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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
水鳴き島の水鬼
43/56

水鳴き島の水鬼(ミズチ) ⑥

昨日と同じに、何事も無かった様に、透の軽トラで水を配る為に公園に向かった。

また、大亀と士鶴が一悶着あったが、まあ平常運転で水の配給を終える。


「百合乃はどうして、出て来ないんだ? 今日、今回の事について何か大事な事を話すんだろう?」

百合乃の家に着いて、運転席から降りて来た透が士鶴に尋ねる。

「……。」

士鶴は透の方を見ようともせず、何も答えなかった。

「なあ?」

「……居ないねん」

やっと、士鶴は重い口を開く。

「はっ?」

「だから、居ないんやっ!!」

「どういう事だっ!」

「どないもこないも、朝起きたら何処にも居ないねんっ!」

「なんでだっ!? お前ら、同じ家に一晩居たんだろうがっ!?」

「知るかよっ!!」

「2人共、喧嘩すんなよ」

銀太はそう宥め、透に説明する。

「朝食の用意はされてたけど、百合乃さんの姿は何処にもありませんでした。玄関の鍵は掛ったままでした。でも玄関の鍵は残されていた。開いてる窓もドアも無い」

「それってどう言う事だよ?」

「分かりませんが。状況からだけ話すと、家には居ないが、出た様子はない」

「えっ!?」

「昨日、俺ら発電所跡で変なのに襲われて、それで疲れきって爆睡しちまってーー」

「変なの?」

「水みたいな液体で出来た球体なんですが、それが弾丸のように襲って来たんです。百合乃さんは少なくとも、俺達が部屋に行った23:00頃までは居た。その後は、朝まで俺達は爆睡してて分からないです」

「何処に行ったんだっ!?」

「分かるかっ!?」

「これから百合乃さんを俺達は探すけど、島民達には知られたく無いです」

「そうだな。それが良い、今百合乃が姿を消したと知れると、また変な疑心暗鬼が始まる。早く見つけないとーー」

「百合乃が俺達を裏切ったのか? 嘘だ! 百合乃がそんな事するかよっ!?」

青空が泣きそうな顔で言った。

「そんな事は、分かっとる! 百合乃さんは1人で行ったんや。水鬼との決着にーー。全てワイらの落ち度や。すまんのーー」

いつもどんな時でも、軽口を叩いている士鶴のその言葉に、みんな今がかなり切羽詰まった状況なのを認識した。

今まで感情のままにまくし立てていた透も、落ち込む士鶴に掛ける言葉は見つからなかった。

そんな中、銀太は言う。

「お前の所為だけじゃない。俺も居た」

「ワイは本気で命と引き換えにしても、百合乃さんを守ろうと思っとた! なのにーー」

「落ち込んでてもしょうがねえ! 百合乃を探すぞ! まずはどうするっ!!」

透が言った。

「もう、島中探しとる」

「え?」

「ワイの式神フェアーたんを100匹飛ばしとる。ワイのフルパワーの更に上やーー。命懸けで見付けたるわ」

「100匹ってお前!? この前は10匹でもーー」

「言ったやろう? ワイは命と引き換えにしてもええねん」

「……。」

島で軟禁状態になってから、食べ物はおろか、水も配給が有るので他の島民と同じ量しか飲んでいない。術を使えば体力の消費は前より激しいだろう。

止めるべきなのは確かなのだが、銀太にはその言葉が出なかった。

士鶴の思いが分かるからーー。


銀太達は、術を使い力を消耗し続ける士鶴を百合乃の家に残して、軽トラに乗り込んだ。手の打ちようが無いからと、やはり士鶴にだけ任せて、じっとしては居られなかった。

昨日の発電所跡での件も有るし、野外は危険が伴うので、荷台に青空を乗せる訳にはいかず銀太が乗った。



皆で相談し、悟られないように、事件の調査をしている振りをしながら百合乃を探す事にした。

百合乃の失踪がバレるから、百合乃の名前を出しての聞き込みは出来ない。

ただ軽トラで島内を回るくらいしか無い。

正直、気休めである。だが、それでも何もせずに士鶴の傍で、悩み込んでいるよりは、体を動かしている方が精神的に楽だった。



集落を見回りを装い回る。

ほとんど人に出会う事は無い。あっても、どうしても外に出なくては成らない人が、短時間だけ外に出ているという感じだ。

誰かに出会う度に、何か異変は無いか? と訊く。水の配給が功を成し、皆に顔を覚えられている為に訊くのは楽だった。勿論完全では無いが、表層的にはもう警戒心は島民に無いと言っても良い。


百合乃はこの集落の中では、特異な存在だ。透の話でも、あまり集落には来ない。だから、集落で百合乃見れば、島民はその事を話す筈である。ーー百合乃に疑惑が掛かっているというのもあるし……。


だが、集落ではこれといった情報は無かった。

他にも変わった事は、今のところ無いようだ。


去り際に漁師の福川という初老の男が銀太に言った。

「あんた達は元気そうだな? 俺達は、年だしもう精神的にも肉体的にも一杯一杯だ」

「ああ、はい。大変ですね」

「ーー俺達には、水を一家でバケツ一杯だが、あんた達はどうなんだ?」

「えっ!?」

「好きなだけ飲んでるんじゃないのか?」

「 俺達だって変わりませんよっ!!」

「どうかな? 村長の息子を丸め込んだで好きにやってるが、大亀の所の達也の言う事もーー。百合乃と、お前らが結託して何か企んでるのかも知れない?」

「はっ!?」

横で話を聞いていた透が、割って入り言う。

「おい待てよっ! 福川のオッサン!! コイツらは皆んなと同じ量の水しか飲んでねえよっ! そもそも、そんな気なら、水の配給なんかしねえだろっ!? こっそり、独り占めすんだろっ? 配給の水は百合乃の家の水だぞ? あんた話がメチャクチャだぞっ!?」

