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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
水鳴き島の水鬼
39/56

水鳴き島の水鬼(ミズチ) ②

「すいません。夕べは態々迎えにまで来て貰って」

銀太は用意された朝食を口に運びながら言う。

「……ああ。私と関わった所為で、宿無しになってる可哀想な観光客が居るって、変な電話あったからよ。……まったく」

「変な電話?」

「あっ、うううん。別に何でも無いわ」


昨晩、声を掛けて泊めてくれたのは、あの蛇口跡で出会った女性だった。

名を鉢形百合乃という。歳は23歳。集落から離れた一軒家で1人暮らしている。

2人に朝食まで用意してくれた。昨日の態度とは違い、良い人のようだ。


「鉢形さん、鉢形って苗字、最初のーー?」

「そう、鉢形剛志は私の高祖父よ」


鉢形剛志は初代村長だ。島の功労者の子孫の百合乃さんがどうしてこんな生活を?

銀太は疑問に思わずには居られなかった。


「あの? 失礼だと思いますが、どうして島の功労者の子孫のあなたがこんな村外れで1人ーー? そして、なんであなたに関わると島民に避けられるんですか?」

「私が呪われてるからよ」

「呪われてる?」

「そうよ」

悲観する様子も無く、百合乃はあっけらかんと言った。

「嘘や! 百合乃さん霊能力者やろ? ワイには分かるで! だから、自分が呪われ無い事くらい分かってるんやろ?」

「……私は本当に呪われてんのよ。……血がね」

「血?」

「そう。まあ、良いじゃ無い。あなた達は何しに来たの? 結構な霊能力者でしょう? 2人ともーー」

やはり、百合乃も2人の能力には気付いていたようだ。

「俺は違います」

銀太はキッパリ霊能力者である事を否定する。

「そうなの? なんだか知らないけど凄い力を感じるけど? 俺はって、言う事は、そっちの大きいお兄さんは、霊能力者? 比嘉さんだっけ?」

多分、百合乃は銀太の守護霊である涙牙の力を感じているのだろう。

「士鶴でええ。コイツはそういう自覚無しの、イレギュラーなタイプや。ワイは天才霊能力者やけどなっ! エッヘン!!」

「じゃあ、私は百合乃で良いわ」

「俺は銀太で良いです」

「士鶴さんは、天才霊能力者なんだ」

「信じてへんのかっ!?」

「そんな事無いけど、あまりそういう力がどうのって価値観が無いのよ。で、天才霊能力者の士鶴さんと、イレギュラーな霊能力者の銀太君はどうして島へ? ただの好奇心で、心霊スポットでもーーって、来た訳でも無いんでしょ?」

「……事件の解明に」

「誰かに頼まれて?」

「いや、俺はそういうオカルト関係のライターをしてるから」

「ああ、記事にすんのね? でも、辞めた方が良いわよ。本当に死ぬから」

「ええんや、それで。コイツは自分の能力を上げる目的での来とる。相手が強い方がええ」

「相手って? 誰? 敵が分かるの?」

「分からへんけど、この島から得体の知れない気配をビンビン感じる。それは、徐々に強ぉなっとる。ーー水鬼って何や? 昨日、言ったやろう?」

「……ごめん、忘れて。村人にも言わない方が良いわ。あと山には近付かない事ーー、って言っても、こう言ったら行くんでしょうね? 本当にみんな面倒ばかり起こす。まあ良いわ。気が済むまで調べて帰りなさい。記事に書こうが書くまいが、他の観光客の所為でこの島の事は、みんながネットで語るし。早く興味を無くして欲しい。新たな被害者が出る前にーー」


百合乃は敵視はしては居ないが、協力をする気も無い感じだ。

島に部外者が入るのは良く思っては居ないようだ。……そして、何かを知っている?


ーーバンッ!!


