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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
聖なる獣のお伽噺
49/56

聖なる獣のお伽噺 ③ 【高城夕生】

凪が夜に帰宅すると


ドスンッ!


と、背後から衝撃を感じる。


振り返るとそこには、この前ボコボコにした通り魔のキモ豚が背中に包丁を突き刺していた。


「はぁはぁっ!!? 髪の毛の仇だっ! 俺のま◯かを破きやがって!!」

キモ豚はまた性懲りも無くま◯か☆マ◯カの新しいTシャツを着ていた。

「お前まだ捕まって無かったのかよ?」


「うぐっ!!?ーーッ!!?」


凪はキモ豚に喉輪をして喉を潰し、事務所のビル内に連れ込むとーー


ーーッ!!?  ーーッ!!? ーーッ!!? ーーッ!!!? 


キモ豚の四肢を引き千切って、ビルの玄関内にあるドアを開けて、そこから通じる駐車場に千切った手足共々放り投げた。


キモ豚はまだ息があったが、喉が潰れていた為に、助けなど呼べなかった。

そして、四肢からの大量の出血は、間も無くの臨終を意味していた。


まるで子供が戯れに虫の手足を千切るように、凪は鼻歌交じりに、キモ豚を惨殺した。


凪は何事も無かったように、エレベーターに乗って、先に事務所に帰っているヤッちんの元に向かった。


「凪さん、何してたんですか?」

車にスマホ取りに行っただけなのに、時間掛かったな。

どうせロクでも無い事をしていたんだ。絶対そうに違いない。

「事務所の入り口に、どデカイゴキブリが居てさ」


ーーゴキブリ!?  こんな冬に!! しかもどデカイ!??

まあゴキブリの活動期間は分からないけど。

とにかく、私はあまりゴキブリが得意では無い。

あのいきなり不意を突くように、猛ダッシュするのが苦手だ。

気持ちを作りようが無い。

どう身構えても、絶対に驚かされるビックリ箱みたいだ。

心臓に悪い(不死身だけど)。


「退治してたんだ」

と凪さんは続ける。


ふっ良くやったぞ!

褒めてやろう。


「良いって、そんなのーー」

凪さんは笑った。


私の心を読むな! 気色の悪い無駄な特殊能力発動しやがってーー。


翌日、下に行って凪さんが退治したゴキブリの正体が分かった……。

どデカイゴキブリさんです。


ーーゴキブリさんの正体は、こないだの通り魔の人でした。


もう既に息絶えているが……。

これを、私が食べるのは嫌だな。

しかも、バラバラグチャグチャじゃないか?


とにかく、パパラッチヤッちんの出番だな!

ヤッちん砲(文◯砲)発射だ。スクープだぜ!

私はポラ次郎を取り出し、通り魔の人の死体を写す。


カシャッ!


ウイィィ……ン


ジイィ……


フィルムが出て来る。


パタパタ、フィルムを乾かす。

そして出来た写真を見る。


うわっ!? グロだ!

激しいグロ画だ!!


これは凄いスクープだぜ! こんなの発表されたら凪さんも終わり。

うしし。

……そして、私も終わり。

……うーん、文◯ごっこアホくさ。


「ーーコラッ!」


背後から声が


きゃっ! 私はその声に驚き、思わず首を竦める。


「そんなの撮ってぇー? ヤッちんは悪い子だな? 悪い子はprprしちゃうぞ?」

声の方を振り返るとーー。

凪さんでした。

悪い子!?? prpr!??


「知ってたしぃー! どうせこのビル、私と凪さんしか居ないしぃー! ビビってなぃしぃー!!」

私は喧嘩腰で、巻き舌で言う。


「きゃっ、て首すくめてたじゃん? 照れてんの? 可愛い」

凪さんは私を馬鹿にしてニヤニヤ笑って言った。


ーー殺す!


私は右腕を伸ばし、凪さんに掌を向けた。

「何それ?」

「ビックバンアタック」

「へえ」

「……」

「……」


「捕まえて殺しちゃったんですか?」

「違うよ。こいつ馬鹿だから、わざわざ外で俺を待ち伏せしてて、背中に包丁刺しやがったから殺ったんだ。そのまま逃げてりゃ良かったのに。だから、通り魔とかすんだよ」

「捕まえて、高城さんにでも渡せば良かったじゃ無いですか? きっと上手くやってくれましたよ。私この人食べたく無いですよ? 凪さんが責任持って食べてください」

「やだよ。人喰うなんて鬼畜の所業じゃ無いか?」


ーーなっ!?

私を鬼畜呼ばわりしおってコイツ!!


「 嘘だよ。コイツは溶かして下水に流そう」

凪さんは平然とそう言う。

そして

「 流石に、これをヤッちんに食わせられないよ。キモいもん。人間だって病気の豚や牛は喰わない」

と続ける。


最近は死体が増える一方で、駐車場の大型冷凍庫にも入り切れないので、

食べ切れない死体は凪さんが酸で溶かした後、中和し濾過してから、下水に流していた。

濾過しないと、さし歯とか、骨折の時に入れた補強器具とかあった場合、酸で溶け切らない人工物が、下水に引っ掛かったり、発見されると、鬼畜の所業がバレてしまう恐れがある。

そういう物は別に処理するのだ。


もう完全にサイコである。


私は人喰いの怪物であるが、流石にこの生活は私の長い人生の中でもかなり異常である。

凪さんは元々は普通の人間だ。

普通ならこの状況に発狂したり、いくら相手が犯罪者でも罪悪感で押し潰されそうな状況なのに、至って心身共に凪さんはすこぶる健康である。


それにしても最近、殺し過ぎである。簡単に殺りすぎる。

私と凪さん、どっちが化け物だか分からないです。


「これ早く片付け無いと、高城さんが来ますよ?」

「分かってるよ。だから来たんじゃん」


今日は、午前中に高城さんが来る事になってます。

仕事の依頼みたいです。

最近、高城さん関係の仕事が続いていて、今月は中々懐具合が楽しみです。


皆さん忘れてるかも知れませんが、高城さんは凪さんと仲の良い女刑事さんです。詳しくは第1話辺りを読んでください。


そして私はこれから、切れたお客様に出すコーヒーの豆を買いに行くのです。


「ーーと言うわけで、私は行って来ますんで」

「何が、ーーと言うわけで何だ?」


コイツ、さっきみたいに心を読めよ。

無能が! ゴラッ!

