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硝子の箱舟  作者: 花内 湖々
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鱗片

高校時代のあゆみは「ちょっと世間知らずな変わった子だけど、素直で努力家な真面目な子」という印象だ。英語が大好きで「将来は英語の先生になりたいし、留学もしたい」と言っていたし、そのために一途に努力していた。


また、大学受験も指定校推薦を受けて有名女子大に入学した。推薦枠を獲得するには学校の定期テストや普段の授業で高評価を得る必要があった。


元いた総合進学コースならば彼女の成績で推薦枠を獲るのは容易かっただろうが、成績優秀な生徒が集まる特別進学コースの中で評定平均を満たすのは簡単ではない。しかし、彼女は日々努力してそれを獲得したのだった。そんな彼女を私は尊敬していた。


また、一方では「自分の思い通りにいかないと機嫌を損ねて、突飛な行動に出る」という厄介な一面もあった。


それは卒業旅行でのことだった。2泊4日の旅行で、関西の片田舎から夜行バスに乗り、私たちは東京に向かった。東京に着いて1日目は各々行きたいところに遊びに行くことにした。私と雪江は2人でディズニーシーを満喫し、アヤカは当時付き合っていた彼氏に会いにいった。その他のメンバーは遊園地で過ごし、途中でアヤカと合流することになっていた。


しかし、途中で待ち合わせ場所が新宿駅から渋谷駅に変更になり、それを理解しているメンバーとしていないメンバーがいたため上手く合流できなかったらしい。


あゆみは「そもそも、こんなことになったのはアヤカがみんなと別行動したからだ。アヤカが勝手なことをしなければこうはならなかった」と激怒。

一方アヤカは「待ち合わせ場所の変更は事前に伝えていたし、ちゃんと理解してたメンバーもいるのだから私が責められる必要はない」と反論し、大喧嘩に発展してしまった。


何も知らず、ディズニーシーを満喫した私と雪江は戸惑うことしかできず、その後、優子から事情を聞いて頭を抱えた。


翌日、さらに事件は起きた。

朝起きると、あゆみがどこにもいなかったのだ。

慌てて確認すると、早朝6時過ぎごろ、私宛に「こんな状態じゃ楽しめないのでお父さんの家に帰ります。みんなにはごめんと伝えておいてください」とメールが入っていた。


本当はみんなでディズニーランドを楽しく回るはずだった。むしろそれがメインだった。それが一気に「愚痴旅行」に変わった。


ディズニーランドは乗り物をたくさん乗りたい雪江と里帆と愛、前日の疲れを考慮してゆっくり回りたい私とアヤカと優子とさつきの2グループに分かれて回ることになった。


当然、アヤカからはあゆみに対する文句をたくさん聞かされた。「私の都合で集合場所を変えたのは悪いけどさ、何も帰らなくてもよくない?せっかくの卒業旅行なのに!」とアヤカは言った。


アヤカの話によれば、あゆみらと合流する前にアヤカが彼氏と会っていた場所から元々決まっていた集合場所、つまり、あゆみらが遊んでいた遊園地の最寄駅まで行きにくい場所らしかった。


正論を言えば、せっかくの卒業旅行で友達ではなく彼氏を優先したのなら、アヤカも多少アクセスが悪いのくらい我慢すればよかったと思う。けれど「アヤカの言い分もわからなくはないな」と私は思った。何せ、アヤカが彼氏と会っていた場所は渋谷で、あゆみたちがいたのは都心部からだいぶ離れた場所にあったのだ。アヤカが集合場所を変えてほしがるのも無理はなかった。


一方その頃、私の携帯にはあゆみからたくさんのメールが届いていた。

「せっかくの卒業旅行なのに彼氏に会いに行くとかありえない」「しかも自分勝手な行動しておきながら『今いる場所から行きにくいから』って集合場所を勝手に帰るのもありえない」というような内容だ。


卒業旅行だというのに彼氏に会いに行くアヤカも、たかだか上手く集合できなかっただけで機嫌を悪くして、父親の家に帰るあゆみも、結局自分のことしか考えていないのだ。26歳になった今の私からすればどっちもどっちだし、「子どもだなぁ」と感じる。


結局、それから3ヶ月後にアヤカがSNSであゆみに連絡したことをきっかけに2人は仲直りしたのだけど。


それがかれこれ8年前の話だ。


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