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硝子の箱舟  作者: 花内 湖々
5/8

虚像

車の窓から目的地の海岸が見えてきた。ただっぴろい海岸の一角には、SNS映えすると有名な黄色い巨大なブランコやカラフルなパネルが設置されていた。写真で見るとしゃれて見えるそれも、実際に見てみると、田舎町の海外に突如現れるフォトスポットには違和感があり、なんだか取って付けられているように見えた。


『SNS映えする写真を撮ったところで誰がその写真を見るのか』とも思うが、私たちはただ社会の厳しさから目をそらして非日常感を味わいたいだけなのだ。その非日常感を味わうのにうってつけなのが『旅先でSNS映えする写真を撮ること』なだけだ。


とはいえ、旅先で幸せそうな自分を演出した写真が撮れても、実生活が充実していなければそれはフェイクにしかならないのだけど。


車を停め、撮影タイム。メインフォトスポットである巨大ブランコと黄色い自販機でひと通り撮影した。撮影中、イスが高くてなかなかブランコに腰掛けられなかったり、私が被写体になっている間、ハチに襲われて大騒ぎしている姿を愛が動画に収めていた。


動画の中の私たちは、まるで箸転がり落ちるだけで大爆笑する小学生のように、無邪気にはしゃいでいた。高校時代の友人と今でも付き合うのは、こういう感覚を忘れないでいたいからかもしれない。


ハチ襲来事件で騒ぎ疲れたあと、近くにあるカフェでジェラートを食べた。愛とあゆみは産地名物らしいタンカン味のジェラートにし、私とアヤカは「美味しそうだから」とミルクとピスタチオのジェラートを頼んだ。


些細なことだけれど、こういう小さな選択にも人間性は出る。私とアヤカが「美味しそう」という自分の感覚でジェラートを選んだのに対して、愛とあゆみは「名物だから」という、ある種他人の感覚でジェラートを選んだ。


どちらが良い、悪いという話ではない。人間の性格に正解も不正解もない。だからみんな迷うのだ。迷って悩んで、その結果選んできたことがその人の経験値になり、人格をつくる。今の自分は、過去の自分の選択によって成り立っている。そういうものだ。


小休憩が終わり、レンタカーの返却まで3時間ほどあったため、車で30分の距離にあるアウトレットモールでショッピングをすることになった。


そこで何故か私たちは、私、アヤカ、愛の3人とあゆみ1人に分かれて行動することになった。私とアヤカは結婚してお小遣い制になり金銭感覚が同じだったこと、私たち3人が服を買いたいのに対し、あゆみは有名ブランドのバッグを買いたいというのもあったけれど。


ファッションの好みはそれぞれ違うけど、私たち3人は何かと気が合った。あゆみと話す時に感じる心のモヤモヤから解放されたこともあり、私は買い物の時間を満喫した。


アウトレットモール内にある広場に集合し、レンタカーを返しに行く道中も、私たちはずっと3対1のままだった。

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