聖なる獣のお伽噺 ⑥ 【初台慎也】
どうもヤッちんです。
私はあの後、目隠しをされて初台慎也さんに、遠く何処かに連れて来られました。
椅子に座らされて、目隠しを取られた時には、広い洋館の様な造りの部屋に居ました。
ヴェルサイユ宮殿にもでもありそうな、大きなテーブルとそれとセットのイスもあるが、そこまで高そうにも見えない。と言うより、高そうに見せようとしてる部屋という方が合ってる感じです。
大きな革張りのソファー並ぶけど、それも一見高級そうだが、多分合皮だ。
暖房は、効きすぎってくらい効いている。
古いヒーターなのか、コォーと少し煩いくらいに音がしていた。
片側の壁には、いくつものモニターが並び。
その中心に100インチくらいありそうなモニターがある。
モニターの有る壁の、横の壁は一面のガラスだ。外は暗くて分からない。
私はそんな部屋のモニターの前に、ポツンと椅子を置かれ座らされていた。
「此処は?」
私は初台さんに訊く。
「そうだな? さしずめ俺の秘密基地って所かな?」
そう言って、モニターの下にある操作台のスイッチを押す。
そうすると全てのモニターが付く。
ボタンを順に押して行くと、大型モニターの画面が切り替わる。
その時に、小さなモニターの1つと、大きなモニターの映像がシンクロしている。
大きなモニターは、小さなモニターの映像を拡大して見る為の物らしい。
そのモニターに映っているのは、土手?
雪が疎らに残る土手だ。
「此処は元々スキー場なんだよ。3階建と大きくは無いけど、受付が、一応宿泊できるホテルになってる。でもその分、造りは中々凝ってる。それが今いる所だよ。でも温暖化の影響なのか雪が降らなくてね。いや、降るには降るんだけど、あまり積もらなくてね。もう少し北に在れば良かったのかも知れないけど、それで潰れたんだ。それを俺が買い取った。人家からは10km近くも離れてるから、多少派手な事をやっても平気だ」
なるほど、此処はスキー客向けの洋風作りのロビーだ。
リゾートで、高級ですよーって造りなのだ。
どうせなら、もっとロッジ風にすれば良かったのに。センス無いなぁ。
大型モニターには、ドラム缶で焚き火をしながら、暖を取る男達が見える。
100人以上居そうだ。
「彼らは?」
「所謂、半グレとか不法滞在の不良外国人とかだよ。ヤクザも居るかな? ある意味、口が固い連中さ。男1人をリンチしてくれたら、1人10万払うって部下に集めさせた」
「ーー見ても?」
横一面の窓ガラスを見て、私は訊く。
「ああ、逃げないなら、好きに動いて構わないよ?」
私は窓ガラスに近寄る。
そこからは、下に広がるスキーコースが見えた。此処はスキー場の頂上だ。
麓に、いくつも焚き火を焚いて、その周りに人が群れて居るのが見える。
多分、モニターに映っているのはあそこだ。
「男というのは、凪さんですか?」
「ああ、俺なりにずっとアイツの事を調べて来た。とんでもない化け物だ。アイツがこの数相手に、どう戦うか見たい」
「そんな事の為に?」
「ダメかい?」
「ダメです。みんな殺されちゃいますよ?」
「……。」
「何か?」
「凪の心配じゃ無いんだね?」
「ええ。心配する必要がありますか? 凪さんの事を調べたんでしょう? あの私を拐った人達がどうなったか見てたんでしょう?」
「うん。アイツはなんだろうな? 何なんだい? 教えてくれないか?」
「凪さんは、凪さんですよ」