「……。」

福川はジッと銀太を見て去って言った。

透は福川が去ると、銀太に「すまん……」と詫びた。

「別に透さんが謝る事無いですよ。庇ってくれたじゃないですかーー。それより……」


水の配給を始めて、まだ2日目だと言うのに、島民に疲労の蓄積を感じた。

肉体的な疲労は、人の心も疲労させる。早くこの状況をどうにかしないと、水鬼よりも厄介な事になり兼ねない。

銀太は重く暗い不安に頭を抱える。


それから、集落を離れ島内を回る。

島内隈無く道路が走っている訳ではないが、それでも外からでは見え辛い、原生林の様な森の中に細い車道が沢山走っている。


木切に囲まれた道を軽トラを走らせて居ると、急に視界が開ける。

あの発電所跡に続く脇道とぶつかる道だ。ーーといっても、距離はだいぶあるから、あの球体の襲撃は受けないだろう。脇道の入り口からでも、発電所跡までは結構ある。


透は海側に軽トラを寄せて停める。

此処は水那山の中腹辺りだ。開けた場所からは、集落と反対側の麓の森の広範囲を見渡せる。

透と青空が車内から下りてくると、銀太も荷台から飛び降りた。

「……百合乃は一体どこに行ったんだ。」

森を見渡し、透が言う。

「……。」

銀太はそれに答える言葉が無かった。

「そろそろ、3時だけど士鶴さんどうかな? 百合乃を見つけられたかも知れないよ?」

青空が言った。

連絡手段が無いので、それを確認するには一旦家に帰らなければ成らない。


皆、どうするか一瞬悩んだ。

特に透は、まだまだ探し足りないという感じだった。


「これ以上、手掛かりも無いのに、闇雲に軽トラのガソリンや、体力を、この限られた資源の中で消費する訳にもいかないでしょ」


銀太が言った。


銀太は闇雲に探し続ける事は、マイナスになると内心思いながらも、どうしようもない全員の気持ちの発散として捜索を行っていた反面があった。

なんの手掛かりも無いまま、これ以上は、無駄な時間と体力と資源の消費にしか成らないだろう。探す事に夢中になるあまり、皆昼食も取っていない。

青空の言葉が帰るちょうど良い切っ掛けとなった。


一旦、士鶴の元に帰る事にした。


「士鶴ッ!?」

家に帰り、室内に入るなり銀太は叫んだ。

「どうしたっ!?」

と、声を聞き付けた透と、青空が慌てて入って来る。見るとキッチンのテーブルの側に、士鶴が倒れて居た。

「士鶴っ!?」

思わず透は声を上げる。

銀太は慌てて、士鶴の肩を揺すった。

「おいっ!! 士鶴ーーっ!!」

「……うっ。おう、銀太やんけ?」

目を開けると、士鶴はトボけたように言ったが、その声は随分と疲れている。

相当、力を使ったのだろう。

「おうっ、じゃねーよ」

「エネルギー切れや。ははは」

士鶴は笑って言って、体を起こす。

「大丈夫なのかよ?」

「寝てられへんやろ? 見つけたでーー」

「えっ!? 百合乃さんか?」

それを聞き、透達も色めき立つ。

ーーが

「いや、残念やが百合乃さんは見つからんかった」

その答えに、皆落胆したが、

士鶴はそのまま話を続けた。

「穴を見つけた」

「穴?」

透が士鶴の言葉を繰り返す。

「ああ、穴や。多分、そこから地底湖の水が漏れとる」

「本当に見つけたのかっ!?」

思わず銀太は言う。

昨日士鶴が推測した、結界の割れ目を見つけたのか!?

「ああ。水鬼はそこから、外に己の力を及ぼしとるんやろ」

どうやら、本当に士鶴はそれらしき場所を見つけたらしい。

「そこを、閉じればーー!?」

「水鬼の被害が止まる可能性はある。そうなれば、外からの救援も来れるやろう。島民を逃した後で、万全の体制を取って新たに水鬼に挑む事が出来る」

「お前、まだやるのか?」

「放っとく訳にもいかんやろ。それに、水鬼に近付けば百合乃さんの居場所も分かるかも知れへんし。ただ、ちょっと問題がある。透ーー」

「なんだ?」

「お前に頼みがあるんや」


翌朝、早く軽トラでやって来た透が言った。

「なんとか、用意は出来たぞ?」

「ホンマかっ!?」

「ああ、なんとかな」

「透さん生簀積んで無いけど、今日水の配給は?」

銀太が訊く。

「役場の奴らに事情を話して、今日は頼んだ。難しい作業じゃないし、あいつらでも出来る。後で此処に来て勝手にやってくだろう」

透はそう答えた。

「せやか。ほな、行くか!」


士鶴と銀太は、軽トラの荷台に飛び乗り、3人して港に向かった。

港に着くと大きなゴムボートの側で、デカイリュックを背負った青空が待っていた。


「なんや、ゴムボートやんけ。五味は家出少年か?デカイリュックやの?」

「要りそうな物を持って来ました!」

青空がそう言って、透が続く。

「船を用意しろって言われても、今島にはこんな物しか無い。増田の客が持って来た物だ。大丈夫だ、水遊び用じゃない。釣り用の物だから、それなりに丈夫だ!海に出ても凪てれば問題は無い」

増田とは透の漁師仲間で、民宿の運営もしている。

そこの客が持って来たゴムボートらしい。

「ホンマかいな? まあ、これしか無いんやし、しょうがないか。ーーせやが、それは?」

士鶴が透の持っている、草刈機の様な物を見ながら士鶴が言う。

ーーというか、草刈機その物だ。


「草刈機だ」


透は言った。

やはり草刈機であった。

透は続ける。

「先の刃の部分を改造して、壊れた小型の船外機(船用エンジン)のスクリューを付けた。コレ(ゴムボート)に付けれるような、小型の船外機が無いから徹夜して突貫工事で作った」

「……ほんま色々、大丈夫なんか?」

「草刈機って言っても、業務用の2ストロークエンジンで動く物だから、そこそこのパワーはある。燃料タンクが小さいから燃費は心配だが、ガソリンを持って行けば問題無いだろう。見た所海も凪ているし、使えると思う。一応、オールも持って行くから、何とかなるだろう」


「おい! お前らっ! 4人だけで逃げる気かっ!?」


そう怒鳴り付けたのは、あの大亀達也だった。


「こんなもんで、本土まで行ける訳無いだろ?」

透が呆れて言う。

「ええわ。帰って来たら縛り上げてコレに乗せて流したる。1人で勝手に行けや。常世の国まで行ってこい」

「ふんっ! 百合乃はどうしたっ? まったく姿を見ないがーー」

「お前に関係無いやろ? ハッキリ言うけど、ーーお前、ぶっ殺すぞっ!」

「本当にハッキリ言ったな?」

銀太は呆れる。

「殺してみろっ!!」

達也も負けずに言い返す。

「コイツ、帰って来たら必ず島流ししたろ。いや、島から流しかーー。さあ、アホは放って置いて、行くで」

「ふざけんなっ! 行かせねえぞ!!」

達也は今にも噛み付きそうに言い、一歩前に出ようとする。


がーー、


バコッ!


士鶴は、達也を躊躇無くぶん殴る。


ズガガガガガガーーーーーーーーーーーーーッ!


達也は吹っ飛び、港のコンクリの上を滑る。

そして、そのまま起き上がらなかった。

此処最近のパターンだ。


「お前、ホント躊躇無く殴るな?」

「アホとは、会話が面倒や。拳でコミュニケーションやーー。つかコイツ、自分から殴られに来てへんか? ドMかっ!?」

「……まったく」

「さあ、行くでーー。五味は待っとった方がええんちゃうか?」

「俺も行くさぁ! 仲間だ!!」

「せやか」

士鶴は笑った。

「何で、笑うんすか?」

「いや、お前ホラー映画で、ーーすぐ死にそうだけど、結構最後まで生き残るタイプ。だなと思ってな」

「なんすか?それ。褒めてんですか?」

「褒めとりゃせんだろ? バカにしとるんやで」

「……。」


とにかく、

達也はそのままにして、4人はゴムボートに乗り込むと、士鶴の言う穴の場所を目指した!