私は真顔で一切顔に出さずに、見下し、この無能を蔑みました。


「そうやって俺を見下し蔑むのはやめろよぉー? 無能は酷いだろぉー?」


ーー今ッ!?

 

今、能力発揮!!? 覚醒!?

こう見えて、メンタル弱いのかな?


「興奮するだろ? えへへへ」

と凪さんは喜ぶ。


ドMッ!!?


ーーああ、時間無いんだった!? バカと、バカなことをしている暇は無い!


「お客様に出す、コーヒーの豆が切れてるから、買いに行くんですよ。行って来ます!」

「客って、高城だろ? 馬糞に、ションベンでも出しとけばいいじゃん?」


ムジナか!

ウチはムジナの事務所か!!


「ああでも、やっちんの黄金水は勿体無えなぁ。えへへへ。どんな味がすんのかなぁ?? huーっ」

と、いやらしく私に問うように言う。

セクハラ企業death!


やめろ! もう口を開くな!! 死ね。すぐ死ね!!

ーーああ、時間無いのに!!


「私はすぐに買って来ますで、早く片付けといて下さいね」

「一緒に行くよ? 危ないじゃん?」


危ないのは、お前の頭がな!

無駄な異能者が!!


「良いです。〇〇(スーパーの名前)だから、直ぐ側ですし」

私は変態にそう言い、近所のスーパーにコーヒー豆を買いに向かった。


コーヒー豆を買いスーパーから出て来ると、


「ヤッちん!」

走ってストーカーが迎えに来ました。


凪さんです。


「ちゃんと片付けて来たんですか?」

「当たり前だよ。ヤッちんの為に走って来たんだから。ああ、後ヤッちんもあのポラ処分しなきゃダメだよ? どっかに漏れるとヤバイからね」

「分かってますよ。高城さんが来るんだから、凪さんは待ってないとーー」


もう! 高城さんが来ちゃうじゃないか。 


凪さんは、何気なく車道の側を歩き私を守る。

いつもはバカな事ばかりだけど、凪さんは本当に良く出来た、下僕だ。

うしし。


「下僕とか酷いよ?」


だから、心を読むな!


「あっ?」


「え?」



ーードンッ!!


凪さんが車に跳ね飛ばされた。


キキィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!????


凪さんを引いた黒い車は、キューブレーキを踏み私の少し前に止まると、

中から若い男が出て来て、私を抱き上げると車に押し込んだ。


やっべ!!? 私、拐われとるっ!!


キルルルルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!???


車は急発進する!


振り返ると、バックウィンドウから、走って猛スピードで追い掛けて来る凪さんが見える。


がーー。


凪さんは、途中で追うのを辞めた……。

そして、立ち尽くし、じっと過ぎ去る車を見詰めていた。


「……な、なんだ。アイツ?」

隣に座った、私を拐った男が、青ざめた顔で言った。


「思ったより、当たりが弱かったんだろうっ!? 驚きすぎだ!」

助手席の男が、冷静を装い言う。

笑ってるが、後ろから見える横顔がヒクついている。


「…………ッ!?」

私の横の男は何も答えずに、もう既に見えない筈の凪さんを見詰めていた。


男が驚いたのは、跳ねられて直ぐ追い掛けて来た事じゃ無い。

最後に自分達に向けられたあの形相だ。


凪さんは鬼の形相で、走り去る車を睨み付けていた。


ーーああ。

また血の雨が降りそうだな。


ーー私は小汚い小さなビルの1フロアに連れて来られた。


椅子に座らされて、ロープで体を椅子の背と一緒に縛られている。

周りには5人の男が居て、外にも、ーー見張りだろう、男が3、4人居る。

1番下は10代後半くらいじゃないのかな? 上はいってても30前半くらいだろう。

若いグループだ。

格好からすると、チンピラだな。


「解いてやれ!」

椅子に縛り付けられた私の縄を解けと言ったこの男が、リーダーなのだろう。

ずっと命令している。私を誘拐した時に、助手席にいた男だ。


部下の男が私のロープを解いた。

リーダー格の男が続ける。

「よし全裸にしろ」

「いや、でも、大事に保護しろってーー」

「馬鹿野郎。乱暴はしねえよ。服を脱がすだけだ。何持ってるか分からねえだろ? 乱暴じゃねえ。身体検査だよ。大事だろ? このお嬢ちゃんと、俺ら、両方の為にーー」

リーダー格の男はニヤニヤと言う。

絶対に目的が違うだろう。カスめ。


「ーーあのう?」

私は言う。


「なんだ? 安心しろ、服を脱ぐだけだよ。ビデオに撮ったりしないからね?」

リーダー格の男は、ワザとらしく優しい口調で言う。


ーーキモいな。

「コレ」

と、私はポケットの中の物を出して、差し出されたリーダー格の男の掌の上に置く。


「ーーん? なんだ?」


リーダー格の男は、それを覗き込み不思議そうに言う。

男の周りを部下の男達が囲む。そしてリーダーの掌の上の物を、同じく不思議そうに見る。

「ライター?」

「まだ子供なのに悪い子だなまったぁ。やっぱ、お仕置きも必要かな?」


それがなんだか彼らに教えてあげる。

「GPSです。脱いで調べるまでも無いですよ」


「ーーGPS?」

「兄貴、発信機っすよ!」

「なっ!?」


その時、


…コンコン。

……コンコン。


誰かが部屋のドアをノックした。


「誰だっ!? 木田か? ノックなんかして無いで入れよっ!」

リーダー格の男が訝しげにドアの向こうに言う。


「……ご注文の害虫駆除屋です」


「は? 頼んでねーよ! つか、此処空きビルだろっ!?」


……凪さんだ。


私はこれから起きる惨劇を想像する。


ドアが開き、隙間から何かが4つ投げ込まれ、床をゴロゴロと転がる。


「スイカ?」

「ボウリングの玉か?」

「なんで、そんな物をーー」


んんっ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!????


皆、それが何か気付き絶句する。


「木田ァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!????????」


リーダー格の男は叫ぶ。


投げ込まれたのは、4つの頭だ。


頭1コ分開いていたドアは


ーーバタンッ!


と音を立てて閉まる。


「クソォーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!???」


リーダー格の男は懐から銃を抜き、閉まったドアに向かい、撃てるだけ撃つ。

バリバリと音を立てて、ドアがボロボロになって行く。

銃の先に、何か付いてるからなのだろう。発射音が小さい。

似た物を、第二次世界大戦で見た事がある。


カチャッ! カチャッ! カチャッ! カチャッ!

全弾撃ち終わっても、男はこれでもかと空撃ちしていた。


じきに我に返り、

「ドア開けてみろっ!?」

そう言った。


部下が脇の壁に身を隠しながら、ドアを恐る恐る開ける。


……そこには誰も居ない。


がーー!!?


ーードンッ!!


と、爆発音にも似た音を上げて、壁に頭一つ位の穴が空き、

そこからドアを開けた男が、頭から引っ張り込まれる。

不思議な光景だった。まるで、穴に吸い込まれて行く様だった。

男の体が消えてーー、穴の向こうから、目がこちらを覗く。


そして、また


バタンッ!


とドアが開くと、今消えた男の首が投げ込まれる。


うわああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


男達は発狂した様に叫ぶ。


うーん。

もはやホラー。


「なんなんだよぉーーーッ!!!? アレはなんだっ!!?」

リーダー格の男は、情けない声を上げる。


男達は部屋の中心(私の横)に集まり、青い顔をして周りをキョロキョロと見る。

自分達を襲う何かを見定めようとしているが、敵は壁の向こうだ。

透視能力でも無い限り分からないだろう。

ただ、この様子だと、凪さん関係で恨みを買った訳では無さそうだ。

私の事も知ってる様子は無いーー。

何だこの人らは?


バン!バン!バン!バンーーッ!!


「今度は何ダァーーーッ!?」

もはやリーダーは発狂寸前です。


四面の壁が鳴り出す。

音はどんどん増えてーー


バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バンーー、


部屋中が音に包まれる。


凪さんのナイスサプライズ。

演出掛かってるな。

裏から叩いてる凪さんを思い浮かべると滑稽だ。


「ヒィィィィィーーーーッ!!!? 何なんすかァッ!? このガキ、一晩監禁すりゃ良いってだけの仕事でしょうッ!?」

「知るかよ! グタグタ言ってないで、ちゃんとしろよッ!!」

「裸とかにしようとか下らねえロリコン根性出したからですよ!」

「関係ねぇだろそれはっ!!」

「だから、このご時世にヤクザの盃貰うなんて嫌だったんだよ! 大人しく半グレやって、オレオレ詐欺でもしてりゃ良かったんだよ!!」


どうやら、誰かの依頼を受けたようだ。

誰だ?


「うるせぇッ!! ーーお前だって裏の世界で成り上がりてぇって言っただろうがッ!!」

「言ったけど、まさかこんなーー」


ーーキンッ!


金属音?

変わった音がして


「……。」


「どうした?」


今嘆いていた男の首がゴロリと落ちた。


そして、


ーーカンッ!


と、壁に何かが刺さった音がした。


音の方を見ると


ーー円盤?


このまま全部殺しちゃう気か?

この人達がなんだか知らないけど、やり過ぎだ。

「ーーあのぉ?」

「何だ! こんな時にーー」

「私が言いましょうか?」

「え?」

「やめるようにって」

「本当にか? お前が言えば外の奴はやめるか?」


とその時ーー、


ーーバンッ!!


とドアが開く。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


残りの部下2人が

入って来た凪さんに銃を向け撃つが、当然凪さんには効かない。

一歩遅かった。もうこの状況じゃ止めようがない。

叫んだ所で、私のか細い声は、男達の声に掻き消される。


平然と銃弾を受けながら、凪さんは2人に歩み寄り、両手拳でなぎ払う様に2人同時に頭を潰す。

部下2人はその場に崩れ落ちる。


「……何ん何だよ。なんで、銃で撃たれて死なないんだよ? お前ーー」

リーダー格の男は凪さんに銃を向けるがーー。

声が震えている。


凪さんの撃たれた痕は、男の目の前で、あっという間にで治って行く。

凪さんの治癒力は私より圧倒的に早い。だから、余程の広範囲で無い限り、傷を負わせて、動きを封じる事は出来ないだろう。頭とか、上半身丸ごととか、下半身丸ごとじゃないと無理だろう。


……そして、その治癒スピードは前より更に早くなっている気がする。


それにしても、最近は殺す量が増えたな。

どうすんだ? こんなに殺して。この後のこの現場の処理もあるだろうに。

別に私によって新たな力を得た事で、気が大きくなったり、残虐性が増したりとかそういうのじゃない。

精神面では至っていつも通りの凪さんだ。

良く分からないな?


