしてきてくれた。理解して、その上で納得しようとしている。

 それはあきらが“いい奴”で、俺を信じようとしてくれたから、だと思う。

 だから、こういうあきらだからこそ―――俺があきらに嫌われても、あの変態ポルノ野郎から守りたいと思った。あきらの気持ちも、想いも無視した身勝手極まりない俺のエゴだけれど。


「“猿渡さん”には関係ない事だよ」


 あきらから目を背けてそう言うと、あきらは手を振り上げて、俺をビンタしようとし―――しかし振り上げた手を握りしめて、俺の胸を叩いた。……ぽかり、と。


「なんで?どうして?私とタローって友達じゃないの?なんで私に隠すの?何を隠してるの?―――なんでタローはそんな辛そうな顔してるの?」


そういうあきらの目には涙の滴が溜まっている。


「お前もう蟹沢さんに近づくな。あの人は俺が狙ってるんだよ」


 これは嘘じゃない。狙っている、の意味が違うけれども。


「ばかっ!タローのばかっ!」


 そういって、ぼろぼろと涙をこぼして踵を返すあきら。

 涙をぬぐいながら走り去っていくその背中が小さくなるにつれて、さっきあきらに叩かれた胸が痛んだ。女の子の力で優しく叩かれただけだから、全然痛くないはずなのにな。


「……大丈夫ですか、タロー君」


 そう言って物陰から出てきたのは、舞花ちゃんだった。やっぱりな、みられてると思ったよ。


「正直に言わなくてよかったんですか?あの様子ならきちんと話せば―――理解してもらえた気がします。もしかしたら、被害届を出してくれたかも―――」


そんな舞花ちゃんの言葉に首を振る。


「これから俺がすることに、あきらが関わったらあの会長がリベンジポルノとかするかもしれないだろ?だから、これでいい」


 女の子のために頑張るのは男子のやくめでしょ、と笑う。


「そうですか。タロー君は優しいんですね」


 そう言う舞花ちゃんの顔は穏やかで、寂し気で、優しかった。


「どうだろうね?もっと他にうまいやり方はあるかもしれないけど、俺はこういう風にしか物事を解決できないから、モテないんだろうなぁ」


 おどけながらそう言うが、舞花ちゃんは少しだけ考え込む様子を見せてから、ポツリと言った。


「そういうタロー君だから好きになってくれる人が地球上に一人くらいはいるんじゃないでしょうか」


「そうか、そうだといいなぁ」


どこだろうか、どっかで聞いたようなセリフだな……なんて笑った後、俺は背伸びをする。


「それじゃイく……じゃなかった、往くとしようか、あの変態ポルノ野郎の所へ」

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