と、音を立て、急に玄関の引き戸が開く。


「ーー居たぞっ!! コイツらだっ!!」


突然入って来た男が叫んだ。


突然現れて、室内に入って来た男達に、銀太と士鶴は外に引っ張り出される。


「何やねんっ! お前らっ!!」

「ちょっと! 何よ、人の家にいきなり入って来てっ!!」

「百合乃、お前は黙ってろっ!!」

島民らしき男が言った。

「待って下さい。理由を聞かせて下さい?」

銀太が男を宥めるように言う。

「また観光客が死んだ! そいつと昨日、お前らが揉めてるのを見た奴が居る!! 今、本土から警察が向かってる」


「……それって」


「彼らは違うわよっ! 昨日はずっと私の家に居たわ!!」

百合乃が言った。

「うるさい! お前は一々口を挟むな!! 面倒ばかり起こしやがって!」

「なんですってーー!」


「まあまあ! その現場に連れて行って下さい!」

銀太が、男と百合乃の間に入り言う。


「……え? 現場に?」

男は良い顔をしないが

「ええ。逃げませんし、良いでしょう? 俺達が犯人だと言うなら、現場を見たって問題無いでしょ?」

という言葉に、渋々了承した。


男達の乗って来た軽トラに先導されて、百合乃の車で現場に向かう事となった。


「ん?」

家を出ると百合乃は何かに気付き振り返った。


それは玄関脇に置かれた、段ボールだった。

百合乃が開けると中には、野菜や日用雑貨が入っていた。


「……。」

何かを持って、百合乃は黙っていた。


士鶴と銀太が覗き混むと、それをサッと箱の奥へ突っ込む。

「あははは。なんでも無いわ」

「それ、誰かが?」

「山のタヌキからの貢物よ。……いや、猿かしらね?」

「この島に、タヌキや猿が居るんですか?? つか、貢物もんてーー」

「タヌキや猿が、生理用品も貢ぐんか?」

「見えてない振りして、しっかり見えてんじゃないっ!! 」


現場は、集落内の田部という民宿だった。

その2階で、浴衣のまま布団の上で死んでいたのは、やはり……


「……梶腹雄三」


銀太は呟く。


はだけた浴衣から、醜く膨らんだビールっ腹を出して死んでいる。

その光景には、色々目を背けたくなる。


「ん?」


銀太は違和感を覚えて、梶腹の頭を持っていたボールペンでつつく。

「あっ!?」

梶腹の頭がずり落ちる。

「ヅラやん。。」

なんと梶腹のあの長髪はヅラであり、その下にはズル剥けた、僅かに残る髪から頭皮の透けた頭があった。

本当に酷い。


「コイツとお前らが揉めてたろうっ!?」

「いいえ。揉めてたのはコイツだけです」

銀太は士鶴を指差す。

「なんや! ワイを売るんかっ!!」

「もう観念したらどうだ? 士鶴。残念だよ。お前は変態スケベクズ野郎だけど、まさかな……。人殺しなんて」

「ーーッ!!」

士鶴は銀太の言葉に驚きに、あんぐり口を開けている。

「ーーとまあ、冗談はさて置き。これは、士鶴の犯行じゃないです」

銀太は笑って言った。

「どういう事だ!」

「見て下さい。梶腹の顔の周りの綿のようなキメ細かい泡。これは梶腹の口から出た物です。これ、死因はきっと溺死ですよ? 」

「……えっ!?」


「ーーそうだ。この死に方は溺死だ」


と、今入って来た老人が言った。

誰かがまた死んだと聞いて見に来たのだろう。


「溺死?」

男は驚いた顔で言う。

「なんや! 漁師町なのにそんな事も分からんのかっ! ボケっ!! カスッ!! 冤罪やんけっ!!」

「……そんな事言ったって、溺死体なんて昔ならともかく、漁船や救命技術の発展した現代じゃほとんど見ないし……。上がっても、そんなにじっくりとは見ないからな。関わるのも限られた少数だし」


陸上での溺死。つまり、前の被害者と同じ可能性がある訳だがーー、


「ーーただ、毒物でも泡吐く事もあるから、毒を盛ったのかも?」

銀太は言った。


「ーーえっ!」


という事で、士鶴は村民館に、交代の見張り付きで軟禁される事になった。村民館は障子で区切ることに出来る、八畳2部屋に、小さなキッチンの付いた簡素な古びた平屋だ。一応、集落内にはあるが、生活区域からは少し外れる。余った空いた土地に建てたという感じだ。

今も、外では男が逃げ出さないように見張っているが、まだ被疑者なので面会は監視付きだが自由だ。


現場の写真を撮り、梶腹雄三の遺体は腐敗を塞ぐ為に、漁協の魚用の大型冷蔵庫の中に。梶腹だけを移動させ、現場検証の為に部屋はそのままにした。


「なんでや! なんでなんや!」

叫ぶ、士鶴。

「警察が来て現場検証すりゃすぐ無実が証明されるよ。本土から、此処まで船で1時間くらいだから、今日中には全て解決するだろう」

銀太は外の監視に聞こえないように言う。


「ーーなあ、銀太」


「だから、少しだけ我慢しとけって。お前が無実なのは確かだし。一度疑われてから疑惑が晴れれば、もう簡単には疑われ無くなる。警察が絡めば尚更だ。なんせ、警察のお墨付きだからな。島民の変な猜疑心は多少は緩和されるだろうさ。あのまま、溺死で言い切っても逃げれただろうけど、それじゃ変な遺恨を残す事になる。今後、島でやり辛い」

「いや、そうじゃなくてーー」

「え?」

「あの現場、おかしいと思わへんかったか? ワイらにしか気付かん事や。ーーお前のニコマート反応したか?」

「ニコマート?」

銀太はたすき掛けにしているニコマートを見る。

「何かを語り掛けるような事や、姿は見えへんくても、この世に未練のある死に方をした人間は死んだ場所に魂は残る。その後、どっか思い入れのある場所に移る事はあるが、暫くは死を受け入れるまで普通は留まる。受け入れられへん奴は、ずっと留まり地縛霊になる。でも、あそこで梶腹の霊を感じなかった。おかしいと思わへんか? さすがに成仏はせえへんやろ? あの性格にあの死に方じゃ。どっかにフラフラ行くとも考えられへん」

「百合乃さんも気付いたかな?」

「百合乃さんは、そういう現場の経験なんて無いやろ。だから、そういう事自体分からへんやろ。俺やお前みたいな、犯罪事件と霊障を一緒に扱うような輩にしか分からへん不自然さや。ただ、ワイらと同じに、百合乃さんも最初の被害者と同じ奴に、梶腹が殺されたと思っとるやろう。ーーそして、多分島民もの筈なんやが……。どう考えても、陸上で溺死となれば、半年前の事件と普通は結び付けるやろ? だが、それをせえへん」

「つまり、島民の目的は真犯人を捕まえるというより、俺達の島からの排除が目的? つまり、嫌がらせか? だったら、疑惑が晴れても意味ないか」

「なんや、島の奴らの目的が分からん。この事件の事を調べられたく無いんか?」

「まあ一応、観光資源だからな」

「アホウ、ほんまに人が死ぬ怪異だと分かれば誰も来んわ」

「冗談だよ。確かに、都市伝説レベルで十分興味本位の暇人は来るからな。ガチのは逆に誰も来なくなるもんな。それに、俺達以外にも事件の謎を解明しようとかいう奴いっぱい島内には居るだろう」

「ーーああ、それで梶腹は殺されたんか? 何か秘密を嗅ぎつけた!」

「無い無い。アイツにそんな能力無いよ。そもそも、ジャーナリズムみたいな熱意はアイツに無い。オカルトライターなんてのは名ばかりで、売名と小遣い稼ぎ目当ての小物だよ。リスク負って本当に調べなくっても、でっち上げりゃ良いってタイプの奴だ。アイツが欲しかったのは、この島に来たっていう既成事実だけさ。その既成事実の上に、適当な三流小説を書くのさ」

「分からん事ばかりやな? 整理して考えようにも、情報の全てがまだ断片的すぎる」

「百合乃さんが嫌われてる訳も分からないしな。あんな良い人をーー。お前が軟禁される時だって最後まで、島の奴らから庇ってくれてたしな」

「百合乃さん、もしかしたら、ワイの事ーー」

「それは無い」

銀太はハッキリキッパリ言った。

「なんや! まだ何も言ってへんやろ! 」

「言わなくて良いよ。聞きたくも無い」

「……ぐぬぬぬっ! でも凪の旦那なら、百合乃さんの為にきっと島民全員フルボッコのして締め上げて、秘密にしてる事を聞き出してたやろうな」

「……。あの人はやるな。箱男、普通に車で後ろから跳ねたしな」

歯を喰いしばれ! と、島民を並べてブン殴ってる凪の姿が、銀太の頭に浮かぶ。完全な侵略行為、もはや地獄絵図である。

「百合乃さんイジメやがって、ムカつくわ。ホンマに凪の旦那連れて来るんやった。今からでも呼んだろかっ!?」

「そりゃ、お前。事件解決の為じゃなく、島民への単なる報復だろ。でも、凪さん少女の依頼じゃなきゃ来ないだろ? まあお前の気持ちは分から無くは無いけど、俺の修行目的でもあるし、俺達のやり方で解決しよう」


