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硝子の箱舟  作者: 花内 湖々
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アシンメトリー

あゆみは「アヤカもみんなと同じこと言うんだね…」と不満げな顔をすると、少し考えこみ、スマホを取り出した。


「みんながそこまで言うんだし、私、彼とはもう連絡取らない。ブロックする!」とチャットアプリの彼の連絡先をブロックし始めた。


「何もそこまでしなくてもいいんじゃない?せめて通知オフにするとか、その程度でいいじゃん」

「でも、そうでもしないと、彼から連絡が来たら私きっと返しちゃうもん。」

「まぁ、好きにしたら?あゆみが決めることだし。ただ彼からすると、今までいい感じにデートしてた相手と突然連絡が取れなくなるのは、びっくりすると思うけどね。」

私は嗜めるようにそう言った。


私も恋愛経験はそんなに多い方ではない。交際人数も、今の夫を含めて3人しかいない。

でも、恋愛だって人間関係のひとつだ。相手が自分に対して誠実に向き合ってくれているかどうかは、相手の態度を見ればわかる。自分が相手にどうしてほしいか、どうしたいかを客観視すれば、それが恋なのか否かにも気付けるはずだ。


「『これからはちょっと距離置きたいからあんまり連絡してこないで』ってメッセージ送ったら『あたおか』って返ってきたんだけど!ねぇ、『あたおか』ってどういう意味?」


ダメだ。あゆみは自分の発言が相手をどれだけ傷付けるものか考えていないらしい。どうしようもないな、と思いながら、私は窓の外に目をやった。


「今調べてみたらね、『あたおか』って『頭おかしい』の省略系なんだって!ひどくない?!」

「そりゃね、今まで何回かデートしてた相手からいきなり『連絡してこないで』なんて言われたら『こいつ頭おかしい』って向こうはなるよ。」

私はアヤカの言葉に深く頷いた。


やはりあゆみは納得していないようだった。


あゆみが社会人1年目の頃に付き合い始めた元彼の恋愛相談に乗っていた時もそうだ。あゆみはいつも自分が彼といて満たされるかどうかしか考えていないような発言ばかりする。


「あゆみってこんな子だったけ?もっと素直で真っ直ぐじゃなかったっけ?」と、その頃から違和感を感じるようになった。徐々に高校時代に感じていたあゆみの良さを感じにくくなっていった。


これはあくまで私の感覚ではあるが、高校時代の『世間知らずだけど素直で努力家』なあゆみから『自分のことしか考えられない』あゆみに変わっていったのは、大学に入学してからだと思う。


あゆみは私たちの住む地域では有名な京都の女子大に入学した。私の進学先も同じく京都の女子大なのだが、あゆみの大学の生徒は華やかでいかにも「女子大生」という印象が強かった。

そこでどんな友達たちに出会ったのかはあまり知らないが、そういえば大学時代は「周りには彼氏がいる子が多い」と言っていた気がする。


「周りは彼氏がいるのに私にはいない。でも、みんなのように恋愛に積極的にはなれない。だけど『みんなとちがう』のは嫌だ」そんな風に葛藤していたのだろうか、いつのまにかあゆみはメイクも服装も派手になっていた。


また、当時アルバイトで家庭教師をしていた時の生徒がギャルだったのだ。生徒に『あゆみ先生、もっとメイクとかネイルとか派手にすればいいのに』と言われてギャル仕込みのメイクや髪型をするようになっていた。その時も『あれ、こんな子だっけ?』と違和感を感じた。


周りと同じになれない恐怖は私にもわかる。でも、私には演劇という趣味があったし、好きなものには全力で打ち込めるタイプだ。だから周りが自分をどう見ているか、自分が周りとちがうことに怯えるほど周りを気にしていなかったのだ。


私とあゆみは学力も同じ、進学先の大学も京都の女子大、おそらく親の経済力も同じくらいだろう。ただ性格だけは対照的なのだ。

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