星に願いを(新版)
旧版を、次の作品に刺激されて書き直しました。
イラスト:『黒』 https://www.pixiv.net/artworks/98430695
『w』 https://www.pixiv.net/artworks/63134293
『慈愛の女神』 https://www.pixiv.net/artworks/105119343
動画: 『stars we chase』 https://www.youtube.com/watch?v=ZjP1zJEbFOI
『MONSTER GIRLS』 https://www.youtube.com/watch?v=lZ0aPIGXk5g
『Strawberry Trapper』 https://www.youtube.com/watch?v=uDAc22a7rvM
『幻日ミステリウム』 https://www.youtube.com/watch?v=90T6WnER5ss
『Imprevious Resolution』
https://www.youtube.com/watch?v=v_zH3S9qdRQ&list=RDMMv_zH3S9qdRQ&start_radio=1
奇想譚から文明論まで湧き出すような、
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。
異星人が使った六芒星(✡)は、私見〝文明の星〟理論によるもので、
後の『イシュタル』や『会見』にも書きました。
執筆後、過去・現在・未来を語る悪魔が多いことに気づきましたが、
それについては後の『プルソン』で理由付けしました。
ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、
エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。
不思議なインターネット・サイトを見つけた。
検索画面に〝宇宙に興味はありますか?
……文明の星〟と派手な広告が出ていたので、
保安ソフトの安全表示を確認して、クリックした。
折しも月面で異星人との〝最初の接触〟があった、
という衝撃的な報道が流れた直後のことだった。
また、なぜか私の住む地域では関連情報が
規制され始めていた、という事情もある。
新しい映画か書籍の宣伝と思いきや、画面には
〝文明の星(The Star of Civilization)〟の題名と、
六芒星(✡)が円で囲まれた図形、
いわゆる〝ソロモンの印〟が現れた。
オカルトかSF系のゲームサイトかな?
と思い直して見ていると、
「貴方は地球外文明が存在すると思いますか?
また、それはなぜですか?」という質問が浮かんだ。
興味をひかれた私は、
「宇宙の規模や知的生物進化の確率、
文明の想定寿命を掛け合わせた、
〝ドレイクの方程式〟からみて、そう思う」と答えた。
するとまた「〝フェルミ・パラドックス〟
という言葉を知っていますか?
またそれは、なぜだと思いますか?」
という質問。
私は再び、「観測技術が進んでもまだ、
知的種族の存在を示す証拠は見つかっていない。
文明の発展や存続を阻む要因、
〝グレート・フィルター〟の存在も考えられるが、
個人的には、異星種族が人類に対して、
自らの存在を隠しているだけと思いたい」と答えた。
すると即座に、「それはなぜですか?」という質問が、
回答の下に現れた。
私は「知的種族が人類だけというのは、つまらない。
かといって異星種族が敵対的で危険とか、
人類は原始的で交渉にも値しない、というのも嫌だ。
私達を将来の同胞と考えつつ、相互の利益を考えて、
一定の発展段階に達したら接触してくれるような
種族がいてくれるのが、一番望ましい」と答えた。
次に今度は、「あなたが今、
一番知りたいことは何ですか?」という質問。
私は「そうした知的種族の有無や状況、
意図について知りたい」と回答。
すると突然画面が切り替わり、一人の少女が映った。
ゴスロリ衣装で優雅に佇み、長い黒髪、真紅の瞳。
知的な眼差しをした彼女はこう言った。
「ご回答ありがとうございます、そして初めまして!
私がまさに、そんな種族の中のひとつの、代表人格です。
それでは窓の外をご覧ください」
なあんだ、いたずらサイトか。
そんなものにはひっかからないぞ!
などと思っていると、
外で人々の叫び声が上がった。
意志力が弱い私は思わず腰を浮かし(笑)、
窓を開けて周りを見渡した。
星が輝く晴れた夜空を、
いくつかの大きな流れ星のようなものが、
ゆっくり動いている。
私の住まいのちょうど真上を、丸みを帯びた、
銀色の光を放つ巨大な円盤が通り過ぎ、
街のまん中あたりの上空に静止した。
おいおいちょっと、この展開は早すぎないか!?