ーーだって、あの人呼んだら島が無くなりそうだし……。

クレーター作って、大型ダンプ投げた人だし。


「せやな。あの人はロリコンやった。最低や」

「エロ野郎のお前が言うなよ」



その後、夕方まで待ったが警察の到着は無かった。


島民が、警察に再度連絡したが、とっくに出航してはいると言う。

警察が島に向かった捜査隊に連絡したが、連絡が付かなかった。

難破を危惧して、明日、最初に向かった第一陣の為の捜索隊が新たに組まれて、それとは別に第二陣の捜査隊がまた島へ向かうという事になった。


ーーという事で、士鶴はこの村民館に一泊する事になった。


「なんや、お前かーー」

寝転んでいた士鶴は体を起こし、交代で夜の見張りに来た男を見て言った。


「悪かったな」

と、言われた男は、朴訥とした声で一言言った。


そいつは、百合乃にお化けっ子と言った男だった。

百合乃と同年代位の若い男だ。日に焼けた肌に短髪、ガッチリしていて漁師じゃなきゃ、高校球児だろう。ーーそんな見た目だ。


「ゴミが!! 女の子1人を、いじめ腐りやがって。クズめ! 異常者がーーッ!! Nazisかっ!」

襖で隔てられた向こうの部屋に向かい士鶴は言う。

顔を見るのもムカつくので襖を閉めて寝転んだが、怒りが収まらず文句が口を突いて出る。思い付く限りの酷い言葉を並べた。

「……。」

襖の向こうから反応は無い。

「クズがっ! どんな理由があろうが、男が女の子イジメんなや!!」

士鶴は止まらない。

「……癖に」

ぼそりと声が聞こえた。

最初の方は聞き取れなかった。

「なんやっ? ハッキリ言えや! 女の子集団でイジメるような弱虫は男相手じゃハッキリものも言えんのかっ! ボケッ!! 変態がっ!」


ーーバンッ!!


襖が突然開く。男が立っている。

「余所者のお前に何が分かるっ!!」

士鶴も身構えて体を起こす。

「野蛮人の気持ちなんて分かるかっ! ボケッ!! 世界中、女の子イジメてる所なんて、獣以下の野蛮人の住む世界や! それが、まさか日本に在ったとはなぁ。もしくは、善悪の判断もつかんガキのする事や。弱い者イジメやっ!!お前ら全員、ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるで!」

「……そうだ。此処は野蛮人の住む、ガキみたいな奴らの集まった島だ」

いきり立っていた男は、急に意気消沈したように思い掛けぬ言葉を口にする。

その顔は、何故だか分からないが、苦悩に満ちていた。


「……なんや、お前は?」


「……。」

男は何も答えなかった。

「ーーせや、忘れとった」

士鶴はワザとらしく思い出したように言い、続ける。

「今、百合乃さんの家に泊まってるワイの相棒は手が早いさかい。今頃ーー。ああ、羨ましいのぉあんなべっぴんさんと」

「いきなり、何言ってんだっ!? お前っ!」

「アイツ、ちょっと強引な所あるさかいなぁ」

と、士鶴は男の話を空で聞き、話を勝手に続ける。

男は青い顔をして踵を返し、玄関へ向かおうとする。


ーーが


「待てや。見張りサボってどこ行くねん? 捕虜が逃げてまうでぇ?」

士鶴は男の首に後ろから腕を回し、グッと捕まえて耳元で言う。

勿論、捕虜とは士鶴自身の事である。

「離せっ!!」

「離すかっ! ボケェッ!!」


と士鶴はもう片方の腕を男の腰に回して、そのままーー


「おいっ! やめろ! 何をーー!!??? えっ? おいっ!!?」


「とりゃあッ!!」


男の見える景色が逆転する。

士鶴は思いっきりバックドロップした。


ガンッ!! と畳に男は頭を打ち付け


「ーーグヘッ」


と声を上げた。


……………………ッ!。


「うっ、うう……。」

気を失っていて、目を覚ました男に

「アホみたいな、幼稚ぃ煽り文句に引っ掛かりおって ーー」

士鶴は言う。

「……。」

「お前、百合乃さんの事が好きなんやろう?」

「なっ!? 俺は、別にーー。ただ、アイツとは幼馴染で……」

と男は言葉を詰まらす。

「幼馴染でーー、なんなんや? 言えや?」

「……。

「言えやっ!!」

士鶴は恫喝するように言う。

その気迫に負けて、

「わっ、分かったよ! ……お、俺は、アイツにこの島から出て欲しかっただけだ。こんな島に居ても、アイツは幸せにはなれ無いからな。でも、アイツはそれを拒んだ。大学に行ってそのまま本土で就職でもすると思ってたら、お袋さんが死んで、卒業するとまた島へ帰って来た。理由は分からないが、たぶんアイツの祖先がこの島の発見者で初代村長の鉢形剛志だからだろう。アイツなりにこだわりがあるんだろう。でも、この島に居ても……。だから、この島で唯一話せた俺は、敢えて俺から距離を置いた。そうすれば、アイツも流石に出て行くと思ったんだ。本当に1人になるからな」

「でも、出て行かず、距離を置いたが良いが戻せなくなったんか?」

「……。」

「 お前か? 昨日百合乃さんに、ワイらが路頭に迷ってる事を匿名で連絡したのは」

「……ああ」

「なんや。ホンマこの島は面倒臭い事が多そうやわ、ーー色々と。あっ!? お前が、タヌキと猿の正体か?」

「タヌキ? 猿?」

「段ボール置いたのや。生理用品まで買うて来たるなんてーー」

「仕方がないだろ。アイツの家は本土まで行く船も無いし、嫌な思いして街中まで買いに来させるのは可哀想だろ?」

「……まったく。安心せい! アイツは真面目な奴や、殺されても百合乃さんに無理矢理言い寄るような事はせえへん」

「え?」

「今、百合乃さんの家に厄介になっとる、ワイの相棒の事やっ!」

「……お前。」

「そういう事をするのは、ワイの方や。キャラ的にはな」

「ーーお前ッ!!」

「お前、ほんま良い反応すんな? いじられキャラやろ?」

「うるさいな!」

「お前、名前は? ワイは、比嘉士鶴や」

「俺は川上透だ」

「なあ?」

「何だ?」

「なんで、百合乃さんは嫌われとんねん?」

「……。」

「力の所為か?」

「お前、アイツから聞いたのか?」


やっぱりか。

士鶴に過去の記憶が蘇る。

自分も幼い頃に、力の所為で周りから疎外されていた事をーー。


「アイツが自分から、会って直ぐの余所者に話すとはな。よっぽどお前ら、好かれてんのか?」

「せや、好かれとんのや。ーー百合乃さんはワイが連れてくで。お前じゃ頼りにならん」

「なんだとっ!」

「本気で島から救い出したいなら、縄で縛ったって連れてくべきや! お前は一緒に逃げようともせえへん!! 」

「お前に、何が分かる!」

「ビビってるだけやろ? 根性無しがっ!!」

「うるせえ!」

と透は士鶴の胸ぐらを掴む。


「そんで、どうすんのや? 掴むだけかっ!? ーーこんボケがッ!!」


ーーバコッ!!


士鶴は躊躇する事無く、透をブン殴る。


「何すんだッ! テメーッ!!」


ーーボコッ!


透が殴り返す!


「やりおったな! このあかんたれがッ!!」


ーーボコッ!


士鶴は一発返すと、掴み掛かる。


「テメー! この野郎!! やってやるっ!」

「掛かって来いや! ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたるわっ!」


こうして、むさ苦しい男2匹の不毛な争いが始るのだった……。


無駄な戦いの、

翌朝早くーー。


「おいっ! 透、起きろっ!!」

慌しく入って来た男が言う。

「……な、なんだ? 健一か。 朝っぱらから。今日はコイツの見張りがあるから、俺は漁は出ねえよ」

叩き起こされた透が、目を擦り眠そうに言う。


入って来たのは、同い年の漁師、野村健一だった。


「漁の話じゃねえ! つか、漁どころじゃねえ!!ーー船が無いんだ!」

健一は血相を変え言う。

「お前のがか? 変な所に停めたからレッカー移動されたんだろ? 違法駐車したって取り締まられねえ(警察が居ないから)この島で。あははは」

透は、そんな訳が無い。何かの見間違いだろう。と、まるで相手にしない。

「ふざけてる場合じゃねえ! お前ん所の船もねえ!」

「はぁ?」

「俺ん所と、お前ん所だけじゃねえ! 島中の船がねえ!!」

「どういう事だよ!」

「分からねえから、今皆んなで港に集まってる! だから、お前も呼びに来たんだよっ!!」

「呼びに来たって、言ってもなぁ……。」

と透は高いびきで、隣の部屋で眠る士鶴を見る。



「なんで、ワイも行くねん!!」

軽トラの助手席の士鶴が、突然朝早く起こされてイライラして言う。

運転しているのは、透だ。軽トラも、昨日乗って来た透の物だ。

「仕方ねえだろ! お前の見張りが居なくなる!!」

ハンドルを握る透が言う。

「逃げへんわっ! 出歩いても、スペックみたいに夜には帰って来るわ」

「スペック?」

「バキ知らんのか? 田舎モンがーー。昨日、見せたったろっ! ワイの無呼吸連打を。この田舎モンがっ!」

埼玉県民の士鶴が、透を田舎モン扱いしているのは内緒の話だ。

「なんでも良いけど、勝手に出歩くな! 一応、お前は殺人の容疑者なんだからな! 殺人事件なんて、起きた事が無い島だ。パニックになる!!」

「殺人容疑者か? それじゃ、ほんまスペックやんけ。カッコエエのぉ、ワイ。ああでも、スペックは容疑者じゃあらへんか? 死刑囚やもんな」

士鶴は鼻クソをほじりながら言い、ほじった鼻クソを透の服で拭う。

「うわぁーっ!? うわぁーっ!? 汚ねえっ!! てめえっ! マジで殺すからなぁッ!!」

透は怒りに我を忘れて、ハンドルが変な方向に切られる。

「危ないやろっ! 前見ろッ!?」


目の前に、大木が!??


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーッ!!!!!!???


ーーーーーーーーーキキキィィィィイッ!!


ブレーキを踏み、咄嗟にハンドルを切り軌道を道へ戻す。


「はぁーはぁー。お前、ふざけんなや!死んでまうやろっ!!」

「……てめは、後で絶対に殺す! 昨日の続きだっ!!」

「なんで、そいつも連れて来たんだ?」

港で集まっている漁師達の1人が振り返って透に言う。

「なんでって、見張り居なくなるだろ! 1人置いとくのかよっ!?」

「……ああ、そうか」

納得はしてない風だが、まあ仕方ないかという感じに言う。

「で、どうなんだよ?って、言うまでもないかーー」

確かに港に浮かべられている筈の漁船が1つも無い。

小さい港に、近海で使うだけの小さい漁船だが、昨日は10艘はあった筈だ。

「流されたのか?」

「流されるって、潮の流れも満ち引き位しか無い湾内だ。それに陸に上げてあったのも

無い」

港の奥まった所は、コンクリの敷かれた斜面になっていて、そこには数艘の船が陸に上げられていた。台風程度の波くらいじゃ、そこから流される事は無い。

それに、昨日の夜は晴天で海は凪だった。


「盗難かよ?」

透が言う。

確かに、それが1番考えられる事だ。

島の外から船で大勢で来て、どうにかエンジンを始動させれば、乗って逃げれる。


ーーが


「船が出れば誰かエンジン音を聞くだろう? こんな静かな島だ。夜に船のエンジンを掛ければ1艘だって、島の何処に居ても聞こえる」


誰の口からもエンジン音を聞いたという話は出ない。


「見てみい、これ?」

という声に、漁師達は一斉に振り向く。

士鶴が船を縛っていた太いロープを持っている。

士鶴は続ける。

「引き千切られた痕や。波でこんなになるんか? 」

士鶴の持つ、男の腕位はゆうに有りそうなロープの先が、千切れてササクレ立っている。

「少なくとも、俺は波でロープがそんなになるのは見た事がない」

透が言う。

「千切れそうになってれば?」

士鶴が訊く。

「そりゃ、分からないが。そんなロープ、毎日皆んな自分の船を停める時に、点検してるからな。切れそうになってれば、気付かない訳が無い。エンジンを掛けた船で、思いっきり引けば分からないが、それでも簡単じゃ無いだろう。千切れるまでに、エンジンがかなり吹かされるだろうから、その時のエンジン音は半端じゃねーな」

