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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
心臓探偵 のん
31/56

心臓探偵 のん ④

(報道規制を敷いたのは、警察の失態の可能性があるからでしょう。早川を犯人として片付けた事で、真犯人を見逃してしまった。もし真犯人がいるなら、他の奴を間違えて捕まえた警察に対する嘲笑と挑戦と考えるのが、自然でしょう。そうなると、今回の捜査ミスが犯行動機となりますがーー。でも早川は犯人です)


(……ええ? どういう事?)


のんは、自室で駿草と今回の事件に付いて話していていた。


昨日六郎と別れた後、夜中にメールで今回の事件の詳細と、六郎が今掴んでいる情報が全て届いていた。

とは言え、何も手掛かりらしい物は、まだ見つかっていないようだ。


今日は、のんの通う高校の創立記念日で休みだが、やる事も無いので、部屋で六郎のメールに添付されていた資料を駿草と見直していた。


のん(駿草)の推理は、時と場合によるが、ほとんど現場に出向く事は無い。

それはのんの存在を知られない為もあるが、のんの安全を護る事が1番の理由だ。

安全というのは身体だけでは無く、精神面でもだ。だから、遺体も凄惨な現場ものんが見る事はない。コ○ン君やはじ○ちゃんとは違い、リアルなJKはそういうグロ免疫は無いのだ。

そういう気遣いは、駿草が考えて六郎を通して、提案実行された。


だから、こないだみたいな場合は、ほとんど無い。

こないだとは、吉田島子の婚約者毒殺事件の事だ。


この前は、たまたま管轄内で起きた事件で、たまたまのんが署内に居て(暇潰しに六郎に会いに来ていた)、事件状況を横で聞いている内に犯人とトリックが駿草に分かってしまい。それを説明する為に、現場に出向く事となったのだ。

安全も確保され、一般人は加害者(その時はまだ被害者遺族)1人だけで、遺体も既に片付けられて、検死に回された後で、薬殺だった為に現場に血も無かった。

その場の刑事達は、現場を見ただけで解決したと思っているが、実はすでに現場に着く前に事件の謎は解かれていたのだ。現場には、その証明をしに行ったに過ぎない。


普段は、六郎や他の刑事が積み重ねた情報だけを元に、事件を推理する。

普通ならあり得ない事だが、のん(駿草)の場合はそれで事件を解決に導いてしまう。

その事は、推理を元にその裏付けをした刑事達が1番理解していた。

それゆえに天才女子高生探偵と呼ばれるのだ。



駿草は話を続けるーー

(状況証拠とスマホの動画から言えばですがーー。あなたも見たでしょう? 動画の中に犯行を実行する早川が映っていたのを)


(だっけ?……あははは。忘れちゃった)


(……。確かに動画は、主観で撮られていましたから、犯人の顔は見えませんが、犯行場所のガラスにその様子が映っていたでしょう? 早川の顔がーー)


勿論、犯行の実行シーンでは無く、のんが見たのは拡大されたガラスに映る早川の顔だけだ。

先に言ったように、まだ女子高生ののんには直接刺激の強い犯行現場や遺体などは見せない為である。

周辺に犯行現場が写り込む物が無いか探すように指示をしたのは、勿論駿草である。


(そうだったっけ? 画像解析だっけ? したよね。あれ? でも、全然見た記憶が無い)


(どうして、覚えて無いんですか? まあいいです。早川は犯人であるのは確実です。ですが、もしかすると、共犯が居たのかも知れませんね……。)


(共犯っ?)


(はい、そいつが窒息魔を引き継いだ。 勿論、模倣犯の線も捨てられませんが。模倣犯の場合、何かしら早川に共感出来る部分がある人物である可能性が高い。早川の場合、生い立ちは考え難いです。幸せな中流階級の1人っ子なんて、ごまんといます。大体、生い立ちでの共感の場合は不幸が付き物ですが、早川は先に言ったように一般的には幸せな家庭に生まれている。引きこもりでも、ニートでも無い。身近に女性の影は少ないが、モテナイという訳でも無い。単に特殊な性癖で、それがバレるのを恐れ、女性と距離を取っていたに過ぎない。そうなると、同じ性的な趣向を持つ人物という事が考えられますがーー)


(性的とか嫌らしい、先生。あはは。エッチ)


(……。六郎君の説明では、現場は早川の最初の犯行現場でした。つまり単にやり方の模倣というより、早川の事件をなぞってる形になります。そうなると、自分の性的な趣向を満たす為に行っているというより、早川自身に対する執着のような物がある事になります。それは単なる模倣犯の心理とは、また別な気がしますね)


(ええっ!? じゃあ次は、早川が犯行を次に犯した場所で起こるって事?)