「島の裏側か?」

士鶴の指し示す方向を見て、透が言う。

集落の在る方を表と見立てて、反対側を島民は裏と呼んでいる。

実際はどっちが表裏という事はない。


ボートは沖には出ずに、出来るだけ岸際を進む。安全の為だ。潮に流される恐れがある。そうなると、草刈機の簡易船外機や手漕ぎオールじゃどうにもならない。

「なかなか、そのプロペラ使えるやんけ?」

凪で波が無いおかげで、草刈機の簡易船外機も良い感じだ。

想像しいたよりずっと使える。

「スクリューだろ? 船はーー」

銀太のツッコミに

「うるさいわ」

と士鶴は答える。


「おかしいな?」

透が辺りを見て言った。


「何がや? 偉い凪とるやんけ?」

「違う。波じゃ無い。海に生き物の気配がしない。凪てて波も無いから、目を凝らせば水中が見えるだろ? 小魚1匹泳いで無い。まるで、魚の居ない水槽だ。生き物の気配がしない。隠れている様な感じさえ無い。なんか、変だ」

透の声は真剣だっらた。何か得体の知れ無い異変を感じていた。

それは、海で生きる漁師故の勘だろう。

「せやろか? 確かに、魚は見えんが良く分からへん」


その時ーー、


「あっ」

と銀太が何かに気付いたか、思い出したように声を上げた。

「なんや?」

「そういや、こないだ水那山に登った時も、そんな事をお前が言ってたろ?」

「え?」

「……忘れたのかよ? 結界の杭を見つけた時だよ。森に生き物の気配が無いってーー。これも、水鬼の影響か?」

「分からへん。ーーが。何かいつもと違う事があるなら、今はその原因が水鬼に関係してる可能性は無いとは言えへん。小さな変化も見落とす訳にはいかへん。全てが手掛かりに通じとる可能性がある!」

「……山での事は忘れてたけどな」

「細かい事を言うなや。そろそろ、見えるでーー」

そう言い、士鶴は額に手をあってて日差しを遮り、遠くの岸辺を見て、指差しまた言う。

「あそこや!」

そこは、崖の下にある猫の額程の海岸だった。


浅くてボートでは岸まで行け無いので、手前で降りて海の中を歩く。

ボートは流され無いように、岸に上げて置く。

「崖崩れか? 危ないなぁ」

青空が言う。

小さな海岸には、割と近い時期に崩れたであろう、崖崩れの跡があった。

「苔が生えとる。崖崩れが起きてから、1年て所か? 大丈夫やろ」

士鶴は落ちた岩の断面に生えた苔を見て、崖崩れの時期を推測する。

「これは何だろ?」

青空がまた何かを見つけた。それは、鉄で出来た円形の蓋の様に見えた。大人が両手で輪を作った位の大きさがある。

「此処か?」

銀太が言った。

「いや。ーー此処やない。この上や」

崖の上を見て、士鶴が言う。

そそり立つ断崖が、此方を見下ろしているようだ。

「ひええー、此処を登るのかよ?」

「俺、良い物が有りますよ?」

青空が嬉しそうに言って、何かをリュックから出した。

「コレっす!」

青空が出したのは、ロープの束だった。

「……。」

「どうしたんすか? これが有ればこの崖だって」

「アホやな。上に行って、誰かが結んでこにゃならんやろ?」

「あっ」

「あっ、や無いやろ。小学生かっ?」

「ありがとうございます。五味さんお気持ちだけでーー」

銀太は丁重に断った。


気を取り直しーー

「よっしゃ行くで!」

そう言うと、士鶴はロッククライミングの要領で崖を登り始める。

心得は無いが、長い手足を使い士鶴は器用に垂直に近い崖を登って行く。

「半分位来たやろうか?」

「士鶴、上手い事登るなぁ」

銀太の声がする。

その声はこの崖を登ってる割のは随分と気楽に聞こえる。そもそも、この声はどこから聞こえるや? 声の方向がおかしい。

士鶴は足元を見るが銀太の姿は無い。上には当然いる筈は無いが一応見る。

ーーやはり、姿は無い。

何処にも居らへん!??

後ろを振り返ると、涙牙の触手に掴まった銀太、透、五味が浮いていた。


「ふざけんなやっ!」

「先行って待ってるぞ? 早く来いよ」

銀太が言う。

「おっ、おい待てやっ!! 」

士鶴を無視して涙牙は上へ登って行く。


「お疲れ。五味さんのロープ役にたったな」

ロープを使い登って来た士鶴に銀太は言う。

士鶴は地べたに尻を付き座り込み、ハァハァと荒く息をして言う。

「ふざけんなやっ! 一緒に連れてけや!!」

「いや、一応お前のキャラってもんがあるだろ? あそこは置いてくところだろ?」

「せやなっ! 一理あるわっ!!」

士鶴は何故か力強く言った。似非関西人は小さな笑いにも厳しい。

「ーーで、あれがそうか?」

銀太は剥き出しになった太いパイプを見て言う。大人が両手で輪を作った位ある。

そこから、チョロチョロと水が流れて小さな川の様になって、崖から滴り落ちていた。本当に少ない量だ。崖を落ちる時には、僅かに湿らす程度になっている。


今、銀太達のいる所は頂上じゃない。崖が崩れた所為で、崖の頂上が一段低くなっている。そこに居る。


「ああ、せや。下で五味が見つけたのが、アレの蓋やろう。大きさも丁度ええ。元々は排水口か何かで、海まで流れ出てた。それを途中から切って塞いで、更に土に埋めた。崖が崩れたのと一緒に、蓋が外れてもうたんやろう」

