1. 失恋と花火と先輩と
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う〜もう!ユーヤのばかぁ!!」
やばっ思わず叫んじゃった……
疎らながら道行く人が私を振り返ってるじゃない。
ちょっと恥ずい……
だけど仕方ないじゃない?
薄い青地に白の愛らしい花の図柄をあしらった浴衣姿。
こんなにカワイく着飾ったのにぃ!
容姿だってそこそこ可愛いと思うんだけどなぁ。
なのに、なのに!
ユーヤのヤツ……あんな女と!!
私、柏木 篝23歳の夏。
失恋しました!
わーん!
私の心のダムは大決壊よ!
「あら?カガリじゃない」
心の中で大泣きする私の背後より這い寄る混沌……
振り向けばヤツがいた。
「ナイアルラトホテ……」
「どこの神よ!」
ではなく、女優さんですか? と尋ねてしまいそうになるほどの美人さんが!!
「あっ、ヒトミ先輩!」
この美人のお姉さんは立木 仁美。
私の職場の先輩だ。
超仕事ができるし、男なんかよりも超カッコいい、超美人の職場の先輩だ。
男女ともにかなぁり人気があるのだけど、本人が超絶鈍感でまったく気がついていないちょっと残念な女性。そんなギャップがまたカワイイんですけどぉ。
まあ、これは職場に問題があるのよね。ヒトミ先輩は完璧超人真っ青の完璧超美人。だから人気もスゴイが嫉妬もスゴイ!
職場にはアンチヒトミ勢が少数ながらいて、ヒトミ先輩の陰口を言い、嫌がらせばかりしてるの。それが原因でヒトミ先輩は自分は煙たがられていると勘違いしているの。
もちろん私をはじめ大部分の女子社員は、サバサバしたキレイな姉御肌のヒトミ先輩が大好きだ。私はそう直接言っているんだけど「おためごかしはいい」と言われてしまった。
ところで、おためごかしって何?
えっ、ググレカスですって!ぇ?
なによアンタ! モテないわよ!!
でもね一番ヒトミ先輩を打ちのめしているのは、アラサーの先輩に未だ彼氏がいないこと。これのせいでモテないと自己評価が低くなっているのよねぇ。
これは職場の男どもが悪い。
どいつもこいつもだらしがないったらありゃしない。
まあ、今の私は他人の心配しているとこじゃないんだけど……
「あら、可愛い浴衣ね……ふふふ、もしかして今からデート?」
突然かけられたヒトミ先輩の何気ない一言が私の心を抉った。
ベアークローから繰り出されるスクリュードライバーよりも深く抉った。
痛い!
それは痛すぎますぅ!!
わかってる。わかっているの。先輩は悪くない。
でも……でも……
目からじわっと涙が溢れてきちゃう。
あっ、ダメ!
決壊しそう。
「ちょっ、ちょっとカガリ! どうしたの!?」
ヒトミ先輩は大慌てだ。
そりゃそーだ。偶然出会った後輩が前触れもなく、いきなり目の前で泣かれたら誰だって焦るもの。
「う、グスッ……ヒック……ううぅ〜うわぁぁぁん!せ〜んぱ〜い!!!」
「ちょっとちょっとカガリ!?」
私は思わず泣きながらスーツ姿のヒトミ先輩の胸に飛び込んだ。姉御肌の優しい後輩思いの先輩は、戸惑いながらも私をその胸に優しく迎え入れてくれた。
「よしよし。もうどうしたのよ?」
うへへへへぇ……
ヒトミ先輩優しいから好きぃ〜。
ぽよよ〜ん
むっ‼
先輩の胸けっこうある!?
き、着痩せすタイプだったんだ。
これは私より3カップは上……
あ、心の涙がまた‼
だけど……ムニムニ……
何これ!?
暖かくて柔らかくて……
「ふぁわ〜先輩、気持ちいぃ〜」
「ちょ! あなた何やって……あんっ‼」
ぐへへへへ……
癖になりそ。
「カガリぃ‼」
ゴツンッ!!!
イタッ!
叩かれた。
しかもゲンコツって……
「まったく!この娘は……」
「ヒトミ先輩、痛いですぅ〜」
私は頭をさすりながら涙目の上目遣いで非難してみる。
「思ったより元気そうね」
すこーしたじろいだけど、さすがに誤魔化されないか。
「優しくしてくださいよぉ。これでもへこんでるんですから」
「まあ理由はだいたい分かったけど」
「え! うそ!?」
「どうせ雄也と喧嘩したんでしょ?」
「な、まぜにそれをぉぉぉ‼」
うそぉ!
何も話してないのに?ヒトミ先輩ってエスパー!?
「浴衣姿で1人で泣いていればねえ」
「ううう……せっかくおめかししたのにぃ」
先ほどのケンカを思い出した私はまたまた半泣きに。
ひゅぅ~~~…………
どどぉぉぉぉぉ~~~ん!!
あ、花火の音。
もうそんな時間なんだ。
ヒトミ先輩一緒に空を見上げれば、色とりどりの綺麗な大輪の花が咲いていた。
赤、青、橙……あ、緑もある。
ああ、ホントにキレー……
でも、どんなにキレーでも幻のように消えてしまうのね。
「私の恋もあの花火のように儚く散ったのね」
「何バカ言ってんのよ」
ヒトミ先輩は呆れ顔。
「もう仕方がないわね……ほら行くわよ」
「え?」
「飲み行くの。愚痴くらいは聞いてあげる」
「わーい、ごちになりまーす♪」
「しっかりちゃっかりしてる子ね」
先輩は苦笑いしながらも嫌な素振りを見せない。
そんなカッコいい先輩の腕に私は自分の両腕を絡ませた。
笑いながらヒトミ先輩は私を誘ってくれる。
こんなに優しい先輩だから、私はこの人がだーい好き!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガールズラブじゃありませんよ?