僕たちはゲイではないがたまにセックスをする

作者：ヒロモト

国光と関係を持ったのは中学生の時だった。

きっかけはベタなものでスマホでふざけてゲイセックスの動画を二人で見ていたら『本当にこれは気持ちいいのか？』という疑問が僕たちに生まれ、それは行動に移された。

『カズ。賢者タイムの罪悪感がオナの比じゃねぇよ……』

というのが彼の事後の感想で。僕はそれに激しく同意した。

僕たちはお互いに彼女がいたし、かなり早めに初体験を済ましていた。

『これ浮気かなぁ？』

『浮気じゃないよ。僕たちはゲイじゃないしこれは自慰の様なものだ』

『おっ。それいいじゃん。そうだなそういうことにしとこう』

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確かに僕たちはゲイではなかった。

国光にいたっては病的な女好きで高校に入学する時には『全身コンドーム』という分けのわからないアダ名まであった。

僕は彼ほどモテなかったがチラチラと彼女がいたし、もうどうにも下半身が堪らないなというときは年齢を偽り風俗にも行った。

ゲイではない。ゲイではないのだが、彼とは月2～3回のペースでセックスをしていた。

女の子にはとても言えない様なひどい下ネタを言い合ったり時にそれを行動に移した。

しかし賢者タイムの罪悪感が最悪なのはいつまでたっても変わらなかった。

二十歳を越えて彼は長い髪を切って髭を生やした。

これで僕は『ああこれであの罪悪感から卒業できる』と安堵した。

国光は髪が長く肌が女のように綺麗だったから僕は勃起をしたのであって、ここまで『男』の見た目をしていたらどうにも反応しない。

……と思っていたのだが僕たちの関係は変わらなかった。

男には性癖のループが死ぬまである。

巨乳が好きな時期があれば貧乳。

Sな時があればM。

熟女が好きな時もあれば女子高生が好きな時もある。

僕のそのループの中に国光はすっかりレギュラーとして定着していて彼もそうだった。

僕が『今日はどうにも国光じゃないとダメだ』という日は彼も『今日はどうしてもお前がいい』という日でなんというか僕たちはあまりに『男の生理』の来るタイミングが完璧だ。

何度も言うが僕たちはゲイではない。

男らしい男にも興味はないし女装男子にもニューハーフにも興味はない。

女の子が好きなのだ。

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30を前に国光が結婚をした。

僕は心から嬉しかったし、彼に幸せになってくれ。速く子供をつくって親を安心させてやれと思った。

この気持ちを持つということは、やはり僕たちはゲイではない。

それから国光の子供が二十歳になるまで僕たちはセックスを『1度』しかしなかった。

その１度は40前の事だった。僕の母が亡くなり、葬儀が終わった後。僕はあまりに悲しく辛かったので国光を呼んだ。

彼はすぐに駆けつけてくれてその夜は僕を抱いてくれた。

次の日の朝から一週間僕がなんとか立ち直るまで彼は酒浸りの生活に付き合ってくれた。

家族がいるのに本当に悪かったと思う。

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52斉で国光が離婚した。

『どうやら俺は嫁を好きじゃなかったらしいぞ』

国光の元嫁は『証拠はないけど浮気をしているのは女の勘でわかる。他に好きな人がいるんでしょう？』『子どもも一人前になったからお互いに新しい人生を送りましょう』……だそうだ。

『……好きだったと思うけどなぁ』

離婚を期に国光は僕の家に入り浸りとなった。

僕たちはほとんど性欲を失っていたし、僕は独身だったので別に構わない。

『君は一回結婚できただけで大したものだよ』

『……うーん』

僕も結構な数の女性と付き合ってきたが。僕よりも優しく僕よりも収入があり、僕よりも顔のいい男なんて世の中には沢山いたので彼女たちの結婚相手には選ばれる事はなかった。

一度は生涯の伴侶として選ばれたかったな。

・

還暦が見えてきた58の年。婚活パーティーなる催しで僕は40代の女性と結婚の手前までこぎ着けた。

彼女もこれを最後の恋にしたいと言っていたし、あとはプロポーズだけだ……という話を国光にしたら彼は僕を押し倒してきた。

悲しいかなどれだけ密着してもお互いの下半身はピクリともしない。

『結婚なんてしないで俺とずっと一緒にいてくれよ』

『君だって一度したろう？僕だって結婚をしてみたい』

『嫁さんの言ってた事は当たってたと今は思う』

『どういう事だい？』

『俺はお前が好きらしい』

『おいおい。君は結局ゲイだったのか？』

『ゲイじゃない。だってお前以外の男に反応なんてしたことないよ。よく分からないがお前という存在が好きなんだろうな』

『……なるほど』

ならば僕もそうなのだろう。僕だって彼以外の男には反応したことはないし、もし今。ここに神が現れ『お前がこの世で一番愛する人はだあれ？』と聞かれたらこいつだと指を差すだろう。

なーんだ僕もこいつが好きなのか。もっと速く気がついていたらよかったのに。

じゃあ彼女とは結婚出来ないな。一番好きな人がいるのに結婚してくれなんて言えない。

『確認したいことがある』

『なんだ？』

『僕たちはゲイじゃないよな？』

『ああ。ゲイじゃない。ただ一番好きな人が男だったってだけだ』

『よし。それならばいい』

愛の力は偉大だ。

すっかり男として終わってしまった老人二人の下半身に奇跡が起きた。

それでも腰やら足やらが痛いので僕たちはゆっくりゆっくり3時間かけて一回のセックスをしたのだった。

・

『他に好きな人がいたんでしょう？分かってましたよ。女の勘です。私は私で他に気になる人が出来たのでお互いに新しい人生を送りましょう』

結婚しようとしていた彼女にはそう言われてフラれてしまった。『最後の恋にしたい』ってのは嘘か。

女の人は怖い。

国光の元奥さんと同じような事を言われてしまったなぁ。

女の勘ってのは当たるんだな。

・

今。僕と国光は還暦の年に買ったお揃いの指輪を右手の薬指にはめている。

『一度は左手の薬指に指輪をしてたからな。右手薬指の童貞はお前にやる』

と彼が言ったので僕もそうしている。

これは……婚約になるのだろうか？

二人で町を歩いていると二人ともミニスカートの女性の足や大きな胸の女性の谷間をチラリと見てしまう。

僕たちは相変わらずスケベだしやはりゲイじゃないのだろう。

結婚も今さら面倒臭いし養子を貰うつもりもない。

この先どうなるかはわからないが人生なんてそんなもの。

僕たちは健やかな時も病める時も死が二人を別つまできっと一緒にいるのだろう。

神父に問われた訳ではないが僕たちはきっと『はい

』と答える。

これはこれでいい人生さ。