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第1話 俺は幼馴染の恋愛対象外だった

―――桃園太郎様

今日の放課後、伝えたいことがあります。校舎裏で待っています。 犬井ともり


 渡された手紙にはそう短く書いてあった。

 ……これはもしかして告白されるのでは?桃園太郎15歳……我が世の春がきたぁぁぁぁっ!等と少し期待しつつソワソワして一日を過ごし、放課後になったら落ち着いて素数を数えつつ呼び出された場所に向かう落ち着け、俺。


 件の手紙を寄越してきた相手“犬井ともり”――ともちゃんと俺は家は一緒の病院で産まれて家も隣同士の幼馴染で、両親の仲も良かったので一緒にいる時間が家族と変わらないくらい長い女の子なのだ。


 ぶっちゃけ俺もともちゃんの事は好きだったし、高校生になってこれはそろそろ俺から告白しよう……!と思っていた矢先の手紙だったので心も浮ついてしまうというものだ……ついに俺もアオハルかぁ、なんてね。

 そんな事を考えながら呼び出された校舎裏に行くと、栗色に染めたミディアムヘアを風に揺らす女の子が待っていた。

 ぱっちりした目は今は伏せられていて、掌を祈るように胸の前で組んでいるのは約15年見知ったともちゃんその人だ。

 いつも元気で明るくて、周りを笑顔にしてくれる女の子。人懐っこくて名前の通りに犬っぽいと言われる、俺の大好きな幼馴染。


「ごめんともちゃん、遅くなった」


そんな俺の言葉にゆっくり顔を上げるともちゃん。


「ううん、来てくれてありがとう。タロー、あのね、私ね……タローに伝えたい事があるの……」


 勇気を出すように言葉を振り絞ろうとするともちゃん。……これはやっぱり告白、ではないだろうか。やっぱ告白だよね?!

 女の子のともちゃんにそんな事をさせていいのか、こういう事は俺から言うべきではないのか?そんな想いに俺も口を開く。


「あのさ俺も、ともちゃんに伝えたい事があって―――」


「―――クラスの戸成君の事が好きになっちゃったの!!」


「―――ともちゃんのことが、えっ?」


 何?今ともちゃん何っていったの?戸成?クラスのイケメンの戸成君のこと?好きだって?


「そのね、あのね、私こんな風に男にドキドキするのはじめてで、戸成君に話しかけられたり、触られると、胸がぎゅーってなるの、これって、恋かなぁ?きっと、恋だよねぇ?」


 そんな風に、瞳を潤ませながら俺に聞いてくるともちゃん。……だが俺の方はと言えば予想外の展開に思考が全然ついていかない。

 戸成君はクラスの中でも中心にいるイケメンで、まだ中学の頃からジュニアモデルをやっていたとかで垢ぬけた雰囲気と男女問わず誰でも気さくに話しかける人気者だった。勉強もできてバスケも上手い。……まったく完璧超人みたいなやつなのである。


「でもね、こんなの初めての事で、私どうしたらいいかなぁって思って…それでね、タロー…私、戸成君と仲良くなりたいの!だから…助けてほしい…の」


 そう言って最後は泣きそうになりながらしりすぼみの声になる。


「そ、そう…ともちゃんは戸成の事が好き、なんだね」


「うん。タロ-と一緒にいてもこんな気持ちにはなったことぜーんぜんなかったけど、戸成君といるとすっごくドキドキして、幸せーってなるの!」


 そ、そう…俺と一緒にいてもドキドキなんてしないのね…う、ううっ、悪気なんてないのはわかるけど言葉にして言われるとダメージが大きいんですがヴォエッ。

 ともちゃんは俺の気持ちなんて知らないから悪くないし、俺が勝手にダメージ受けてるだけだけどその言葉の一発一発がボディブローのように効いてきて……泣けるぜ!


 ずっと一緒にいたけど俺の片思いだったってことか…いや15年分の片思いとか重すぎるし、辛すぎる。

 しかもその終わり方がこんな無自覚に傷口に塩を塗り込んで死体蹴りされるとか惨すぎるわ、もうちょっとなんとかならなかったのかよ神様ァ!恨むぞおいぃッ!!俺がいったい何したってんだよちょっとさぁ!