士鶴は隣の海に垂れたロープも引き上げて見る。

それも、同じ状況だ。

「きっと、他のもこんなやろう? まあ、お前らの話を聞く限りでは、エンジン掛けて引き千切ったってのはあらへんな。音は誰も聞いてへん」

確かに漁師達が確認すると、他のロープも似た状態だった。

「まあ、ええ。これも刑事が来たら言えや。今日また来るやろ? ワイらで考えてもらちが明かんやろ。現場維持しとく位しかやれる事はあらへん。帰って朝飯喰わせろや? 腹減ったわ」

士鶴は透に言う。

「なんで、俺に言うんだ?」

「当たり前やろ! ワイはお前らの都合で軟禁されとんやで? 捕虜への虐待は国際法違反やで? 食事を与え無いのも立派な虐待や」

「……。」



「お前、面倒くせから。早く警察に引き渡してえな」

帰りの軽トラの中で、透が言う。

「お前には、おもてなしの精神はあらへんのか?」

「相手を選ぶ」


村民館に着くと、銀太と百合乃がやって来て居た。

百合乃の手にはお盆が

「百合乃さんがお前にってよ。感謝しろよ。これもだ」

銀太が水筒を渡しながら言う。

お盆には、ラップを掛けられた、オニギリとオカズが乗っている。卵焼きとソーセージだ。

「要らねえ事するなよ!」

と、透が言うがーー

「はい、士鶴さんに。どうせ、朝食も食べさせて貰って無いでしょうし。士鶴さんにね!」

百合乃は無視して、士鶴にお盆を渡す。

「お前なぁ!」

「話し掛けんなや。これは、ワイにや。お前には関係あらへん。百合乃さんと話さへんのやろ? 話したいなら、謝れや。クズが!」

「お前……ッ!?」

勿論、士鶴は透が百合乃を避けた理由は知っている。

「私幼い頃から、島の人達から避けられてたけど、透だけは話してくれてたから凄く嬉しかった……。それだけで良かった」

百合乃が俯き言った。


「……百合乃」


「でも、そんな透に無視されたら、島の人達に無視されて来た事よりずっと傷付いた。一生消え無い心の傷が……」

「俺は別に……」

透はそう言った切り、言葉を詰まらす。


そんな透に百合乃が言った。

「ーー私、川上透は性格の曲がった豚です。許して下さい百合乃様、って土下座して地べたに頭を火が着くくらい擦り付けて言ったら、話してあげるかも知れないわ。0.000000001%の確率でね?」

と。

そして、べぇーと舌を出した。


「そこまでして言っても、ほぼ0じゃねーか!」

透が言い返す。

「例え、限り無く0%に果てしなく近い可能性でも、0じゃないのよ? その可能性に掛けれない男はダメね?」

「そやなー」

士鶴は棒読みで言う。

「そもそも、それお前のさじ加減じゃねーか!」

「もう、話してやるタイム終了。話し掛けないでね。口が臭いから」

「ーーなっ!?」

「さあ、冷めちゃうから、中に行って食べて下さい士鶴さん」

「はぁーい」


透や島民なんかより、百合乃の方が何枚も上手で肝が据わっていた。

百合乃に比べれば、全てにおいてチ○カス野郎共であった。


「船が全部消えたのかっ!?」

銀太は驚きの声を上げるが

「らしいで?」

と士鶴は、百合乃の作ってくれたオニギリを頬張りながら、他人事のように言う。

開け放たれた引き戸の向こうには、小さく海が見える。


士鶴、銀太、百合乃は、士鶴が軟禁されて居た部屋に居るが、透だけ隣の昨日泊まった部屋に居る。まるで見えない壁があるかのようだがーー。


露骨に「コッチに来無くていい」と百合乃に言われたので、透はこの状況になっていた。


実際に、見えない壁があった。


「らしいでって。じゃあ、今島にいる奴ら全員、此処から出れないのか? 俺達も含めて」

「そんなん焦らんでも、本土に連絡着くから、迎えが来るやろ? ワイらは、やる事終わってから、連れて来てもろぉた釣り船のオッチャン呼ぶ事になってるし。とにかく、本土に連絡着く内は、焦らんでもええ」

