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スペル・キングダム   作者: タミ。
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一章 〜紋章の世界〜


第1話 紋章の世界 〜旅立ち〜


この世界の人口の約3割の人間には、体のどこかに紋章を宿している。


原因は分かっていない。だが、その紋章は神から賜るギフトだと、人々の間では伝えられていた。


それぞれの紋章には、特別な力が宿っていた。


それは、選ばれたものにしか宿らず、紋章を宿した者たちを「スペリア(紋章使い)」と呼んだ。


……………




「アヤトは相変わらず、スペル(紋章)が使えねぇんだな」


アヤト、俺の名前だ。

それに、その言葉を言われるのはこれで5度目だ。


白にも近い金髪で、そこそこな顔立ちをしている少年、ライヤ。

少しつり上がった目からは、呆れという感情が読み取れた。


「あぁ……スペルは宿ってるのにどうしても力が使えないんだ」


呆れるのも無理はない。


俺は、右手に宿った人型のような紋章を見つめる。

わずかに光を放つ鼈甲色の紋章。


この紋章は、俺が6歳になった頃に宿っていた。

しかし、1度だって力を振えたことがなかったのだ。


「俺がスペルを使う時は、力を込めてこう、ぐぅ……ってやるぜ。 ぐぅ……ってな!」


「あぁ…… 参考にするよ……」


俺とライヤは幼馴染だ。


2人とも、16歳になった。


スペルは本来、宿った時から多少の力は行使できると言われている。


実際、ライヤは5歳の頃にスペルを宿し、微弱ではあったが手の平から電気を発生させた。


雷のスペル、それがライヤの力だった。


独学にも関わらず、 今では自由自在に電気を操り、攻撃を繰り出すことも可能だ。



「ご飯できたよー!」


貴族や、富豪達の住む豪邸とはまるで違う、思いっきり蹴り飛ばせば崩れてしまいそうな木造の家から少女が俺たちに呼びかける。


少し恥ずかしいが、これは俺の家だ。


俺はこの家で祖父に育てられた。

父と母の顔は見たことがない。 俺が物心つく前に2人ともこの世を去った。

祖父から聞いた話だが、父と母は商人だった。 ある取引先で何らかのトラブルがあり、暗殺されたのだ。


そして、俺を育ててくれた祖父も1年前に、病気でこの世から去った。


それから俺はこの家で1人で暮らしていた。


そのことを知った2人は、俺を心配し、たまに顔を出してくれるようになった。


ちなみに、この少女、コトハも俺の幼馴染。


綺麗なブラウン色の長い髪を靡かせ、その整った可愛げのある顔で男達からの人気も高い。


面倒見も良く、コトハの周りには人が集まる。

俺はコトハを本当に尊敬していた。


「コトハ、いつもありがとな」

「ううん。 2人が頑張ってるのを見て、少しでも力になりたくて…… これくらいしかできないけど……」

「腹減った! 早く食いに行こうぜ!」


ライヤは地面をジタバタと踏みつけていて落ち着きがない。


「ライヤ、もう少しコトハに感謝をだな……」

「ん? 感謝してるぜ? だから飯にしようぜ!」

「本当にしてるのかそれは……」


俺たちは、コトハの作ってくれたご飯で昼食をとった。


「かぁぁぁぁ! うんめぇなこのサラダ!」

「ありがとう、ライヤ。 今はリム草が収穫期でね、たくさん取れたからふんだんに使ってみたの」

「リム草か! 聞いたことあるぜ! たしかリム草は収穫期になると酸味が上がるんだよな!」

「たしかに、このサラダは絶妙なしょっぱさが味を引き立ててる気がする…… さすがコトハ」


そう、コトハは家事全般もこなす。

料理だってお手の物なのだ。


突然、ライヤが切り出した。


「アヤト、コトハ。 俺は3日後、この村を出る。」


あまりに唐突な告白に数秒、時間が止まる。


「びっくりしたか? けど、もう決めたんだ。 俺は"スペルキングダム"を目指す。」


"スペルキングダム" それは、世界最強のスペリアの称号。

数千万を超えるであろうスペリア達の、頂点に立つ存在。


「あまりに唐突で状況の整理に時間がかかったよ。 そうか、行くのか、ライヤ。」


「ライヤ…… もしかして1人でこの村を出るつもりなの?」


「あぁ、そうだ。 アヤト、お前はどうだ? 一緒に行くか?」


力はまだ使えないが、俺だってスペリアだ。 どこかで村を出ることは決めていた。 だが……


「いや、俺はまだこの村に残るよ。 スペルが使えないのならそれを埋めるために、もう少し鍛錬を積む。」


「そうか、なら先に行くぜ。 スペルキングダムになるのは俺だ。」


ライヤの言葉に少しホッとした。

俺にその言葉を放ったライヤの目は、姿は、紛れもなく本気だった。


「あぁ…すぐに追いつくよ。 悪いけど、スペルキングダムは譲らない。」


「ふっ、安心したぜ。とりあえずお前は早くスペルを使えるようにしねえとな! 」


その通りだ。 どれだけ体を鍛えてもスペルが使えなければ話にならない。


「わかってるさ。よし、気合いを入れ直すか!」


「2人共、勝手に話進めないでよ! 2人がこの村を出るなら、私も出る!」


コトハがほっぺを膨らませて言う。

正直、可愛い。


「なら、コトハはアヤトに付いてやれよ。 お前らはお似合いだし、いいパートナーになりそうだ。」


「なっ……!」

「ば、馬鹿! 別にそんなんじゃないもん!」


分かりやすく俺もコトハも顔を赤らめる。


「はは。 ほら、お似合いじゃねぇか。」


「からかわないでよ!!」


「ライヤ、本当にお前は1人でいいのか?」


「もちろんだ。」


ライヤは笑顔で答えた。


「分かった、コトハのことは任せてくれ。」


「ライヤ、気をつけてね。 絶対無理しちゃ駄目だから!! どんなに辛くても、無理しちゃうのがライヤの悪い癖だから!!」


「分かった分かった。 村を出るのは3日後だし、その間はアヤト! お前の鍛錬付き合うぜ!」


「あぁ、頼む!」


………………


3日後、ライヤは旅立った。

自分の生まれ育った故郷を見つめ、視線を俺たちに移した。

ほんの数秒、俺たちを見つめながら沈黙していた。 そして、「いってくる、また会おう」 そう言って村を出て行った。

ライヤの表情からは、寂しさや不安のようなものを感じた。 だが、すぐにそれらを振り払い真っ直ぐ前を向いていた。

俺とコトハは、ライヤの背中が見えなくなるまでライヤの旅立ちを見送った。


………………


ライヤが旅立ってから、約半年が経った。


「コトハ、忘れ物はないか? "ステッキ" は持ったか? 」


「うん、大丈夫! 持ってるよ! 」


"ステッキ" とは、通称"スペリアル・ステッキ" と呼ばれ、その名の通りスペリアによってスペルの力が付与されたステッキのことである。

ただし、付与できる力には制限があり、通常のステッキに付与できる力はさほど多くはない。 よってスペルの力を使えるのは基本的なステッキでは5回が限度となる。


俺は目を閉じて故郷での思い出を振り返る。

そして、大きく息を吸い込み、大きく息を吐く。


胸が高鳴る。 準備も万全だ。

ついにこの時が来た。


「よし、行こう!!」










 















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