流転
3万を超える人々が地の裂け目に飲み込まれ、
難病に悩む男がキノコをちらつかせる間にも、
彼らがしたことと言えばダイエットコークを口にして、
ジャンクフード片手になじり合うことだけだった。
兵隊が凍土で戦う理由を見失っている時でさえ、
市場では株の乱降下に人々は目を奪われている。
平和を歌う男がそしられて、
マンションから飛び降りたのは、僕らの影か分身が潰えた証。
多分僕らが身を削って築きあげたものの断片が潰えた、
その証。
或いはSNSで少年が吊し上げられ、
或いは不貞の女が泣きじゃくって弁明する最中に、
僕らが成し遂げたのは、
せめて心を隠れ家にかくまうくらい。
ヘイトスピーチが、大きな声で路上を歩き回り、
言葉のテロが、自己韜晦する賢者を刺し殺した時にも、
雑誌記者は涼しい顔をして、
ゴシップ塗れのタワーマンション前に張り込んでいた。
天国行きのバスには何人もの人間が飛び乗ったが、
その車内でさえ言い争いが絶えなかったらしい。
流転する世界、流転する世界。
灰色のワゴン車は子供を轢いては、
素知らぬ顔で走り去っていく。
デマゴーグが憎しみこそ原動力だと叫び、
傷ついた人がまた人を傷つけるためにペンを取る。
自傷の痕と痣の数だけ、
グッドボタンが増えていく。
幸せと名誉を求めて走り始めたはずが、
今や戦場での闘いを望む者、あおり立てる者の巣窟だ。
千切り取られる腕、
浴びせられる血、
砕け散る頭骨、離脱する魂。
もう何も言うことはない。
流転する世界、流転する世界。
また輪廻していく、命、命、命。
計上されていくだけの、死者と命。