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硝子の箱舟  作者: 花内 湖々
8/8

飽和

レンタカーを返却する時間になった。免許のない私と運転が苦手なあゆみは先にホテルにチェックインしてみんなの荷物を運びこんだ。


歩きまわって疲れた体はベッドに倒れこみたがっていたが、最後に夕飯にもつ鍋を食らうというイベントが待っていた。


愛とアヤカを待ちながら2人きりで過ごす間も、あゆみとは最小限の会話しかしなかった。


2人と合流し、ようやく4人になった。この短い旅行の中ではずいぶん久しぶりに4人がそろった気がする。


福岡で食べるもつ鍋は美味い。4人で過ごすいつも通りの話題、いつも通りの感じ。私は少し安心しながら、もう何回聞いたかわからない同じような内容の話に辟易としていた。


最近知り合ったオトコの話、結婚の話、仕事の愚痴、美容の話…たった4つのこのテーマを、私たちはあと何周すればいいのだろう。


30代だって見えてきたというのに、私たちはいつまでも同じ話題で共感して、時には持論を繰り広げたりしながら杯を交わすのだろうか。


みんな社会人になって職業も住む場所も生活環境も違うのに「同じ」であることにこだわって、それを共有しなければ「女友達」でいられないのであれば、なんてつまらない関係だろう。


それなのに私は、彼女たちから離れるのに妙に抵抗感があった。それは長年連れ添った情があるからなのか、彼女たちとの関係に友情を感じているからなのか私にはわからない。


別に女友達を失うことは怖くない。だからこそ悩むのだ。一緒にいても面白くないのなら離れてしまった方が楽なのに、なぜだか私は彼女たちに執着しているような気がするのだ。


シメのラーメンをすすりながら、私は自分の身をどこに置くべきなのか、ぼんやりと考えていた。


店を出ると2軒目に行こうと言う話になったけれど、酒に興味がなく明らかに行きたくなさそうなあゆみと、もう少し夜の街の余韻を楽しみたい私たち3人に別れた。結局こうなるのだ。もつ鍋屋の周辺をぶらぶらしてみたが、土地勘のない場所では目ぼしい店も見つからず、ただ繁華街を歩くだけだった。


一旦ホテルに戻り、部屋で飲もうという所に落ち着いた。サブスクで配信されている動画を見ながら缶チューハイを流し込み話すのはやはり恋愛の話だ。最近はマッチングアプリで出会うのがメジャーのようで、私もその場でアプリをインストールさせられたが、会員登録が面倒で途中でやめた。そもそも夫がいるというのにわざわざよそに出会いを求める必要もない。


私たちが酒を飲みつつ出会いを求めている中でも、あゆみは風呂に入りすぐに就寝した。疲れていたのもあると思うがやはり私たちに合わせようという気はまるでないらしい。


アヤカは私よりも先に結婚していたが、オトコと一緒に飲んで遊ぶのが楽しいようで、愛と一緒にアプリで良いオトコを探していた。私にはまるで理解できないからいつも傍観しているけれど。


こういう光景を目にする時、なんだか下世話で私は一歩引き下がってしまう。別に自分が上品だとか崇高な考えをしているとは思わないが、オトコを容姿やスペック、年齢で見て勝手に評価をつけること自体、私は好きではないのだ。自分がそうされたら腹が立つのはもちろんだが、単純に、これから一緒に過ごすであろう相手をそんな浅はかな色眼鏡で見てしまって、本質を見逃すのが愚かなことだと思うからだ。


別に愚かさを許せないわけではないけれど、わざわざそんな愚かなことをしてまで他人に時間を割きたいとは思わないし、私は私のことをある程度理解してくれる人でなければ一緒に過ごせないと思っている。


もちろんその場の雰囲気に合わせて振る舞ったり求められていること演じることはできるけれども、それはただの気遣いであって心底楽しんでいるわけではないことも多い。


こういう時、あゆみのことが羨ましいと心底思う。彼女は場の空気を悪くしようが、自分の居心地が悪ければ帰るし相手のことを拒絶もする。純粋なのだ。どうでもいい相手だとわかっているから気に入られようともしないし、自分を優先できる。私はその場の空気を気にしてしまうので愛想の悪い振る舞いはあまりできない。そういう質なのだ。


あゆみはいつだって真っ直ぐだ。優柔不断だけど自分が信じていることに対しては非常に頑固だ。どちらかというと感覚派で、自分が体験したこと以外は信じない。そういう点では私にとてもによく似ている。だから彼女が好きだったのに、いつの間にか人をスペックで評価するようになったし、人と向き合おうとしなくなった。私が彼女に何か引っかかるのはそれが私にとって唐突だったからかもしれない。

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