「おい! お前ら、何で ヤッちんを拐った?」

凪さんは訊く。

「頼まれたんだよ! そのガキを拐って一晩監禁してくれってーー。アンタはヤベーから、拐う時には躊躇なく轢けって言われたけど。本当だな? 何なんだっ!? ……何で死なない?」

「お前らは、なんだ? ヤクザか?」

「……ああ。最近、盃を貰って看板上げたばっかだけどなぁ。元々は蛇魅羅て族のOBの集まりだ。法改正で半グレの活動も楽じゃなくなったから、どうせならって組の盃貰って、組みを立ち上げたんだよ! でも、傘下に入ったらシマ関係が色々あるから、オレオレ詐欺も好きは出来ねえ。上納金も払わなきゃいけねえし。これなら半グレして好きに生きてりゃ良かったぜ。仲間はみんな死んじまった。さっきまで一緒にバカ言ってのに」

「これで全員か?」

「ああ。組員は全員だよ。もう俺しかいないけどな」

「誰にだ? どこの誰に頼まれた」

「名前しか知らねえよ。八川勝美って奴だーー」


「……八川」


そう呟いた後。


グシャッ!


リーダー格の男の顔面を、突然凪さんは殴り飛ばした。

男の顔面は吹き飛び、その場に崩れ落ちる。

八川の名を呟いた後、凪さんは化学反応でも起こしたかのように、突然豹変したように見えた。


「…あ、やべえ。やっちまった。まだ訊く事があったのに」

凪さんは呟く。


八川勝美って名前は、あの時、荒らされた事務所の壁に書かれていた名前だ。


「そう言えば、さっきの、キンッ! カンッ! てーー? 」

「ああ、草刈り鎌の刃だよ。来る時に、休んでた作業員からパクって来た。それを、声の位置目掛けて投げたんだ」

凪さんは壁から、円盤型の刃を引っこ抜いて見せた。

「ほんとだ」

壁越しの声だけで、場所が分かるなんてーー。

私の心の声を読む以外にまともな能力もあるんだな。

でも殺人に無駄な創意工夫やめなさい。

本当にーー。


「ソレちゃんと、返して下さいね。作業員の方が困るでしょ?」

「……分かってるよ。厳しいなぁ」


事務所に帰り、待っていた高城さんと合流する。

凪さんが電話連絡したのか、高城さんは待って居てくれた。


「八川勝美の名があった」

という凪さんの言葉に

「…えっ!?」

と高城さんは驚きの色を見せるが、それ以上は何も言わなかった。


凪さんは直ぐに現場の片付けに向かった。

解体間近の廃ビルらしいが、あのままにしては置けない。

凪さんは高城さんに私を頼んで、直ぐ帰ると出て行った。

そんなに早くは、帰ってこれないだろう。


私と高城さんは事務所のテーブルに着き、買って来たコーヒーを飲む。


どういう状況だ?


高城さんは、どの程度凪さんの事を知っているのか?

襲われた事は話したが、殺した事は言ってない。

私と凪さんが知り合う、ずっと前から、きっと2人は知り合いだ。

直接訊いてはいないが、2人の話す姿を見ると分かる。

言わなくとも伝わる言葉があるのだ。

つーかーのような感じに。

きっと、高城さんは私の知らない凪さんを知っている。


私は思いって高城さんに訊く。


「八川勝美って誰なんですか? 凪さんとはどう言う関係なんですか?」


ーー八川勝美。

以前、事務所が荒らされていた時に落書きされていた名前。

ネットで検索したが、少年犯罪者らしいが犯行については出ているが、詳しい素性については全くと言っていい程出ていなかったのだ。不自然なくらい。ネットが今ほど一般化する前の事件だから、というのもるのだろうが。

凪さんに訊くと、はぐらかされた。でもやはり知っているような素振りだった。

知っているというのは、情報としてでは無く、八川と面識があるという意味でだ。


※壁の落書きについてはP435参照


「……。」

高城さんは、コーヒーカップを持ったまま沈黙する。

何かを深く考え込んでいた。

高城さんは、確実に凪さんと八川勝美の関係を知っている。

そう私は確信した。

だが、それを話すには、高城さんには何か覚悟が居るのだろう。


見ると、もう高城さんのコーヒーはもう無い。

空のコーヒーカップを持ったままだ。


「私、新しいのを入れて来ます」

私はそう言い、高城さんからコーヒーカップを取ると立ち上がる。


この時に、私は自分のポケットから落ちた物に気が付かなかった。

とんでもない失態をやらかした。


ーーそれを、高城さんが見つけて拾った。


……黒い丸い塊。


あっ、それはーーっ!?