 ……なんて文句の一つも言いたくなる。上を向こう、涙が零れないように。

 ともちゃんにとって俺は幼馴染の男の子で恋愛の対象外だった、それだけの事……ここで女々しく泣くなど漢の恥だぞ桃園太郎!!

 ともちゃんは悪くない、これはそういうすれ違いなだけなんだ。俺とともちゃんにはご縁がなかっただけなのだ。だから泣くな、泣いたらともちゃんが困る……!


「だからね、その、戸成君と付き合って、彼氏と彼女になれたらって思うの。

 お願い、私と戸成君のキューピッドになって欲しいの!お願い、タロー!!」


 ともちゃん悪意はないし純粋に幼馴染に助けを求めてるんだよなぁ、そうだよねぇ……初恋なら自分の気持ちでいっぱいいっぱいだもんねぇ。

 俺がさっきまでそうだったし、自分の気持ちのことしか考えられないのはわが身を振り返ってよくわかる。

 俺のこの胸が張り裂けんばかりの悲しみそっと心のミミックにでもぶちこんでおこう。


「うっ、うっ、お願い、私タローしか頼れる相手がいないのぉ、タロゥ……」


 涙をこぼし、そう言って祈るように手を組みながら俺を見上げるともちゃん。それはズルい、子供のころからそうやってお願いされると、どうしても断れずにともちゃんのお願いを聞いてしまうのだ。くっ…自覚してないだろうけど、いつもここ一番でそれをするんだよなぁともちゃんは…!


「わ……わかった。やってみるさ!」


 ともちゃんの顔をみつめ返し、なんとか声を絞り出してそう答えることが出来た。そんな俺の言葉を聞くと、ともちゃんは一転してパァァァッと明るい顔になる、かわいい……。


「わぁ~、ありがとうタロー!えへへ、やっぱり持つべきものは頼りになる幼馴染、だね!!わーい、わーい」


 そう言って俺の手を持ってぶんぶんと上下するともちゃん。

 だが、ともちゃんが上機嫌になるほど俺は涙が零れそうになり、もう勘弁してつかあさい……許してつかあさい……という気持ちになっていく。


「あ、私放課後戸成君やクラスの皆とカラオケに行く予定があるんだぁ。それじゃ、明日からよろしくお願いね、タロー!ばいばーい」


 話は済んだのか、そう言って俺の手を離して上機嫌で駆けていくともちゃん。小さくなっていくその背中を眺めていたが、その姿が完全に見えなくなったところでホゲェーと口を開いてぼやいた。多分今、口から魂とかちょっと出てると思うわ。


「うっ、うぐっ、あんまりだろこんなの……」


 ―――こうして俺の初恋は無残な終わりを迎えた。子供のころからずっと一緒で、家族ぐるみの付き合いもあったけど、イケメンには勝てなかったよ。やはり顔か!!いや、付き合いが長すぎて家族みたいにみられてたのかもしらんしな、それ自体は男女の恋愛だし仕方ないけど……こんなのってないよ……あんまりだよ…


「あァァァんまりだァーッ!!ヘーイ!!おおおおお俺ェェェェェのォォォォォ幼馴染がァァァァ~!!」


 とまぁそんな風に大泣きしてみた。……なんか感情が爆発しそうなときは思いっきり泣いてスッキリさせるみたいなのをなんかで見るか聞くか気がしたので思いっきり泣いてみたら、なんかバカっぽくて一周回って冷静になれたぞ。

 結果オーライみたいな?スッキリ。


―――『パシャッ』


 ……うん、何か音がした?

 変な音が聞こえた気がしたので周囲を見渡すが特におかしなところは無い。なんだったんだろう、失恋のショックで神経質になってるのかな?……あぁ、気が重い。 

 

 ……でも協力するっていっちゃったしなぁ。俺の気持ちの問題だけだし、ともちゃんが戸成君を好きになったってならそれはもう俺の魅力不足だったって事だしな……憧れは止められねぇ~のだ、仕方ないね。

 そんなわけで桃園太郎15歳の春、見事失恋いたしました!!!!!!!!!!僕が先に好きだったのにってこういう事ぉ?!B・S・S!B・S・S!もっと早く動いていたら何か変わっていたかもしれないけど今更いってもどうしようもない。


 ともあれ、やるって言った以上はともちゃんが戸成と仲良くなれるように頑張ろう……この桃園太郎に二言はない!!“やる”と言った以上は“やる”のである……!!!

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