1ー1 星族の呪いとして
「つまんない。」
夢の中でボヤくのは何度目だろう。
少女は自分の夢の中で、自分の夢にケチを付けていた。
辺りは深い霧で覆われていて、どんよりとした曇り空の中だった。水面が一面に大きく広がる湖の端っこに、ぽつんと座っている。
つまらない上に、いつも、何度も見ている夢だった。
またか、という気持ちで、顎に右手を置いてムスッとしながら愚痴をこぼした。
「つまんない。つまんない。つまんない!!あぁぁどうして。」
こんな湿気て寂しい世界は飽き飽きだった。もっと綺麗で素敵な夢を見ていたい。
「どうして同じ夢なの!大体寒い!うぅっさぶっ。」
少女は両手で二の腕を擦り寒さを凌いだ。
白い薄着のワンピース1枚にはこたえた。
だが、次第にその手も止まる。
先程からドクドクと、心臓が煩い。
(何だろうこの感じ…。)
この孤高な世界に来た時、少女の心はいつもおかしかった。 鼓動がはげしく、何故かとても焦るような、とにかく落ち着かなかくなってしまう。
それは何かとても待ちわびているような気もした、と最近は感じている。
だがそれが何なのか、果たしてそうなのか、この何処なのかもわからない場所で一体なにを待ちわびてるのか、全くわからないことだらけだった。
「んぁああ!!」
少女は大声で雄叫びをあげ、ゴロンと野原に寝転がった。
特にきれいでもない重い曇り空が眼の前に広がる。
「あぁぁぁ〜。」
またあぁというが、今度は唸り声のような声で出した。
(夢で何やってんだ僕…。)
僕、とよぶ少女はてゆうか何夢でおかしなことに真剣になってんだか、と我ながらハハハ…と引いた。
さわさわと吹く風が少し心地良い。
寝転がって暫くしたきがした。
(何で僕…こんなとこいなきゃいけないんだろ…。)
ある時ふと気がつくと、視界は霧で覆われていて、目の前には透明な水面が広がっている。現実世界でもこんな場所へ赴いた記憶がない。
見覚えのない場所に連れてこられて何故か動機がおさまらず「何か」を待ちわびている。
でもその「何か」がわからない。
「「誰か」なら知ってるのかな…。」
「知識」でしか知らない友達や知人などといった親しい相手等、少女はいなかった。
だがもしいたら、この状況を打破できたのではないか、この不安な気持ちが半減するのではないか。そう思った。
(誰かには話したい。話したいたけど…。)
少女は頭を下げて水面に映る自分を見つめた。
だが何故かこの夢、自分の顔が見えないのである。
「僕は独りだ…。」
『いいですか。お前は本来産まれる筈ではない人間なのですよ。』
「星族」という民族に生を授かり、そしてそれを統治する「長」と「巫女」の子として産まれたなら当然の結果だと教わった。
少女の髪も白い髪も1族には誰もいないという。
生まれてから少女は一度も自分の顔を見たことがなかった。
(「頭は恐ろしいほどの鋭利な大きい角が生え、牙は獲物を噛り捕食する、尖った牙がはえ、瞳は細く恐ろしい目つきをしている。」だっけ。お継母様にそう言われたっけ。そんな顔なら僕でも怖がるな。)
少女は自分の顔に手をつきボンボンと叩いた。
そして、少女が隔離されているにはもうひとつ、ある「問題」が拍車をかけていた。そのため少女は物心ついた時から家族とは別の家で住まわされていたのだった。
『貴方の「問題」は「星族」を脅かす脅威の象徴です。ですからあなたを幽閉します。』
ある「問題」からしても、自分という人間は、そういった邪心の集まりでできた存在だという。
だから自分には友もいないし勉学も必要ない。
少女は何もいらない。ただ息を吸い病に落ちて自然に死ぬことが摂理だと、その時教わった。
色んな感情がその時沢山芽生えたが、次第に「時間」が少女を納得させた。
自分の身分はもう理解してるつもりだが、やはりわからないものはこわかった。
「誰か」がいれば、手助けしてくれるだろうか。
「誰か…か。」
そうするうちに、ザァァァァァと、風がつよく吹いてきた。
そろそろか、と少女は寝そべったまま目を閉じた。
悠久の夢も終わりを迎えようとしていた。
ーーどうか、今度はもう少し綺麗な場所で、あと、一人だけでいいから「お友達」が欲しい…。
そんな願いをこめて、風が拭きあれる湖の森の夢の中、少女は眠りについた。