「もっとガンガン溢れ出しているかと思った」

青空が言う。

「あんなチョロチョロでも、1年も流れてれば結構な量や」

「つか、排水口って、何の排水だ? 地底湖からそのままこんな所まで、伸びてるのか? 普通、何か排水する元があるだろ? 発電所みたいなさ?」

「まあ取りあえず、コレを塞いでから、ソレを見に行こうや? 何が手掛かりが有るかも知れん」


コレ意外にも士鶴は何かを見付けているようである。


パイプは金属製だったので、涙牙が上下から押し潰し圧着して塞いだ。

「一応の応急処置やな。こんなんじゃ、いずれまた漏れ出す。さて、じゃあ、これの元を見にくかいな」

4人は更に崖を登り、頂上まで登った。


「これは……」

銀太が言う。

直ぐ前まで鬱蒼とした森が迫っているが、その地面には大人の腰程の低いコンクリートの塀が有り、その向こう側の地面にもコンクリートが敷かれていた。

塀も地面に敷かれたコンクリートもかなり古そうだ。苔生して、ヒビ割れ欠けたりもしている。

「此処は場所的には、発電所跡から出て少し行くと開けた見渡せる場所あったやろ?あの辺りや。ーーこの島に来て、何かあらへん事に気付かんか?」

士鶴は銀太に問う。

「?」

銀太は考える。

「ーーこれは日本軍の極秘研究所跡か?」

透が言った。

「あっ?」

銀太はそう声を上げながら思い出した。

島には軍の施設が造られた筈だが、まだそれらしい物は見ていない。

てっきり壊されてしまったのかと思っていたがーー。

「これが、日本軍が作った施設ですか?」

銀太は透に訊く。

「俺達も良くは知らない。来た事も無い。ただ、森のどっかに有るとは、昔から言われていた」

青空が透に補足する。

「ああ、俺も知ってるよ。小さい頃島に来た時に、みんなで探したな。本当にあったんだな。でも、跡ってコンクリート敷かれてるだけなの?」

「待てや、焦んな五味。これは入り口みたいなもんや」


4人は塀を越え、森の中へ進むーー。


「なあ、29人怪死事件の後で、水道を閉じたんだろ? あの排水口閉じたのは、どの時点なんだろ? 軍の極秘研究所なんだろ?」

「せやな。そこは分からへん。戦後すぐなのか、事件後なのか」

「もし軍が、戦後直ぐに閉めたなら、閉める理由があったって事だろう? つまりーー」

「軍は地底湖から来る何かの危険性を理解してたって事か……。それを隠蔽して、島民には知らせへんかった。なんか、変なもんでも呼び醒ましたか」

「変なもんてなんですか? 妖怪ですか?」

鼻息を荒くして青空が言う。

「さっきも涙牙見たやろ?」

「ハイッ! 感動モノでした!! 一生の思い出です!!」

「まあ、その一生もこの後直ぐ終わるかも知れへんがな……。でな、涙牙は荒神つって、妖怪や悪霊なんかよりずっと高位のアホほどのパワーを秘めた神様やねん。そういう、もんが日本には至る所に封印されてて、アホな人間がその封印を知らずに壊してまう。荒神や妖怪なんかには、効力がある術でも、人間には効かへんからな。そういう神様は味方に付けれれば、強い味方になるが、敵に回せば……」

「おいっ! なんか見えて来たぞ?」

先頭を行っていた透が言った。

先にコンクリートの建物の一部が木々の隙間から見えている。

「……あれが、軍の極秘研究所なのか?」

銀太が言う。

「とにかく、行ってみようや。何か手掛かりが有るかも知れへん」


「中々のもんやろ? 空から見にゃ分からん」


そこには、地上3階建のコンクリートの建物が在った。

想像していたよりずっと大きい。

その壁面全体には、蔓植物が這い。窓は全部、割れていた。

まさに、みたまんま廃墟である。


「まるで病院みたいだな? こんな大きな建物が、森の中にあったなんて……。」

透の口から、思わずそう言葉が漏れる。

それ程、巨大な建物だった。

「此処に地底湖の水を引いて使ってたんやな。相当デカイ施設やから、水もそれなりに必要やろう。その排水を、さっきの場所から出してたーー。今はチョロチョロやったが、当時は相当排出していたんやないか?」

「中に入ってみるか?」

銀太が言う。

「当然、その為に来たんやろ?」

「ああ」

と銀太は答え、何かを思い出したように言葉を続ける。

「ーーそうだ。五味さんすいません。俺のーー」

五味が銀太からそう言われ、リュックから出したのは、ニコマートだった。

濡れるといけないからと、五味がリュックに入れてくれていたのだ。

「写真撮って置くんですか?」

五味は訊く。

「霊体が居ると、コイツが反応するんです。霊を見る事も出来る」

「えっ!?」

「しかも、捕まえられるで?」

「ええっ!!?」

「ただ、見れるもの、捕まえられるのも銀太だけやがな」

「……そうなのか。」

五味は残念そうに肩を落とす。

「でも写真に写せば、五味さんにも見れますよ?」

「心霊写真すかっ!?」

「まあ、そうですけど……。なんか、五味さんのテンションで言われるとなぁ。なんか……。心霊写真か」

銀太は感慨深げに、心霊写真という言葉を繰り返す。

「ええ? なんすかっ!?」

「五味、無駄にテンション上げるなよ。鬱陶しいから。遊びじゃないんだぞ?」

透が呆れたように言う。

「分かってるよぉ……」

「まあまあ。五味がそうやってアホ言ってくれるから、変に張り詰めんで済むってのもある。取りあえず行こうや。こん中にーー。鬼が出るか、蛇が出るか」


「なんだこりゃ?」

銀太が呟く。

気合いを入れて入ったものの、中に入り拍子抜けする。

中には何も無かった。ただ何も無い部屋が、並んでいるだけだった。綺麗サッパリだった。


各部屋を回った。

窓ガラスが割れているので、中は土埃が溜まっているがそれだけだ。

こうなってしまうと建物というより、コンクリートの壁で出来た箱が、積み重ねられ並んでるいる様な物だ。


ーーガサッ!


音がした。

「なんだっ!?」

持参して来た懐中電灯を持った、青空が震える声で叫ぶ。

音のする方へ向かうと、割れた窓ガラスにビニール袋が引っ掛かり、風を受けてガサガサ言っているだけだった。


「なんやねん!」

士鶴は吐き捨てるように言った。


「なあ? 」

不意に銀太が言った。

「なんや?」

「本当に、漏れてるのあそこだけなのか?」

「は?」

「いや、やはり水量が少な過ぎ無いか?」

「あそこ以外にも有るって言うんか?」

「その可能性は無くないだろ?」

「せやな、安心はでけへんな。フェアリーたんを1、2匹飛ばしとくか」


もうこれ以上探索しても何も無さそうなので、一応目的(漏れてる場所を塞ぐ)は果たしたにで帰路に就く事にした。あまり長居して、潮が変わって帰れなくなっては困る。

嘗ての道があるかも知れないが、まともなままでは無いだろう。

この森の中で、その道を探し進む気には成れない。


帰りのボートの上で銀太が言う。

「終戦と共に中の物は、全て処分したんだろう。極秘研究所だったんだろ? だとすると、敗戦国として、表に出ちゃ不味いモノもあった筈だ」

「そりゃまあな。敗戦国として、色々罪を問われるからのぉ。国際法だかなんだかに違反したモンもあったかも知れんな? 知らんけど」


「アレなんだろうっ?」

青空がボートの後ろを見ながら言った。


「え?」

銀太が振り返ると、ボートの後ろを何か巨大な物が付けて来ていた。

波をゆっくり掻き分けているが、姿は見えない。

銀太は一瞬、波を見間違えているのかと思ったが、やはり違う。

海は凪ている。ただの波ではない。何か生き物の背が水面を掻き分ける事で、起きる波の様にやはり見える。


「なんやありゃ? 透なんや? この辺の海にあないなモン居るんか?」

「クジラならたまに迷い込むが、ありゃクジラか? クジラの様には見えねえな? というか、海中に体があるにしても、姿がまるで見えねえ?」

「水鬼?」

青空が訊いた。

「……分からん」

士鶴は答える。

様子を見守っていたが、暫くボートの後を付けて来て、港に近付くとそれはじきに海中に消えた。


港に近付くと人集りが出来て、何やら騒いでいた。

「なんや、大亀の小僧が何か島の奴らに吹き込みおったんか? また面倒やのぉ」

呆れた様に士鶴がいった。

「いや、違う様だぞ? こっちは見てない」

透が言った。


港に着き、人集りに近付くが、誰も銀太達に気付いてい無い様だった。


ーー皆、何かに気を取られてる?