私の顔から、さっと血が引く音が聞こえる。


高城さんはそれを開き、中を見ると驚きに目を丸くする。


高城さんが拾ったのは、私が捨てそびれた

ポラ次郎で撮ったあのヲタクの人の惨殺死体の写真だった。


「……ヤッちんは、どこまで知ってるの?」

写真の事は問わなかった。

「え?」

「これ、凪くんでしょ? ……やったの?」


やはり高城さんは、知っているんだ。


私は思い切って

「はい」

と答えた。


写真を見つめたまま、高城さんは暫く顎に手を当てて、考え込んでいた。

……はぁ、と1つ深いため息を吐く。

なにから話せばいいのか、頭を整理している感じだった。


「ヤッちん、コーヒーもう1杯貰っていい?」

高城さんは言った。

「はい」


私はキッチンに行き、コーヒーメーカーからデカンタを取り、新しいコーヒーを高城さんのカップに注ぐ。

事務所に戻り、どうぞと高城さんの前に新しいコーヒーを起き、自分も席に着く。

テーブルには、ヲタの人の写ったクシャクシャのポラがあったーー。


「ありがとう」

高城さんは、しみじみとそう言った。


一口コーヒーを含むと、喉の奥に流し込み、高城さんは話し出す。

八川勝美についてと、凪さんの過去をーー。


「ーー199×年、八川は中1の半ばから、所謂ヒキコモリ状態だった。1年近く部屋に篭り、そして中2の夏の暑い日、八川は両親達が家を空けた日に、やっと部屋から出た。両親達は父方の祖父の通夜で一晩家を空けていた。勿論、息子にも来る事を促したが、息子は拒否した。両親はしつこくは訊かなかった。その理由は息子の暴力だった。直接親に手を挙げる事はまだ無かったけど、事ある毎に暴れて、部屋の物を滅茶苦茶に壊した。両親はいずれその暴力が自分達に向かう事を恐れていた。そして、両親達が家を空けた日に、八川はずっと思い詰めていた犯行を実行に移した。帰宅中の小学生と幼稚園の兄妹を襲った。兄の方は背後からいきなりハンマーで殴られてそのまま、その場に崩れ落ちた。妹はその場から連れ去り、自宅で殺して直ぐに、風呂場で一晩掛けてバラバラにした。八川はその週に捕まった。八川はバラバラにした遺体を隠す事も無く、地区指定の半透明のゴミ袋に入れて、翌日のゴミとして出した。袋には八川の指紋がベッタリついていた。未成年で補導歴が無くとも、引き篭もっている少年が居るとなれば当然聞き込みには行く。その地区でも、厳戒態勢が敷かれ、近所の誰かが犯人なんじゃないか? と皆ピリピリしていた。八川の家庭も同じだった。そんな中、両親が居るのを確認し、警察が八川の家に行くと、両親は最初何の事か分からなかった。ずっと、息子が引き篭もっていると思っていたから。そして、加害者では無く、目撃者か何かだと思われていると思っていた。警察は確信に触れぬまま、とにかく息子に会わせてくれと八川の部屋に行った。そして、出てきた息子に、犯行の事を問う。そこで、初めて両親は警察の来た理由を知り、激しく否定したけど、八川は犯行を素直に認めた。その場で緊急逮捕、直ぐに捜査員が現場に集まった。解体した道具は、家にあった包丁やノコギリだった。その包丁で、数日料理を作り、食してたい母親は、その場で嘔吐したそうよ。その後、八川に動機を訊くと、まるで悩みを打ち明けるようにすんなりと答えた。人が怖かったーー、と。八川は他人の気持ちが分からず、ずっと上手く対人関係を築けずにいた。それが、極度の人間に対する恐怖心に変わった。そして、それを克服する為に人を知ろうとした。解体して隅々まで良く調べた。自分でもどうにかなりそうな幼い女の子を実験材料しにて。そこで八川は分かったそうよ。人は豚や牛と変わらないと。喋る豚や牛だと。その時の八川は、まるで憑き物が取れたように晴れ晴れした様子だったと、当時事情聴取をした刑事は言ってるわ。その後、裁判では、アスペルガー症候群が原因だと主張されたけど、特に減刑は無かった。そして医療少年院に送られる事になった。でも、死亡者が1人とあって、それほどの重い刑は下されなかった。1年の治療の後に少年院に移されて、刑期を終えて出所してる」


「死亡者1人ってーー」


「兄の方は、頭蓋骨陥没する程の重傷を負い、意識不明のまま生死を彷徨ったけど、助かったの。八川の話は此処までだけどーー。この話には先がある」


「先がーー」


「意識を取り戻した少年は、みるみる回復して後遺症も無く育った。少年は早くに両親を事故で亡くして、妹と2人、母方の祖母の家で暮らしていた。父方の祖父母は既に無くなっていたから。妹を亡くしてから7年経ち、たった1人の家族の祖母も亡くなった。彼は成績も良く、明るく友人も多かった。両親の残した僅かに残った保険金で、バイトでもしながら1人生きて行くと彼は言ったけど、そんなに世の中は甘く無い。だから、子供の居ない親戚の中から、引き取りたという声も出た。でも、祖母の葬儀を終えると彼は消えたの」


「消えた?」


「そう。葬儀の後、休むと学校に連絡があったものの、一週間近くも出て来ず、連絡も着かない事から、教師が家に行くと呼鈴を押しても何の反応も無かった。警察を呼び、解錠して貰ったが、中はもぬけの殻だった。その数日後、思わぬ所で彼は発見された。それは、八川勝美の両親の家ーー」


「八川のーー?」


「そう。とっくに元の住所から2人共引っ越して、越した地域の住民との接触も無い状態だったし。少年が場所を知る事なんて出来なかった筈なのに。でも、問題はそこじゃ無い。彼は八川の両親を殺害した。いや、厳密には殺害じゃ無いんだけど……。法的には傷害致死に当たる。ただ、彼のした事が……。」