驚いた私は、再び画面を見た。
すると彼女は、私の動きを知るかのように、
再び説明を始めた。
「かつて銀河系を統一した〝先帝〟種族は、
最も忠実で心優しい文官種族だったサタンに、
貴方達人類を含む発展途上種族の
文明発達を助けるよう、命じました。
彼女は〝先帝〟を神に見立てた神話を広め、
その悪役も演じるなどして、多くの種族を支援しました」
「しかしその後、好戦的な側近軍事種族の間では、
腐敗と抗争が激化し、ついには内戦が起きました。
残念ながら、それに巻き込まれた〝先帝〟種族の
母星は破壊され、帝国は崩壊の危機に陥ったのです」
「そこでサタンは未来ある種族達を守り、
星間社会の秩序を取り戻すため、
〝先帝〟種族の生存者や、私達友好種族の
支援のもとに、新政府を設立しました」
「彼女は現在、新興の技術・産業種族や
良識的な軍事種族、さらには基盤元素の異なる
銀河系外周の種族とも協力して、
平和の回復と国家再建に努めています」
「内戦を受けて、途上種族との交流条件も緩和され、
今回ご参加いただいた大規模な質問調査を経て、
人類の技術的・政治的成熟度を確認できたことから、
このたび接触方針の変更が決定されました」
「新皇帝種族からのご挨拶を初め、詳細については
全国民の皆様に届く方式で発表される予定です。
これからも文明の順調な発展が続けば、
人類は将来民主化される予定の星間国家において、
必ずや名誉ある地位を占められるでしょう!
以後、新国家の政策によろしくご協力をお願いいたします」
「また今回の調査にご参加くださった方は、ご希望により、
政策調査員として登録いただくことも可能です。
自己紹介が遅れましたが、
私はサタンの同盟種族、バラムと申します。
これからも、よろしくね!」
彼女がにこやかに微笑むと、動画は終わった。
……と思ったが、またすぐ画面が開き、
私はうわ、と驚いて少しのけぞった(笑)。
「あっ、あと私達は悪魔じゃありませんからね。
トップページの六芒星も魔術とかじゃなくて、
私達が共有する文明の発展に必要な、
〝技術、政策、経済・社会、物資、人材、
自然・社会環境〟という六つの要素を表した、
科学的で実用的な紋章なんですよ!」
ダークな衣装に似合わないほど明るい笑顔で、
「それじゃあ、またね!」と
彼女がウインクしてみせると(笑)、
今度こそ本当に動画は終わった。
彼女の言葉は文章としても表示されていたので、
私はすぐに記録を保存し、再確認を始めた。
まず、バラムという名を検索すると、
「過去と現在、未来について正しく答える悪魔」とある。
確かに彼女はそんな喋り方をしていたので
そうした話法の文化をもつ種族かとも思った。
神話以外にも過去に、人類と異星人との
様々な接触があったとすると、
昔の怪しげな魔導書にも、多少の真実が
含まれていたのかもしれない。
ただし元々、神魔の対立はいわば教育劇だったうえ、
現実には〝先帝〟側近種族の悪行によって、
善玉役と悪玉役の〝天使〟の役割が
逆転してしまった、ということなのだろう。
何だか人類の歴史でも時々見かけるような、
考えさせられる話だなあと思った。
とはいえ確かに、神の原型は銀河系の皇帝種族で、
神話の語り手は魔王役の臣下種族、
堕落したのは〝天使〟とされた種族達の方だった!