見ると、人の輪の中心で誰かが倒れていた。

「また水鬼の被害者が出たのかな?」

青空が呟く。


更に近付き、人集りの中心で倒れている人物を見て、銀太達は血相を変える。

サッと、血の気が低くのを感じた。


そこに横たわっていたのはーー


「百合乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!」


透が叫び、走り出した。

皆もその後に急いで続いた。


透は人集りを掻き分けて、百合乃の側まで行くと、膝ま付き、抱き上げた。

百合乃の体はぐっしょりと濡れていた。

「百合乃ッ! 目を開けろッ!! 目を開けてくれッ!!」

透の声に、百合乃は答える事は無かった……。


「さっき、湾の中に流れ着いたそうです。武田さん達が飛び込んで、引き上げたんですが、その時には既に……。」

篠崎綾子が銀太に向かい言った。綾子は役場の職員だ。

水の配給に他の職員と来ていて、帰りにこの人集りに出くわした様だ。他の知っている職員の顔も何人か見える。


武田とは、士鶴達とも面識がある武田栄二という漁師だった。

以前に水道水を飲んでいないのに、寝ている島民や観光客達が溺死した事件の時に出会い、多少揉めたが銀太達には友好的である。


「人口呼吸しようにも、引き上げた時には既に息も脈も無かった」

武田が銀太達に言った。

武田の服はまだ濡れていた。


武田は呆然とする銀太達に続けた。

「まだ腐敗が始まって無い。水を吸って膨らんでもいないし。体内にガスも溜まって来てない」

「死後そんなに経ってないって事ですか?」

「ああ。そういうモノ(医療関係)に詳しくは無いがな。外傷も無い様だし。事故か、今島を襲っている得体の知れない化け物にやられたのか。それともーー」


それともーー。それ以上武田は話さなかったが、言いたい言葉は分かる。

それは、ーー自殺だ。


「やったぞぉーーッ!!」

そう歓喜し叫んだのは、あの大亀達也だった。

達也は皆に演説でもするかのように、声高らかに言葉を続けた。

「百合乃は、自分のした事を悔いて自殺したんだ! 今島で起きている事の元凶はコイツに決まってるッ! コイツは魔女だ! 俺達に変な術で復習していたんだ! 事件が始まってから、全く俺達の前には姿を現さなかったしな!きっとそうに違いない!! これで、もう全て終わる!! 俺達は助かるぞッ!!!」

その口振りは、まるで新興宗教の狂った教祖という感じだった。


達也の良い加減なデマだが、その言葉にホッとした表情を島民達の一部は覗かせた。

精神的に追い詰められている所為も有るのだろう。

下らない、何の根拠も無い話すら、希望を抱かずにはいられないのだろうが……。


「ーー貴様ッ!」

奥歯を噛み締め、息を吐く様に、怒りを込めて士鶴が呟く。

その言葉には殺意が篭る。

「ーー士鶴ッ!」

一歩踏み出ようとする士鶴を、銀太が焦って身を挺して止めた。

さすがに、このまま士鶴を思うままにさせて置いたら、本当に笑えない状況になりそうだ。


「……もうええ。」

銀太の心配を他所に、士鶴は気の抜けた言葉を吐いた。

「え?」

銀太は思わず肩透かしを喰らうがーー、

士鶴は言う。

「あいつらの顔を見たか? 安心した顔をしおった。百合乃さんが死んでーー。俺達だけで、この島を出る。百合乃さんももう居らへんし、此処にいる意味が無い」

「えっ!?」

銀太は驚き声を上げる。

「見たか? 奴らのあの面。百合乃さんが死んで安心した顔をしおった。そんな奴ら助ける理由が無いわ。もう終わりや、一抜けや」

「おい待てって、安心した顔したのは全員じゃないだろ? 皆んな精神的に参ってるんだ。それに、島民以外にも観光客も居るだろうっ!? 」

「そんなもん知るかっ。みんな大好き、自己責任やッ!」

「それに、どうやってこの島から逃げんだよ!」

「なんか、飛ぶモン召喚して乗ってく!」

「ヤケになんなよっ!?おい。ーーん?」


「……ッ!?」

急に士鶴の顔付きが変わった。


「どうした? 士鶴?」

士鶴の視線は、銀太を見ずに後ろに行っている。その視線を動かそうとしない。

銀太は更に気付く、集まった人達の様子もおかしい。あの大亀達也や、透達も同じ方向を見ている。皆顔に恐怖が見える。

銀太は士鶴の視線を追い、後ろを振り返る。


「出おったな……。」


士鶴が呟く。


そこに居たのはーー、

あの包帯男男だった。


「銀太、少し時間稼げ。とびきりの化けモン召喚して、ぶっ殺したらぁ……」

士鶴は今にも包帯男に喰い付きそうな声で言った。


「……かか…かな……かな………。」


包帯男は微かに声を発した。

低く野太くカスれている。到底人の声とは思えない声だ。


「なんや? 話せるんかいな?」


包帯男は虚ろな目で、周りも気にしないように何か呟き続けた。

士鶴達はそれに耳を澄ます。

何か同じ言葉を繰り返していた。


「し…い……。……か…悲しい。」

包帯男は確かに言った。

悲しいとーー。


「ーー貴様ッ! 百合乃さん殺しといて悲しいってなんやねんッ!!!!!!!!? ふざけんやっ!!!!!!」

士鶴は叫ぶ。

「……。」

包帯男は何も答えず、相変わらず視点の定まらない虚ろな目で、見えない遠くを見つめるように俯いている。


「ーーな、なんやお前っ!?」

急に士鶴は驚きの声を上げる。


包帯男顔が、歪んで行く。

一瞬溶けているように見えたが、何かに変形しようとしているようだ。

色を失い、水のように透明なりーー、そして新たな顔を形作る。


「……なんでやっ!?」


その顔を見て、士鶴は驚きと哀しみの混じった様な声を上げた。

透明でこそあったが、その形はーー。


今後ろで倒れている百合乃の顔その物であった……。


形作ったのは一瞬だったが、皆その顔を見た。

誰も一言も声を上げなかった。

声も出せぬほど、恐怖し、驚愕していたのだ。


そして、包帯男の頭は急に膨らみ、爆弾の様にボンッ!と胸から上が破裂した。


その破片は、集まった島民に降り注ぐ!