高城さんは、コーヒーを一口含む。カップを持つ手が微かに震えていた。

コーヒーを飲み込むと高城さんは続ける。


「学校に休むという連絡を入れた時から1週間、八川の両親に拷問をし続けた。休むと連絡を入れた時には、もう八川の家に居たの。拷問をし続けて、八川の両親が昏睡状態になり、そこで救急車と警察を呼んだ。偶然なんだろうけど、その時の年齢が八川と同じ14歳だった。直ぐに逮捕されて、その後のマスコミの過熱ぶりも凄かった。でも、被害者であり被害者の遺族であり、天涯孤独の彼に社会は同情的だった。でも、彼の顔写真がある雑誌に掲載されると、社会の反応は変わった。その見出しにはこう書かれていた『少年犯罪史上最も美しい少年A。美しき復讐者』と。彼は犯罪者でありなが、その類い希な美しい見た目と悲劇の境遇から、ヒーローになった。広まり始めたネットも、その人気を高めるのに大いに役立った。でも、今度はそれを否定するようにマスコミは、少年が八川の両親に対して行った拷問の数々を事細かく掲載した。その内容は凄惨で、ヒーローのするような事とは言えず、また加害者の両親であっても加害者本人では無い事から、少年に対する社会の反応は二分した。でも、一部の人間にとって、時既に遅くというか、彼はカリスマになってしまった。そして、彼の後を追い、犯罪者に自ら手を下す者が現れるようになった。勿論それ自体も悪いことだけど、痴漢を疑われたサラリーマンがいきなり女子高生に刺されたり、近所に住む下着泥棒の前科があると噂されるゴミ屋敷の住人の男を近所の女が襲ったり、イジメの被害者が加害者の家に火を点けたりと、それらは愉快犯のようなものだった。でも、彼らは一様に少年を神のように崇めていた。罪を犯した人間に罰を与える事で、皆彼のようになりたかったし、彼に気に入られる存在になりたがっていた。そして、しまいには殺人事件が起きた。その被害者と加害者の関係は、父と娘だった。父は少年時代に婦女暴行事件に関わっていたの。父親が当時連んでいた不良グループが、ナンパした少女に暴行を加えたの。その時に1番歳下の父親は見張りをしていた。書類送検はされたけど、結局起訴までは無かった。娘は、父の昔の友人にその事を教えられた。1人だけ起訴を逃れた腹いせだった。それを知った時から、長年父の前科が世間に知れるのが恐ろしくて、ずっと引き篭もりのような生活を彼女は送ってきた。そんな彼女の人生の闇の中に現れた光が少年だった。彼女は逮捕後に、裁判で言った。父への恨みでは無い、彼に近付く為だと。彼女は彼の存在に一歩でも近付く為に、父を利用したの。犯罪者を自ら裁く事で、彼に近付こうとした。父親は彼女に対しての罪悪感から、年老いても働き、引き篭もりの娘を養って来た。事件に深く関わっていたとは言え、起訴はされていない、だから勿論有罪にもなってない。犯罪者とは言えない、その父を、娘は少年への生贄にしたの。おかしな話ね。彼が罰を与えたのは、犯罪者じゃなくその親なのに。皆は彼が、罪人に自らの手で罰を下したと、勝手に歪曲した。神格化された彼の存在自体が、もはや社会問題になった。国は、加害者の人権保護とは別の意味で、報道規制を敷いた。そうして、社会から彼の存在自体を抹殺したの。ネットに画像を挙げれば、直ぐ検挙されて、普通じゃあり得ない逮捕まで行く。普通なら書類送検が関の山よ。書き込みも発見されれば直ぐ削除、放置すればプロバイダや管理人に圧力が掛かる。そうして、社会から史上もっとも美しい少年Aの神話は短期で収束した。それに伴い、八川勝美の事件も語られることが無くなった」

高城さんはまたコーヒーを一口含む。

話はまだまだ続きそうです。


「少年は裁判の時に動機を話さなかった。皆、復讐の為だろうとは思っていたけど、彼の口から直接聞こうとした。だが彼は動機どころか、裁判中に一切何も事件について話をしなかった。微笑んでいるだけだった。どんなに聞かれても、どんなに自分が不利になると分かってても、何も言わなかった。弁護人にも同じだった。その為に、皆どうしたら良いか分からなかった。結局、傷害致死の判決が下りたけど、内容が内容なだけに、八川と同じ医療少年院送りになった。彼を担当した職員は皆一様に言ったわ。あんな犯罪を犯すとは思えないって。穏やかで、いつもニコニコして、職員相手に冗談を言ったりする。ーーでも、ある日事件が起きた。ある少年が入所して来たの。その少年の名前は、福田俊朗と言ったわ。少年の2つ上で、体格もずっと大きい。でも軽度の知的障害を持っていると、診断では出ていたわ。近所の幼女に悪戯をしようとして騒がれた為に、口を塞ぎ窒息させたの。事件は作業療法の時に起きた。福田とすれ違った瞬間、少年は福田に飛び掛かり、喉笛を一瞬で喰い千切った。直ぐに職員が止血したけど、肉ごと頚動脈が喰い千切られていた為に、ほぼ福田は即死状態だった。少年は独居房に移された。その後、職員が彼に接すると、彼はいつもと変わらずに朗らかだった。思い切って、職員が訊いたの。悪い事をしたと思っている? とーー。彼は、自分は悪人を殺したんだから、良い事をした。良い事をしたんだから、罪が軽くなる筈でしょう? そう笑って言った。その笑顔を見た時に、職員は直感的に悟った。彼に更生は無理だと。医療少年院は心身に著しい故障が見られる少年犯罪者の為の場所だ。彼は一切壊れていないとーー」


「壊れてない?」


「ええ、壊れてるんじゃなく、元々そういう風に出来ている。もしくは何かを理由に、そう構成されて出来上がってしまった。理由ーー、理由は腐る程ある。どの時点で変わったのか。それとも元々そうだったのかーー。でも確実に言えるのは、今の彼は、故障しているのでは無く、これが完成形なのだという事。故障の無いものを直す事は出来ない。少なくとも、今の治療じゃ無理だと。きっと、彼は今回のような事故が起きない限り、そんなに時間が掛からずに、完治したとして出所する。そして、一見まともに見えても、目の前に許せない犯罪者が来た時に、彼の中のもう1つの顔が必ず出現する。職員達は、とんでもない化け物を抱えてしまった事を実感した」


