肉塊にまみれた冒険者の村
ここは冒険者の村だ。
しかし、それは昔の話。
今は魔王軍に占領されて魔物たちがただ徘徊するだけの村になった。
街道を行くのは、腐りきった肉の塊。
近寄れば鼻をつんざく腐敗臭がして、触ってみても粘りつくような粘液の塊が指に絡みつく。
僕が魔物たちに手を触れれば、魔物たちは機械音が軋むような不協和音を叫ぶ。
ゾンビような不死者の類なのだろう。
しかし魔物たちはレベルが低すぎて僕を恐れているのか、襲い掛かってくることはなかった。
フフフ・・・こんな低級魔族でも僕の強さがわかるのか。
「すいませんね。おばあ様突然触ってしまって・・・」
魔王が肉塊の背中(?)をさすりながら話をしている・・・
魔王は人と思えないこんな肉塊と意思疎通ができるのか。
それも年齢までもわかるというのか。
恐ろしい・・・この魔王は俺に一体いくつの隠し事をしているんだ。
いや、待てよ?
わかったぞ・・・
魔王はこの不死者を使って僕を監視しているのか!
そして宿屋で僕が寝ているところを見つけて囲んで襲ってくるというのだ!
恐い。怖い。コワい・・・
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
僕が魔王に恐怖の目線とともに叫び声をあげると、魔王はその白黒の悪魔神官のような姿でぎょろっとした目玉を向け、肉塊の後ろに隠れた。
さすが魔王、まず自分の手下を尖兵にしようというのか。先ほどまで親しく話していた肉塊を盾にするとはな・・・
まあいい。最終決戦は後回しにしようじゃないか。ここは魔法使いと狩人のお姉さん方に倒してもらおう。
お前との決戦はその後だ。
「いけ! 二人とも! そこだ! なぐれ! 弓だ弓を使え! 魔法だ! いいぞ! よーし!」
肉塊は数秒間彼女たちの攻撃を受けている間固まっていたが、魔王と二言三言話すと、背中を向けて傷ついているのか、よろよろとおぼつかない足取りで逃げて行った。
そして魔王は僕に近づくと襟首をつかんだ。
「・・・おとなしくしてください。こんな街中で発作はやめてください」
「ここで決着をつけるか! 魔王! 僕は負けないぞ! お前を倒してやる!」
その言葉を口にすると 彼女はひっ・・・と小さく震えるような声を出した。
「そうだ・・・この人が本気を出したら・・・」
「ああ・・・ああ・・・ああ・・・ほんともう嫌だ」
「どうした! かかってこい!」
「決戦はまた今度にしてください。あなたは勇者といえど、ゴブ・・・(ここからノイズで聞き取れない)
魔王との戦闘の後でしょう。今日はゆっくり休まないと魔王と戦っても倒せないかもしれませんよ」
そうかもしれない。最終決戦は万全な態勢で臨まなければ。この魔王不思議な術を使って眠らせにくるからな。十分寝ておかないと勝てない。
「わかった。そこの宿屋で今日は寝よう」
もう今日は空も赤く日暮れも近いしな。でも僕は最近世界がずっと朱色に染まっていて、朝も昼も夕方も夜も区別がつかないから、はっきりとはわからないが
僕は宿屋に入ったら、魔王は僕の隣から受付の肉塊のところへ走り抜けていった。
「先にチェックイン済ませないと・・・」
僕は魔王を無視してロビーを抜けると、すぐ上の二階に行った。
下の階から魔王が肉隗に謝るような声が聞こえた。魔王が肉塊に謝るのは、よくわからない・・・上下関係ではない何かの儀礼上の関係があるのだろうか。
僕が二階に入るとそこには肉塊がいた。
ここはだめか。この村は当然肉塊に占拠されているわけだから、勝手に部屋に肉塊が住んでいるのだ。
だから僕は一つ一つ部屋を開けて肉塊がいない部屋を確認する。
鍵が閉まっている場合は蹴破って確認する。
肉隗達は僕が入ってくると一瞬動きを止めて僕を見つめるのだが、そんなに人間が珍しいのだろうか。
ダダダダダダ
一階から誰かが駆け上がってくる音がした。
「あああ! こっちの部屋ですこっち! 301号室! 今日はドアを破壊するのだけは止めてください!」
さすが魔王肉隗がどこにいるのか。完璧に把握しているのか・・・どんな技を使ったんだろうか。気配察知魔法か?
その夜、僕は肉隗の汁でベトベトになった二段ベッドの上で眠りにくい夜を過ごしたのだった。