「皆、口を塞ぐんやっ!!?」

士鶴が口元を袖で覆いながら、叫ぶ中ーー


「ホラ見ろッ! やはり、百合乃が元凶の正体だったんだよッ! 百合乃が死んで、あの包帯の化け物も爆破して死んだんだっ!!」

達也は嬉々として叫ぶ。


「バカタレッ! 大亀! 口を塞げッ!」

士鶴が忠告するがーー、


「ーーーんっグッ!!?」

達也の口に、弾けた包帯男の身体の一部が飛び込む。

一滴や二滴ではない。拳大の塊が、丸で生き物の様に達也の口の中に入って行く。


「ーー達也ぁッ!」

青空は叫んだ。


「……うげッ!…うぐっ……うっうっ……ングッ!!?」

達也は苦しそうに喉元を両手で押さえて、嘔吐く様に声を上げる。

顔は高揚し赤くなり、涙と鼻水を大量に流し、苦しみで両膝をコンクリートの上に着いた。

「じっ、人工呼吸ッ!」

青空が叫んだ。

「無駄やッ!」

「え!?」

「百合乃さんがしたのはただの人工呼吸やない。お前の体内に入った水鬼を吸い出して、人工呼吸したんや。あんな真似は、百合乃さんにしか出来ん。お前が人工呼吸しても助からんし、多分アレは今度はお前の体内に入る!」

「そんな……。じゃあ、達也は?」

「……もう助からん」


「うグッ!? ググググググググググググッ!!!!!!!! うげげげげげげげェーーーッ!!!!!!!!」

達也は今までとは違う不気味な声を上げる。

眼球が大きく迫り出し、


そしてーー


「うぎゃっ!!?」


眼球が飛び出すと共に


ボンッ!! と


達也の頭が破裂した。

港のコンクリートの床に、達也の血肉や白い頭蓋骨の破片が散らばる。


ーー島民達は、その凄惨な光景に、恐怖し悲鳴を上げる。


まだ、跪いた状態の達也の頭には下顎と舌だけが残って、ユラユラと今にも崩れ落ちそうに身体を揺らしていた。下顎には白い歯がをのままの状態で並び、吹き飛んだ部分からは、血がピューピューと吹き出していた。


「ヒィッ!? 達也っ!!?」

青空は今にも泣き出しそうに、悲痛な声を上げる。


「皆んな逃げろッ! 直ぐに此処から逃げるんだッ!!」

銀太が叫ぶと同時に、まさに蜘蛛の子を散らす様に皆逃げ出した。

銀太達も取り合えず走り出した。

言い合わせては居ないが、士鶴と青空も百合乃の家の方に向かい走っているのが銀太の視界に入った。銀太も勿論、百合乃いえに向かっていた。

港を出ると、他の島民は自分の家に向かっているのだろう。散り散りに逃げた。


後ろからクラクションを鳴らす音が聞こえる。

銀太が振り返ると、透が軽トラに乗って走って来た。

あの状況の中、軽トラを取りに戻ったらしい。


「早く乗れッ!」

透は叫ぶ。


銀太達が荷台に乗り込むと、他の島民も何人か乗っていた。

武田と綾子も乗っていた。


銀太は、わざわざ透が軽トラを取りに行った訳が分かった。

荷台の中心には百合乃の遺体が寝かされていた。透は既に死んでいる百合乃を運ぶ為に

、軽トラを取りに行ったのだ。


「……負けたわ」

銀太の後ろから、士鶴が言った。

銀太は振り返る。

士鶴も百合乃の亡骸を見詰めていた。

「後で向かいに行かなきゃならんとは思っておったが、透は亡くなった百合乃さんも生きている百合乃さんも、変わらへんのやな。まあ、ワイらのは職業病みたいなもんやけどな」


日常的に霊体を相手にする士鶴や銀太にとって、普通の人間以上に、生きている人間と死んでいる人間の境は明快だ。魂の抜けた肉体は、抜け殻でしかないのだ。極端な言い方をすれば、人が脱いだ後の服の様な物だ。そこに、形は在っても、その人物は居ないのだ。士鶴から見れば、それを透は命懸けで護った事になる。完敗である。


ーーが、


こうなってしまっては、勝ち負けなんて考えても、なんの意味があるんや……。


士鶴は拳を握り締める。

そして、自分の不甲斐なさに、内から怒りが込み上げてくるのを感じた。

それは自己嫌悪なんて単純な物じゃない。

どうしようもない後悔の念が、何度も内に押し寄せてくる。

取り合えず、島民達は村民館に避難させて、百合乃の家に銀太達は向かった。

一旦、落ち着いて体勢を整えねばならない。


「ワイは、やらんっ!」

「どうしてだよっ!!」

居間でちゃぶ台に着き、透と青空を挟み、銀太と士鶴が向かい合い、いがみ合っている。

士鶴はまだ島民達のあの顔が心に引っ掛かり、島民達の為に水鬼と戦う事を躊躇していた。だが、その気持ちの半分は百合乃を救えなかった自分への憤りからの、八つ当たりに近い感情でもあった。

……その事に、士鶴自身が気付いているかは分からないが。


「百合乃さんの敵は打たなくていいのかよっ!? 百合乃さんがなんの為に、命懸けで戦ったと思ってんだよ!! この島を守る為じゃないのか?」

「なら、なんでワイらに相談せんねんっ!? この島や島民を守りたいなら、一緒にやる方がええやろっ!!」

「……それは、俺達に迷惑を掛けたく無かったんだろ?」

銀太の声が小さくなる。

士鶴の気持ちが良く分かるからだ。


ーーどうして、相談してくれ無かったのか……。


だが、それでも銀太は強く言う。

「だからって、投げ出して良い訳じゃない! お前がやらないなら、俺は1人でもやるぞ!! 島民の為じゃない。自分自身の為だ。此処で見捨てて投げ出したら、後悔するっ!」


銀太は立ち上がり、その場を後にした。

「おい待てっ!?」

透が立ち上がり、銀太を呼び止めるが、銀太はそのまま行ってしまう。

青空は、あたふたと何度も士鶴と銀太を交互に見る。ーーが、双方に掛ける言葉が出無い。

「いいのかよ?」

透が士鶴に言う。

「知るかっ!?」

士鶴はそっぽを向き、吐き捨てるように言った。

それを見て、はぁ……。と、透は溜息を吐き銀太の後を追う。

青空はさっきと同じように、何度か士鶴と後を追う透を交互に見た後で、「んんッ!!ーーもうっ!!」っと、透の後を追った。


士鶴はちゃぶ台の上に肘を置き、頬杖を突いて、ふぅーッ!!と内にある怒りを吐き出すように深く溜息を吐いた。そしてーー、


士鶴は襖の開かれた隣の客間に目をやる。


そこには、布団に寝かされている百合乃の姿があった。

「……どうして、なんも相談してくれへんかったんや? どっかに居んのか? 居るならその訳を教えてくれ?」

士鶴は百合乃の霊が居るならと話し掛けるが、返事は返って来なかった。

気配も感じない。多分、百合乃の霊は此処には居ない。

「百合乃さん、あんたはどこに行ったんや?」

士鶴は呟くように言う。


銀太は外に出ると、今まで水の配給をしていた井戸の蓋を開けた。

蓋は半円状の厚いコンクリートの板が2枚で出来ている。


「ーーなるほどな」


井戸の中を覗き、銀太が言う。


「何が、なるほど、なんだ?」

透が訊く。

「井戸の壁に何か書かれています」

透がみると、確かに赤い文字で何か書かれていた。

文字の様だが、かなり崩して書かれていて読めはしない。

「多分、水鬼の侵入を防ぐ為の物です。水で見えないが、底にも何かしてある筈です。そして、蓋の裏にもーー」

透が見ると、井戸の蓋の裏にも何か赤い文字の様な物が書かれている。

銀太は続ける。

「この井戸水は偶然、安全だった訳じゃない。百合乃さんは、こうなる事が分かっていた。その為に、飲み水を確保していたんじゃないでしょうか?」

「お前も、百合乃が今までの鉢形への迫害の復讐の為に、この事態を招いたと思っているのかっ!? 」

「思ってませんよ。少なくとも、先日港で透さんが言ったように、百合乃さんはこの水を自らの案で島民に分け与えてる。むしろ、この危機を予想して、備えていたという方が腑に落ちる。もしかすると、百合乃さんではなく、過去の鉢形家の人間が用意していたのかもしれない」