「ーー。」
初台さんは不思議そうに私を見て
「所で君は本当に肝が座ってるね? 怖く無いの? 凪を信じてるから?」
と続ける。
「両方です。怖く無いし、凪さんを信じてます」
凪さんと戦いたいなら、自衛隊でも出動させなきゃ、無理だろう。
しかもフル装備の。それだって、よっぽど作戦を練らなきゃ、足止めくらいしか出来ないだろう。
「どうして怖く無いの?」
まあ私が死なないからというのも大きいけど
「最初に私を拐った人に、私を傷付けるなと言いましたよね? それにさっきも、ドアノブに触れるなって私に言った。ドアノブに流れた電流を例える時に、テーザーガンより電流が高いと言いましたよね? テーザーガンは、スタンガンの一種です。相手に危害を加えずに、制する為の物です。あなたは危害を加えずに身動きを取れ無くしたいだけだって、自白していたんです。殺す気なら高圧電流を流せばいい。しかも、死なない電流しか流れてないドアノブに触れる事すら、私を気遣った。高城さんも脅す為に犯して殺すと言ったけど、それも私に大人しく従わせる為です」
「君を生きたまま捉える為かも知れない? 凪をおびき出す為に」
「なら尚更、殺す気はないと言うのは確かですね? 生きてないと人質になりませんし」
「……参ったねぇ。君には。高圧電流が流れてると、言えば良かったよ。そうだね、人質にしてるんだもんな」
初台さんは頭を掻き言う。
「貴方はどうして私を怖がらせたいんですか? 逃げませんよ。ただ、貴方には逃げた方が良いと助言しますけど」
「君は不思議な子だな? どうして怖がらせたい? か。そうだなぁ? 凪を信じてる君が気に喰わなかったんだろうね」
「正直ですね?」
「でもどうして、この状況で、君に危害を加えるかも知れ無い相手を気遣えるんだ? 危害を加えないと思ったって、なんでそこまで俺を信用出来るんだ?」
「それは、貴方が凪さんや私より、圧倒的に弱いからです。勿論、外の人達も、貴方の経済力も含めて」
「Qに対しての、Aじゃないだろ? 君、俺に拐われたじゃないか?」
「でも、弱いです。拐われてあげたんです」
「……。」
初台さんは困った顔をして私を見て
「そうか、そこまでなのかぁーー(凪さんの強さは)」
と腕組みして考え込む。
凪さんの事を結構調べてるらしいから、一概に否定も出来ないんだろう。
本当に正直な人だ。
「お金持ちなんですか? 色々、準備して」
「うん、俺は金持ちだよ。凪を殺す為に金という力を手に入れた。めちゃくちゃ苦労して」
「貴方は誰なんですか?」
「だから初台慎也さ。ちゃんと本名だよ?」
「じゃあなんで、最初のヤクザさんに八川勝美と名乗ったんですか? 意味があってですよね? あの事件の事を、凪さんに思い出させたかったんですよね? 前に事務所を荒らして、八川勝美の名前を書いたのも貴方ですよね?」
「ああ、八川勝美は僕の兄貴だよ」
「ーーああ、やっぱり」
「知ってたの?」
「いいえ。状況から考えて、そんなかな?と」