私はそれを訊いて、ふと山月記の虎を思い出した。


山月記とはーー。

唐の時代に、ある秀才が心の葛藤から虎に変わってしまった話だ。

虎になった彼の前に、人や獣などの獲物が現れると、一瞬で人の自我は消えて

猛虎として獲物に襲い掛かり本能的に殺す。


そんな話です。


「それで、その少年はどうなったんですか?」


「それから数年、医療少年院の独居房に居た。診断結果だけなら、一般の少年院への移動も出来た。でも、その判断を下す事は出来なかった。でも、医療少年院にも永遠に閉じ込めては置けない。その方が少年にとって一番良くとも、絶対に人権擁護派は事情も分からずに、騒ぎ立てる。せっかく彼の存在を社会から消したのに、また別の問題が起きる。出して問題を起こせば世間から叩かれるのは職員達でもあるし。それに、彼は善良な人間に囲まれてさえいれば、ただの普通以上の見た目の優しい少年なだけ。皆、頭を抱えた。そんな時に、1人の保護司が彼の面倒をみる事を名乗り出たの。職員の1人の、恩師だった。その人は以前小学校の校長先生をしていて、その時は退職して保護司をしていた。周りは猛反対した。その理由は少年の問題というより、その人の家には小学生の女の子が居たの。実の孫で、その子の両親は事故で亡くなり、その保護司の人が引き取って育てていたから。だから反対の声は強かった。それでも、その人の決心は変わらなかった。何度も、少年と面会し、自分の所に来る事を促した。自分の孫の境遇と、少年の過去が重なったからかも知れない。最初は少年も断っていたけど、根負けしたのか行く事を決心した。医療少年院を出た時には、少年は青年になっていた。昔と変わらない、美しい青年だった。保護司の思った通り、彼は何の問題も起こさず、その家の女の子を妹のように可愛がった。社会に戻るのに、彼は改名した。その保護司の人が付けたの。彼の名前は凪に変わった。穏やかな海のような人間になるようにとーー。そして、母方の名字の草薙に変えた。保護司はまさか母方の旧姓が草薙とは分からずに、困惑したけど、青年はこの名前が気に入っていると言った。それから1年は、本当に平和で穏やかな日々が流れたけど、ある日青年は突然消えた」


ああ、そういう事かーー。


「その女の子は、その後どうなったんですか?」


「女の子は大きくなって、凪くんを探す為に刑事になったの。それで、やっとのこと見つけた凪くんは、変わり経ててた。闇に紛れて犯罪者や元犯罪者を狩ってた。刑事になった女の子に対しても、嘗てのようには接してくれなかった。国も彼の存在を把握してた。でも、嘗て自分達が存在を隠蔽した事が原因とされるのを恐れていた。国が気付いた時には、もう何人も手に掛けた後だったから。出過ぎる杭どころじゃなくなってた。社会に解き放ってしまった事への、責任を取らされる事を恐れていた。だから、凪くんに餌として犯罪者や再犯の危険がある元受刑者の情報を斡旋しながら、監視していた。出来るだけ間接的にコントロールしようとした。飼い慣らすことなんて出来ないし、警察の上の方にも法の甘さに歯ぎしりしている連中も居るから、代わりに狩ってくれる凪くんに好意的な奴もいたし。出所後に再犯すれば、何故か逮捕するだけの警察がとやかく言われるしね。少年犯罪者は個人情報が保護されるから、特に再犯時の警察への風当たりは強い。更生の為なのに、刑期が事前に決まってる事自体、もう破綻してるのよ。ああ、愚痴ったわね」


高城さんの名前は、夕生ゆうだ。

2人合わせて夕凪か。


この人が初代ヤッちんか?

いや、私が2代目高城さんなのかーー

まあ良いや。


「これで話は終わりですか?」


「まだあるっ!」

と、高城さんは握りしめた拳を見せて言う。

なんだかテンションが上がって来たな?


まだ、なんかあるのか!?

凪さんヤベーな。

めっちゃ人生ハードです。

しかも、初期の謎の美少年イメージと、今の変態アホイケメンのギャップが酷い。

イケメン以外、ほぼ共通点0だ。

違う人じゃないのか? とさえ思う。


「凪くんは、ある組織と揉めたの。まあヤクザなんだけど、児童買春斡旋してたの。自分で売りに来る子はまだ良くないけど、良いとして。貧困を理由にとかいう、身勝手な親の理由で、自分の子供にそういう事をさせる親が居るの。そういう親から子供を借り受けて、斡旋してたの。まあ人身売買みたいな物ね。で、1回目は凪くんが児ポ撮ってる現場を抑えてボコボコの半殺しにして、もうやらないって事になったんだけど、その場はそれで終わったんだけど、勿論ヤクザがそれで引くなんて事も無く、面子を潰されたって逆に凪くんを追い始めたの。小さな組みだったけど、今の時代には珍しい中々の武闘派でね。それ(武闘派)で売ってたから尚更でーー」


最近、似たのを見たな。

凪さんに皆殺しにされたけどーー。


「で、凪くんを追い詰めるんだけど、何故か組員がどんどん消えていくの。組員の遺体も出ないし、異変には気付いてる筈なのに警察も動かない。組員がみんな消えた時に、やっとその組長は気付いたの。警察もグルだし。他に何かの組織が動いてるって。彼らが死体を処理してるって。組員達は追い詰めてるつもりが、実は細い戻る事の出来ない凪くんの仕掛けた罠の中に誘い込まれていたの。そもそも半殺しで済ませたのも、罠に全員を誘い込む為だったのね。本当に怖いわね。でも、気付いた時には既に遅くて、その組長も消えて、少ししたらまた凪くんが帰って来た」