……というのはややこしい。
この地域で通信規制が行われる一方で、
異星人側も質問調査以外の双方向対話を
避けていたのは、従来の一般的伝承とは異なる
微妙な公表内容のせいだったのかもしれない。
規制をかわして理解を得るための方策が、
事前調査と電撃訪問だったというわけだ。
しかし、どんな科学や事実も越えて、
心の救いを与えてくれるのが、神話の効用だ。
異星人が神話を広めたからといって、
彼女達は伝令に過ぎないともいえるし、
善行奨励の教えに変わりはないのなら、
神話自体の否定にはならないと感じるが……。
歴史的事件に立ち会って興奮した頭の中を、
色々な考えが駆け巡った。
恒星間航行ができるぐらいだから、
通信規制を潜るくらい造作もないだろうが、
異星種族が人類と全く同じ姿というのは考え難く、
画像は本当の姿ではない可能性が高そうだ。
〝代表人格〟や〝彼女〟といった表現からみて、
量子頭脳への人格転移なども
達成しているかもしれない。
となれば当然、映像または再転移用身体の属性も、
自分達や相手方の必要や好みに応じて
自由に最適化できるはずだ。
それは、自分達自身の生命活動さえも
変換・再現・改良できる高度な技術を持ち、
巨大な宇宙の多様な環境に広がり住んで、
複雑高度な経済・社会活動を営む星間文明には、
必然の流れかもしれない……。
私は以前から、そう思っていた。
〝同盟種族〟という言葉を使っていたので、
彼女達は軍事種族という可能性もある。
一体どんな戦いを行っていて、
今の戦況はどうなっているのだろう?
古代の地球を訪れて神や悪魔を演じることができ、
以後も発展を続けてきたような連中同士の戦争だ。
エドワード・E・スミスやエドモンド・ハミルトン、
グレッグ・ベアの名作SFを読んだ時の記憶が蘇った。
負の物質球、空間破壊砲、さらには
より〝効率的〟な遠隔素粒子操作兵器……、
惑星や恒星、星域さえも破壊できるような
超兵器を思い出して、ぞくりとした。
自ら意思あるAIと化しているなら、技術力は圧倒的だ。
社会の繁栄と安全をもたらす自然科学的技術に加え、
人々を組織し、公正で効率的な政策の立案・実現を助ける、
社会工学的技術も桁違いに強力だろう。
技術による文明発展の健全性を保つ、政策でも同様だ。
ある技術水準で社会に働きかける利害調整政策に加え、
新たな技術の適切な開発・普及を助ける技術的政策も、
大規模、迅速、高度で説得力があるはずだ。
彼女達との交流や交渉は、大変そうだと思う。
〝実力と正当性は政治の両輪〟というのは
政治学の初歩だそうだが、
私達人類は、いきなりどちらも凄腕の
師匠達がずらりと居並ぶ、
道場に放り込まれたようなものだ。
しかし、そんな心配による吊り橋効果もあってか、
彼女の姿は実に美しく想い出された。
おお神様……SFファンの私には、どストライクです!
実際の姿は知るのが恐ろしい気もするが、
それさえギャップ萌えオタクにはむしろ御褒美です
……って、そっちかよ!みたいな(笑)。
初めは厄介事に巻き込まれたか?という心配もあったが、
異星人はいると分かったし、他にも関係者は大勢いるし、
もはやどのみち全人類は一蓮托生だ。
地球全体として、対処するしかない問題だろう。
趣味はさておき(笑)、客観的にも悪い話ではない。
将来的には平和が戻った星間社会で、
技術や産業、政策、文化面での交流ができるなら、
むしろ明るい未来への可能性が開けたと思う。
彼女の未来予測が当たることを願いつつ、
続報を探していると、新たな画面が勝手に開いた。
来たよ来ました、〝新皇帝からのご挨拶〟!
動画を見ると、何と栗色のおかっぱ頭をした、
とても繊細で健気な感じの女の子が、
優しく可愛らしい声で話し始めた。
「親愛なる人類の皆様、はじめまして。
私は銀河帝国の新皇帝種族、サタンの代表人格です。
美しく、見事に発展した地球を再び訪れることができ、
私の心は懐かしさと、嬉しさでいっぱいです……」
まあ、私みたいな萌え愛好家は増えたからなあ(苦笑)。
いつもより明るい星空を見て、私は再度心から願った。
どうか人類が〝新銀河秩序〟のもとでも
星間社会に貢献し、幸せな未来を得られますように……。