「兄貴はどうしようもないクズだった。親父もお袋も、手に負えなかった。直接家族に危害を加えるような、家庭内暴力は無いってなってるけど、2つ下の俺はずっと兄貴に暴力を振られていた。虐待されてたんだ。裁判を軽くする為に黙ってたんだ。親と弁護士に言われて。凪が兄貴に復讐するのは分かるけど、なんで親父とお袋をあそこまでしたんだ。確かに俺の件は黙ってたけど、あの状況じゃそこまで判決を左右しないだろう。焼け石に水だよ。精々、医療少年院での治療に役立つくらいだ。その治療も、効くんだか分からないカウンセリングとかだろうし。何となく、頑張ってますって態度を弁護士が示す為に、言い包めて親父達にやらせたんだろう。色々やった悪足掻きの1つだ。親父とお袋の遺体確認の時には、俺はもう成人してたけど、足が震えたよ。どうして、人にここま出来るんだってね。俺が君を傷付けたくない理由は、そういうのもある。恨みがあるのは凪だ。君は突然凪の元に現れ、君と凪の関係は分からないけど、俺は関係ない君を傷付けない。俺は両親が殺された時に、海外に留学してた。兄貴の件で、この国には入れなくなった。ネットで俺の名前も世間に知れてたからね。何もして無いし、むしろ被害者なのに、世間の扱いは兄貴の共犯だ。謂れの無い差別や偏見、暴力も受けた。顔も知らない奴からね。地獄だった。それで特別養子縁組をして、八川慎也から初台慎也に変えたんだ。それでも、社会の目が怖くて、大学卒業後はそのまま、留学していたアメリカで就職したよ。そして、向こうで知り合った仲間と起業して、ひと財産築いた。そうしたら、何故か凪に対する何かが込み上げて来て抑えられなくなった。それから凪に対する復讐の為の計画を練り、実行する事を考えるようになった。何度も色々な方法で凪を陥れて、殺した。勿論、頭の中でね。金を増やしながらーー」
ふと、昔凪さんが波久礼さんに言った言葉を思い出す。
※P179参照
「貴方は凪さんの事を調べたなら、凪さんが沢山人を手に掛けて来た事を知ってるでしょう?」
「ああ。化け物がーー」
「凪さんが昔、知り合いの人に言ったんです! 自分が殺したのは2人だけだって!? でもその事については、もう法的には償って居るって。それって初台さんのご両親の事ですよねっ!? 凪さんが殺すのは、殺されても仕方ない悪人ばかりです! 彼らの事は、人として数えてませんっ!! 人を殺したなんて思って無いんです!!」
「どうしたんだい急に!?」
私は興奮して、気が付かない内に声が昂ぶっていた。
「…いえ。良く分からないけど、凪さんはご両親を殺してしまった事を、何か特別に思っていると思うんです。きっと後悔しているとーー」
「だから、凪を許せと?」
「いいえ。ただ、私も良く凪さんが分からない時があるんです。何か、凪さんの気持ちを知れるかとも思ったんです。きっと、凪さんなりにご両親の事が引っ掛かってて、それで他の犯罪者とは別にしたのかとーー」
「……もうそんな事、どうでもいいさ」
初台さんは、小さく言った。
それが何かを諦めているように感じた。
何かは分からないけどーー。
「君はきっと良い子なんだね。凪が側に置いておきたい理由も分かるよ。君に迷惑を掛けた事を詫びたい。嫌なものも見せたろう? すまない」
「いえ。あの?」
「なんだい?」
「やはり、逃げませんか?」
「君を連れてかい?」
「違いますよ! ふざけないで下さい」
「あははは。冗談さ。もう引きないよ。俺は一歩踏み出す事にしたんだ。今終わらせられない」
「……。」
「それより。お腹減ったろ? 俺は腹が減ったよ」
「いえ、私アレルギーで。あ、あの? ブラックサンダーしか食べれないんです?」
当然そう答えるしかない。
人肉が主食とは言えない。ブラックサンダーは、あくまで非常食みたいなものだ。
まあ食べなくても死なないから、おやつかな?