私と会う前から、凪さんヤベーな。

変わってないな。

不死身のあほ力じゃなくとも、やってる事は変わらない。


「私もヤッちんに、聞きたい事があるのよ!」

「?」

「問題は、その後よ。また凪くんは消えた。消息不明になって、暫くして、ヤッちん、あなたを連れて帰って来た。新たに現れた凪くんは変わってた。一番最初に会った時に、戻った気がした。いや、なんて言うか、相変わらずだけど、でもあの頃とは変わった。表の世界で探偵とか始めたし。ヤッちんは何なの? あと凪くんをバックアップしてる組織は何? 凪くんは全然教えてくれないし? ヤッちんも組織の人なの?」


高城さんは顔を寄せ、ジーッと睨み私に迫る。


組織? どの組織だ?? 

つか、探偵でも無かったのか?


そして、さらに高城さんは、私のほっぺを両手で引っ張る。

「やめへくらはい」


ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!


その時、警報音が鳴った。

ビル中に張り巡らせてある、侵入者用の赤外線センサーが反応したのだ。

 

私達は、私の部屋に、明かりを消したまま隠れ、息を潜めた。


「大丈夫だからねーー」

拳銃を持った高城さんが言うが、心配なのは高城さんの方だ。

私は最悪、窓から飛び降りてしまっても、死んでも生き返る。

敵もまさか死体が生き返るとも思わないから、私を放って逃げるだろう。


ーーカチャッ


小さく、ドアの開く音が聞こえる。

事務所の玄関のドアを開けたのだ。


足音が聞こえる。

ゆっくり此方に近付いてくる。

各部屋を回っているようだ。

おかしい、部屋を開けて中を物色している様子はない? 私達を探している訳では無いのか?


暫くしてーー、

足音は、この部屋のドアの前で止まった。


「大丈夫だからね」

もう一度、高城さんは私に言った。

いつもの顔じゃない。刑事の顔だ。

「机の陰に隠れててーー」

そう言うと、高城さんはゆっくりドアに近付く。


先手を打つつもりだろうけどーー。


最悪、私がドアの向こうの相手に飛び付いて、その間に高城さんを逃せば良い。


ーーいや、高城さんは私を置いて逃げる事は無いだろう。


私が不死身の事を話して置くべきだった。

もうバレても問題ないだろう。

流石に食人は生理的に嫌う人も居るだろうけど、

不死については、凪さんと高城さんの秘密と内容的にはとんとんくらいだ。

多分ーー。


でも、きっと攻撃はしてくれる筈だ。

高城さんがドアを開けた瞬間、私が飛び出そう。

私が相手にしがみ付いている間に、高城さんが銃で撃ってくれる筈だ。


高城さんの手がゆっくりドアノブに近付く。


ーーゴクリッ!


私は息を飲む。

開いた瞬間に行くんだ!

私はいつでも走り出せるように身構える。


だが、高城さんがドアノブを握った瞬間ーー。


キャッ!


高城さんは一瞬叫ぶと、ドアノブを持ったまま体を震わし、その場に倒れた。


高城さんに駆け寄ろうとした時に


「ドアノブには触るなっ!」

ドアの向こうで男が強く言った。


そして続ける。

「死なない程度だが、強い電流が流れている。並のテーザーガンよりは強力だから、触れば一発で気を失う。危害を加える気は無い。中に居るのは、何人だ?」


※テーザーガン。発射式のスタンガン。


思いっきり危害を加えてるじゃないか? と思いながらも

「2人です」

私はそう答える。


「女刑事は?」

「倒れています」

女刑事? この人は、中に居るのが高城さんと私なのを知っている?


少しの沈黙がありーー。


「そうか。じゃあ今から、開ける」

ドアの向こうの声はそう言った。


ーードアが開き男が入って来る。


「聞いても?」

私は言う。

「何だ?」

「どうして他の部屋ではなく、この部屋に居ると? 中を覗けば分かりますが、あなたは此処に私達が居ると確信して、ドアノブに仕掛けをしたんですよね?」

「ああ、大した手品じゃない」

そう言うと男は、小さな携帯ラジオのような物を見せる。

そして

「集音マイクだ。これをドアに付けて中の音を聞いたんだ。簡単な手品だろ?」

「あなたが、八川勝美ですか?」

「俺が? 俺は違う」

「……。」

違う? 年齢的にはその位だと思うんだけどな。

「危害を加える気は無いけど、君に私と一緒に来て欲しい」

「私に? 断れば?」

「そうだな。その女刑事を、君の見てる前で犯してから殺して、君だけ力尽くで連れて行くなんてのはどうだ?」

「分かりました。従います」

「君は随分と幼く見えるが、肝が座ってるな?」

「え?」

「全然動じてない」

「ただ、あまり感情の起伏が表に出ないだけです」

失礼だな。しかも、実年齢は1300歳だぞ? 小僧がーー。

「そうか」

男は笑った。

その顔に敵意は感じなかった。不思議な感じがした。

「所であなたの名前は? 言えませんか?」

「いや。俺は初台慎也はつだい しんやだ。君は?」

「私はーー。ヤッちんで良いです。呼ぶならそう呼んで下さい」

「分かったよ、ヤッちん。じゃあ、俺はシンんちゃんで良いよ」

初台という男は、また笑った。

さっきみたいな顔でーー。

この顔はどういう顔だろう?



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