「過去の?」


「ん?」

青空が何かに気付く。

それは、井戸を覗く銀太達の後ろを通り過ぎようとする士鶴だった。


「ーーお、おいっ!?」

と士鶴を呼び止めようとする透を、銀太が止める。

「少し放って置きましょう。アイツは1人になって、少し頭をクールダウンさせた方がいい。百合乃さんが亡くなって熱くなりすぎてる」

「1人で行かせて大丈夫なのか?」

「少なくとも、俺以上であっても、俺以下では無いですよ。ーーあいつの力は」

「お前以上って、あの変なの以上って事か?? あんなのより強いのか?」

「涙牙の事ですか? ーーええ。ああ見えて、士鶴の才能はズバ抜けてる。そして、それを伸ばす為に、人並み外れた努力もして来た。水鬼がどんな化け物でも、簡単にはやられませんよ」


士鶴はトボトボと歩き、その足は今さっき逃げて来た港にまた向かっていた。


港に着き、ある光景が目に入る。

皆が逃げた跡に、男が1人しゃがみ込んでいた。

良く見ると男は、ただしゃがみ込んでいるのでは無く、四つん這いになり何かを拾っていた。


士鶴が近付くのも気付かず、男は何かを夢中で拾っていた。


ーーッ!?


士鶴はその光景に一瞬怯む様に驚く、男が拾っていたのはさっき飛び散った達也の脳髄だった。

それを素手で掬い、持参したのか、どこかで見つけて来たのか、ビニール袋に詰めていた。


ーー男は達也の祖父、前村長の大亀治夫だった。


士鶴に背後に立たれても、治夫は孫の脳髄を一心不乱に掻き集めて、コンクリートにこびり付いた物まで必死に取ろうとしていた。

見下ろす男の背中は小さく、白い頭は項垂れ、最初に見た時の島民を前にした威厳の様な物は無かった。

ただの孫を失った、弱々しい老人だった……。


回りを見れば、他にも被害者が出たらしく、10人近い数の遺体が転がっていた。

今までと違い、皆内部から爆ぜ、傷の場所は違えど達也の様になっている。

……それらは、放置されたままだ。


ーーハッ!? と、背後の士鶴にやっと治夫が気付いた。

「あんた、青空と一緒にいる……。」

そう言うと、治夫は少し考えるように沈黙し

「全部ワシらの所為だ。鉢形の娘は、ワシらを皆殺しにするだろう……。」

そう言った。


士鶴は、


ーー何言っとんねんッ!


拳を握り締め、そう心の中で思ったが、孫の脳味噌を夢中で掻き集める老人に、……言うまでも無い、とその言葉を飲み込み、港を後にした。

今の士鶴には、この小さな老人の思い込みなど小さな事だった。


「つまらんの、アイツどこに行ったんや……。」

銀太に言った言葉とは裏腹に、士鶴の怒りは水鬼に向かっていた。

どうしようも無い怒りの矛先を探していた。

島民に対しては見捨てると公言してやった事で、怒りの大半は解消されていた。

多少なりとも、反省はしているだろう。

内心は、島民の百合乃に対する薄情さへの怒りを、百合乃を殺された怒りが当然遥かに超えていた。


港を出て、海岸沿いを歩いていると


「出おったな……?」


あの包帯男が、まるで蜃気楼のように何処から湧いて出たのか、突然士鶴の前に現れた。

士鶴は驚く事も焦る事もなく、待ってましたとばかりにニヤリと笑い、身構える。


後先考えない無謀な行動は、この状況では危険である。

そんな事は、士鶴も十分分かっているから、銀太にはそんな素振りをも見せずに出て来た。

止められないようにーー。


とは言っても、それなりに士鶴も考えてはいる。

戦い方を。


何の前触れもなく、突然包帯男の上半身が変化し、幾本もの針のような刃に代わり、士鶴に猛スピードで向かう。

士鶴は間一髪で避けるが、それでも数本の刃は体をかすめる。

コートが破け、血が滲む。


直ぐに、包帯男は次の攻撃の体制に入る。

刃がまた士鶴に向かう。


士鶴に刃が届く瞬間ーー


何かが、その刃の前に阻む。

それは宙に浮き、漆黒の衣装を纏い、赤い目を輝かせた美しい女。

まさに魔女だった……。


魔女は耳まで届く程、大きく口を開くと


「ギャア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!?」


地を揺らす様な、凄まじい声で叫んだ。


刃と化した包帯男の体は、その声に弾かれるように爆ぜた!


それは、叫び声ではあるが、人というにはあまりに奇怪で不気味。

そうでいながら機械的でもあった。


「ワイのお友達、バンシー姉さんや。此処に来る前に召喚しておいた」

士鶴はそう言って、続ける。

「本物のバンシーは人の死を叫び声で告げる化けモンやが、コイツは声をそのまま音波として武器に変える。音響兵器や!」


士鶴が話す間に、包帯男は再び爆ぜた体を集合させて、元の形に戻る。


そして、今度は港での時のように、上半身を風船の様に膨張させた。

自ら爆ぜる気だ。


飛び散った、破片は、細かな飛沫となり士鶴に飛んで来る。

距離が近過ぎる。全てを避けきる事は出来ないだろう。

一滴でも体内に入れば、死は免れない!?


落ち着いて見れば、自ら空気を吸い込んでいる。包帯男の体内で、限界まで圧縮された空気が爆ぜて、肉体を散弾のように飛び散らせるのだろう。

あの空飛ぶ水球のように自在に操る事は出来ないが、空気を使う為に己の力をかなりセーブ出来るだろう。空中で水球を自在に操るのは、物理の法則を無視しなくてならず、結構な力を使う筈だが、空気の力を利用する分には単純な物理法則の上の事だ。

そして、一滴でも相手の体内に入れば死! 大量殺戮もできるだろう。厄介な攻撃だ。


包帯男の体が限界を迎えて、とうとう爆ぜるっ!!?


がーー、


「ギャア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!?」


バンシーが、また一吠えする。


士鶴を襲う、包帯男の破片が弾き返される。


だが、小さな飛沫はどうだーー?


小さな飛沫も問題ない。

音とは、つまり空気の振動だ。

どんなに小さい飛沫も、全ての空間を満たす、空気の壁の前に弾き返される。


バンシーの叫びは、攻撃と防御を同時に行う。

包帯男の破片は、全て弾き返された!