「まあ、そうだな。どうせ、船で1時間だもんな。流石に泳いでは無理でもな」

「んっ!?」

士鶴は何かに気付く。

「どうした?」

ふんっふんっ、と士鶴は銀太の頭に顔を近付けて匂いを嗅ぐ。

「なんだよっ! 気持ち悪りぃなぁっ!!」

「お前、このシャンプーの匂い。百合乃さんと一緒ーー!?」

「ああ、流石に2日目だから、百合乃さんに風呂借りたんだ」

「お前! 百合乃さんが使ったシャンプー! 百合乃さんが使った石鹸!そして、百合乃さんが入ったお湯にッ!!」

「お前、相変わらず発想が気持ち悪いな? 百合乃さんドン引きしてんだろ?」

「……気持ち悪いわ。そこそこイケメンなのに、残念ね」

百合乃さんはドン引きしていた。

「ちっ、違うんやっ! ワイはーーッ!」


何も違っては居なかった。士鶴は気持ちが悪かった。

その証拠に、士鶴の口から弁解の言葉が続か無い。


と突然


「ーーそうだッ! 流石に何も無くとも、男女が2人同じ屋根の下は不味いだろう!? お前らは此処に泊まれば良い!!」


と透が会話に割り込んで来た。


「別に良いわよ。私はーー。ああそうだ。士鶴さんも私の家に泊まれば良いわ。そうすりゃ、男女2人じゃなくなるし」

「そっ、それは不味いだろうっ!!? そいつは逃げるかも知れない!」

血相を変え言う透に

「逃げたって、この島から出れ無いし」

と冷ややかに百合乃は返す。

「それに、そいつは今殺人の容疑が掛かってる!!」

「別に良いわよ。私がどうなろうが悲しむ人なんて居ないし、そもそも私は士鶴さんがやったなんて思って無いもの」

「そうや! ワイはやってへん」

「それに、此処お風呂も無いじゃ無い。キッチンも簡易キッチンだし。可哀想よ。て言うか、あんたなに会話に入って来てるのよ?」

「せや。会話に入って来んなや。今日は百合乃さんの家に泊まるで。そこから逃げへんかったらええんやろ」

「良いけど、士鶴さんはお風呂は私より先に入ってね。石鹸とシャンプーは、仕方ない。我慢するけど」

「ワイは、逆年頃の娘の居るおとんか」


※年頃の娘さんは、お父さんより先にお風呂に入りたがる現象、の逆という事。


「さて、じゃあ私は帰って家の事やるわ。2人はまた島を散策すんでしょ? 士鶴さん、洗濯物とか有れば洗っとくわよ? 銀太君のも洗ったし」

「なんや銀太、ずうずうしいのぉ。泊めて貰って、同じ風呂に浸こうて、洗濯もか?」

と言う士鶴の嫌味に

「ーーそういう事なんで、百合乃さんコイツのは洗わなくて良いですよ」

銀太は立てた親指を士鶴に、コイツのは、と向け言う。

「そう? 分かったわ」

「嫌やっ! 百合乃さんにワイも洗って欲しぃ!」

士鶴は両手を振って、なぜかオネエのようにぐずる。

「じゃあ、早く出して?」

と百合乃は、出された汚れた士鶴の洗濯物も、嫌な顔もせず手に取り抱える。

が、

「ーーそれは?」

百合乃は、士鶴が何かを後ろに隠したのを、鋭い観察眼で見つける。

「ええねん! これは自分で洗うからええっ!!」

「うりゃっ!」

と百合乃は、士鶴が後ろに隠した物を奪い取る。

奪い取ったのは、士鶴のパンツだった。それも派手な柄の赤いブリーフだ。


「ーーいやぁぁぁぁぁああああ!!!!! 見んといてぇぇぇぇぇえええええーーーーッ!!!!!!!!!」

士鶴は顔を両手で覆い、オネエのように叫ぶ。

士鶴は時々オネエが出るらしい。


「ーーさて、じゃあまた後でね」

と百合乃は、士鶴から取り上げたブリーフを他の洗濯物と一緒に抱え、男前に去って行った。



「ほんと百合乃さんて良い人だな」

銀太がしみじみと言った。

オネエのように両手で顔を覆っていた士鶴は、隣の部屋の透の方を向くと、キッと男の顔に戻り

「おいっ、コラボケッ! 除け者にされる者の気持ちが少しは分かったか?」

ーーと言った。

「……。」


流石に透も、それには何も言い返さなかった。

僅かな時間であったが、何かを感じる物があったのだろう。

どんな理由が有ろうが、やられた方は辛い物は辛い。


「何だよ? お前ら仲良くなったのか?」

銀太が唐突に言う。


「なってへんわっ!」「なるかっ! こんな変態と!!」


士鶴と透の声が揃う。


「ああ、そうか。まあ、別に良いけど」









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