「本当に? 冗談言ってる?」
初台さんは笑った。
「いえいえ!?」
私は首を振り
「本当です!」
と真面目に答える。
「そうか。じゃあ、良かった」
「え?」
「俺もブラックサンダー大好きで、買い溜めしてあるんだ。嘘じゃ無いよ」
そう言うと、初台さんは部屋から出て、暫くしてダンボールを抱えて帰って来た。
「部屋の外は寒いね! ちょっと出ただけで凍えるよ」
そう言うと、テーブールの上にダンボールをひっくり返す。
そうすると大量のブラックサンダーが溢れ出てくる。
「本当だったんですね?」
「ああ。嘘言う意味もないだろう? コーヒーは飲める?」
「飲みもは平気です」
「じゃあ、コーヒー入れるよ。紅茶もあるけど?」
「コーヒーが良いです。私がやりますよ」
「……。」
初台さんは考えていた。
「大丈夫逃げませんよ」
「そうしてくれると助かる。此処で外に逃げられて、山にでも入られたら君を凍死させる事になるからね。それは絶対にあっちゃならない」
私は初台さんの真剣な顔に思わず笑った。
何だかおかしな関係になって来た。この人は凪さんの敵なのだ。
ーーそれなのに。変なの。
「これは、笑い事じゃない。本当の事だよ!」
初台さんはもっと真剣な顔で言ったから、私はまた笑ってしまった。
それを見て、初台さんは困ったような怒ったような顔をした。
私はロビーの裏にある小さなキッチンを教えられて、お湯を沸かす。
ちゃんとした豆のコーヒーがあって、好印象。
サーバー(コーヒーポット)の上に置いた、フィルターを敷きコーヒー豆の入ったドリッパーに、沸騰させてから少し冷ましたお湯を注ぐ。
ーーその温度、約90度。
少し注いで、1分くらい蒸らしてから、のの字にお湯をゆっくりと注ぐ。
出来上がったコーヒーの入ったサーバーをトレーに乗せる。
余ったお湯を注いで、温めておいたカップのお湯を捨てて、それもトレーに乗せる。
さっ! 早く急がないと、カップもコーヒーも冷めてしまう!!
ロビーに行くと、テーブルで初台さんがまだ食べずに待っていてくれた。
「先に食べてて良かったのに。遠慮せず、食べて下さい。すぐコーヒー入をれて、私も食べますから」
私にそう言われると
「そう? でも待ってるよ。1人の食卓がずっと続いてたからね。誰かと、一緒に食べたい」
と初台さんはブラックサンダーを1つ取るが、目の前に置くだけだ。
私はコーヒーを直ぐに入れて、テーブルに着く初台さんの前に置く。
自分の分も入れる。
初台さんは、私のコーヒの横にブラックサンダーを一袋置いてくれた。
「カップ温めたんだね?」
コーヒーカップの取っ手を持った初台さんは言った。
「はい。その方が美味しいです」
「本当に気が利いてるし、何より肝が座ってるよ、君はーー」
「呆れてるんですか?」
「感心してるんだよ」
「そうですか。じゃあ、ありがとうございます」
「どういたしまして。よし、じゃあ君も席について、一緒に食べよう」
ブラックサンダーの山を前にし、
2人で「いただきます」と言って食べ始める。
私は一口口に含みながら、見るともなく初台さんを見る。
さっきは、良い子だと言ってくれたけどーー。
ああ、きっと初台さんは、私が凪さんが初台さんを絶対に殺すと思ってると思ってる。
それなのに、ルンルン気分でコーヒーなんて入れて、一緒にブラックサンダーなんか食べて、頭のおかしい子だと思っていないだろうか? 心配だ。
「君は本当に凄いね?」
ブラックサンダーを食べながら初台は言う。
「な、何がですか?」
頭の出来が凄いのかな? そう言われたらどうしよう??
「本当に全然、怯えてない。その上、俺を油断させ逃げようなんて、これっぽっちも思ってないだろ?」
「だって、外に出たら凍死しちゃうんですよね?」
「それにしたって、この施設内なら逃げれる。凪が来るまで、俺から逃げてる事だって出来る筈だ。いくら何もしないって言ったって、普通は心情的にはやはり、隙があれば逃げたいのが人情だろ? 余程、凪を信頼してるんだね?」
「ああそれは、違いますよ?」
「違う? さっき言ったろ?」
「今は違います。あなたを守る為です。外の人まで守れませんが、凪さんが此処に来たら止める事は出来ます。私の言う事は聞いてくれる筈です」
「君が僕を守ってくれるのかい?」
「はい。殺されちゃいますよ? 冗談抜きにーー。100パー(%)」
「そうかぁ。死にたくはないなぁ」
初台さんはうーん。と、額に手を置き苦悩する。
「はい。だから私が止めます。ぶっ殺されます。出来れば諦めて逃げて欲しいんですけどーー」
「でも、俺はどうしてもアイツに言いたい事があるんだ」
「言いたい事? 何を?」
「今は秘密」