「内部で、空気を限界まで圧縮して爆発させ、高速で己を弾き飛ばす。厄介な攻撃やが、周りの空気を振動させ全て武器と化せるバンシーには効かんで? 鉄壁の防護であり、絶対の攻撃力や。……が」


士鶴が話してる間に、また包帯男は再生する。


さて、液体で出来ているようなコイツをどう倒す?

凪の旦那と同じで、攻撃してもすぐ再生されるのは厄介や……。

蒸発させても、駄目やろう。今度は雲になって電撃を使い出すやろう?

旦那と同じという事は、封印してまうしかないか? ワイの術が効くか?

ーーまあ、ええ。今回の目的はコイツを倒す事じゃない。


「見たか? 水鬼。ーーいや、ワイらがそう思ってるだけか? お前が水鬼だとーー。お前のお得意の攻撃は効かんぞ。話せや? お前、喋れるんやろ? お前はなんや? 何モンなんや? 」


士鶴の目的は包帯男と話す事だった。

聞きたい事が山ほどあった。

士鶴は続ける。


「ーーなぜ、百合乃さんの顔をしとった?」


勿論、1番聞きたいのはこれだ。

どうして、包帯の下から百合乃の顔が現れたのか……。


包帯男はしばらく虚ろな目をして、あの時の港での様に、見えぬ遠くでも見てる様にゆらゆら揺れていた。

それは、考えている様にも見えた。


包帯男はゆっくりと口を開く。


「……お前は…何者だ? …と問う。そして、答える。……我が名は……。我らは数多きが故に……」


かすれる様な声で小さく言った。


我が名はーー、の後は聞き取れなかったが、その言葉に士鶴は心当たりがあった。


ーーんっ!?


包帯男はまた形状を変え出す。

だが、今度は攻撃では無い様だ。

ゆっくり解ける様に、地面に広がる。


「おいっ!? 待てやっ!!」


そして、舗装されたアスファルトの隙間に染み込む様に入って行く。

士鶴は急いで、包帯男のいた場所に行くが既に全てが隙間に消えた後だった。

膝を突き、アスファルトを叩く。


「逃げんなやッ!? まだ聞きたい事があんねんっ!」


士鶴は叫ぶが、アスファルトにしみ1つ残さず包帯男は消えてしまった。



「我が名は……。我らは数多きが故に……。」

帰り道で、包帯男の言葉を士鶴は繰り返す。

そして、考える。

「どうしてや? どうして、此処に来て、マタイの福音の書なんや? もし、福音の書からの引用なら、あいつの正体はレギオンやんけ。意味が分からん?」


百合乃の家に着くと


「ーーああ! 帰って来ましたよっ!!」

玄関の前にいた青空が、家の中に向かって叫ぶ。

中から銀太と透が出て来る。

「何やってたんだよ?」

銀太がイラついた声で言う。

「お前どうしたんだよっ!? その傷ーー?」

透は士鶴の傷を見て驚く。

「なんでも無いわ。ちょっとした、ストレス発散して来たんや。所で、なんや? 皆んな揃ってお出迎えか?」

「今から、百合乃さんを埋葬すんだよ! この陽気じゃずっと寝かしとく訳にもいかないだろっ!?」

「……。せやな。盛大に送ったろう」

「お前、その前に傷ーーッ!?」

透が言うが

「こんなもんツバ付けとけば平気やっ!」

そう士鶴は言い捨てる。

「ーーまったく」

と、銀太は呆れた顔をしたが、傷の訳を深く追求する事はしなかった。

「良いのか?」

透が心配気に、銀太に訊いた。

「ツバ付けとけば平気ですよ。コイツは」


それから、百合乃の庭に皆んなで穴を掘り埋葬する事にした。

スコップや鍬を、透が既に用意してくれていた。


掘り出して暫くし


ガチンッ!?


皆んなのスコップや鍬が何かに当たる。

「岩か?」

透が言う。

青空が何に当たったのか、手で土を掻き分けてみる。

青空は出て来た物を見て? という顔をしている。

「んっ!? 家の土台か?」

透が青空が掘り出した物を見て言う。

確かに、コンクリートの表面に見える。

「場所を変えて見ますか? もう少し家から離れればーー」

銀太が言う。

「いやでも、此処庭の端だぜ?」

透はそう言って主屋の方を見る。

確かに家からは大分離れている。

「とにかく場所を変えて、掘ってみてダメなら他にしおうや。考えてる間に日が暮れるで!」


場所を5m程ずらして掘ると、そこは大丈夫だった。

「家の土台にしては、家から遠く無いか?」

新たな穴を掘りながら、透が言った。

確かに、百合乃の家の土台なら、もっと家の側にあるだろう。

「土台や無いやろ? そこまで広範囲でコンクリは敷かれとりゃせんしな。此処は平気や」

「じゃあ、なんだ?」

「分からんっ!? 良いから、早よ掘れやっ! 日が暮れてまう!!」

額の汗を拭い士鶴は言う。


何とか、日没前には穴は掘り終えた。

そのまま土を被せるのは憚られ、綺麗なシーツに百合乃を包んだ。


皆んなして掲げ、ゆっくりと1m程掘った穴の底へ百合乃を下ろす。


そして、皆んなして土を掛けた。そっと、優しくーー。

透が最後に土を掛けて、掘った全ての土を盛り終わった。

埋葬した後に、小さな土の山が出来た。埋めた百合乃の体の分、余った土だ。


「……さよなら、百合乃。俺とは、全然良い思い出無いだろうけど……。」

青空が言った。

「お前だけじゃない。この島での事で、百合乃にとって幸せな事なんか無かったろ」

透が懺悔するように言った。

「お前ら、百合乃さんを勝手に、不幸な可哀想な人にすんなや。人の幸不幸なんて、他人には分からん」


それからーー、

皆、心の中で各々百合乃に別れを告げた。


「この後、透さん達はどうします?」

銀太が訊いた。

「お前と行動を共にする! 百合乃の仇を討つ!!」

「俺もだっ!」

と青空も、透に続く。

「家族は、ええんか?」

という士鶴の問いに、透の代わりに銀太が答えた。

「お前、知らないだろうけど。村民館に避難してた役場の人達が、これから残って居る人達を、廃校に避難させるって。さっき、それを伝えに来た。今、皆んな避難の準備をしてるだろう」

透が続ける。

「取り合えず、俺達の家族はもう、小学校へ送り届けて来た。後の避難の事は、役場の奴らに全部任せてある」

「廃校?」

という士鶴に、銀太が答える。

「昔使ってた、水那島小学校だよ。今は島の避難所になってるそうだ」

「アホかっ!? 一箇所に集めてどうすんねん? 襲撃されたら一網打尽やんけ?」

「分かってるよ。言ったけどーー、孤立するのが皆んな不安なんだよ。それに、お年寄りのケアもしやすいし。1人暮らしのお年寄りが島には多いんだ。とにかく、俺らで早く解決するしかない」

「……。仕方あらへんか」


「それより、お前だーー?」

透が士鶴に言う。

「あ? ワイはいつでもヤレるで。つか、もうやって来たわ」

「はぁ?」

「やらないって言ったり、やるって言ったり……。まったく。その腹の傷がそうか?」

銀太は呆れる。




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