モノローグ
「どうしたんだよ。おまえ…」
青年が一言。教室に現れた友人へと問いかける。
〝髪を切った〟
〝いつも掛けている眼鏡がない〟
〝大きな怪我をした〟———など。
同級生の身に起きた変化に戸惑い、驚き、声を上げる風景。
「テンプレ通りで、お行儀が良い」とまで褒められるような出来事の〝はじまり〟は、これまで幾度となく人々の日常に現れたことだろう。…仮にこれがゲームや小説などの創作世界における出来事であるならば、ここから物語を展開する流れとなるのだが、残念ながら現実における出来事は日常の色づけ程度のものでしかない。あの青年の台詞に続く友人の言葉も、その後の周囲の反応も。彼(もしくは彼等)の『日常』という枠を薄く色づけるだけで、いずれは日常の彼方に溶けていくのだ。
「じつは昨日死んじゃって…」
大きな制服に着られた児童は、やや恥ずかし気に頭を掻きながら青年の問いに答えた。勿論、ゲームの話でも色恋の撃沈などといった比喩的なものでもなく、先週の金曜まで青年であった彼———児童は間違いなく死を迎えたのである。
〈田舎の爺ちゃん家に行ったら蜂に刺されちゃって…。
アナフィラキシーショックってやつかな。巣をつついた弟を庇ったら―――〉
それを証拠に、児童は首元の白帯に触れながら自らの死んだ経緯について語り始めていた。
…まるで涙を隠すために欠伸をし始める子どものように、もしくは初体験を自慢する青年等のように。問われたわけでもないのに語り続ける児童の姿は、まるで初めて攻撃魔法を覚えた勇者のように純粋で、同時に二度と使われなくなった〝銅の剣〟のように悲愴的であった。
〈———あのときはマジで死ぬかと思ったわ〉
〈いや…お前もう死んでるじゃん〉
ハハハハハ‥と示し合わせたように二人が笑い出すと、いつしか周囲の観客たちが傷だらけの勇者を囲み、その雄姿と英雄譚に花を咲かせるのであった…。
【・・・頭が痛いな】