(その可能性は有りますね)


(よしっ!)


(何が、よしっ! なんですか……。)

駿草は嫌な予感がした。



(マズイですよ。せめて六郎君に連絡しましょう?)


(平気だよ。何もしない、見に行くだけだよ。場所どこだっけ?)


のんは暇を持て余し、早川の2度目の犯行現場に向かう事にし家を出た。

当然、駿草は止めたが、心臓しかない身ではどうしようも無かった。


「ほうほう、なるほど。わかば公園ね。ーーん? んんッ!?」

のんはスマホの画面を見ながら言う。

駿草が行く事を渋り非協力的なので、面倒だからのんは自分でネットで調べた。

「此処、少し時間掛かるけど歩いて行けるやん!! こっわー。身近で、こんな事件起きてたのか!??」

この事件については、のんも目を通している筈なんだが……。

駿草はそう思ったが、面倒なので言わなかった。


「あった! 此処だ。隣街なのに始めて来た!! ーーうあっ!」


と、のんが気付く。


「あっ」


向こうも気付いた。


「のんちゃんどうしたんだい? こんな所にーー」

「極秘捜査だよん。六郎さんはさぼり? 天気良いもんね?」

「な訳無いでしょ。目的は君と、ーーいや駿草さんと一緒だよ」

「何言ってんの? 私が気付いたんだよ」

駿草の声はのんにしか聞こえないので、手柄は全て横取りだ!

まあ、一応のんも、今回の事件が早川の事件をなぞっている可能性に気付いたが(駿草のヒント有りで)。

「あははは。凄なぁーのんちゃんはぁー。あははは」

だが、誰ものんの手柄だと信じないけどーー。


「馬鹿にしやがって! なんだいまったく。で、なんかあったの?」

「特にこれといって。怪しい人物の目撃者も居ない。あんな事件があって、まだ日が浅い公園だから、皆んな異変には敏感だろうからね」

つまり、かなりの確率で怪しい奴は居なかったという事だ。

「ふーん。で、これからどうすんの?」

「昨日、行ったショッピングモールで、提供して貰った防犯カメラの動画の続きを見るよ。昨日もかなり見たけど、数が多いんだ。カメラ1台分でも、事件前後で合わせて1時間位見るしね。それに、犯行が起きる過去の動画も見なきゃいけないし。防犯カメラの死角を探る為に現場を下見をしに来てる可能性があるからね。事件以前と事件直前直後に映って奴が怪しい。まあこの1週間のは今朝までにほとんど見終わったけどね」

「手伝ってあげるよ。残虐動画じゃなきゃ見て良いんでしょ?」

「刺激の強いね。残虐とか言っちゃダメだよ。不謹慎だ」

「真面目だな。ただの言葉じゃん」


のんと六郎は、ノートパソコン2台を並べ、警察署内の一室を借りて、DVDに焼いた防犯カメラの動画を早送りで見て行く。


防犯カメラは、ショッピングモール中に幾つも有る。

ある程度、犯行現場を視点に目安を付けながら、犯人の映っている可能性が高い物を見ていくが、それでも数が中々だ。時間を省く為に、早送りで見ても、大分掛かる。

一応、事件前後の合わせて1時間位を見るが、六郎達は特別班的なポジションで人員も最初からは割かれ無いので、さっきのんと会わなければ六郎1人だけで確認する事となっていた。

余りにやる事が多い場合は、補助員を多少増員して貰う事も極稀にある。とは言え、別に人員を割くのを嫌がられている訳ではない。ある程度の情報が溜まれば、のん(駿草)が解決してしまうから割くまでもなかったのだ。


今度の犯行現場は、同じショッピングモール内だが前とは違う場所だ。

前の場所は、カメラの死角になっていたので、新たにカメラが設置された。

それを理解しているのか、たまたま死角を探した結果の偶然なのか、今回は場所を変えている。

まあ、以前の犯行現場はショッピングモールの従業員達は当然として、付近の人も事件当時は献花台などが設けられていたので知っているだろう。場所が違う事については、深い意味は無いかも知れない。


ちなみに前記の事からも分かるように、今回の犯行現場が映っているカメラは無い。

良くある企業の事務的な怠慢で、死角となった前の犯行現場には新たにカメラは付けられたが、他の死角は見逃された。

もし新たな事件となれば、当然ショッピングモールの運営会社は社会的な制裁だけでは済まないかも知れない。


と言うわけで、今回見付けるのはピンポイントで犯人というより、犯人らしき怪しい奴だ。それと、犯人が防犯カメラの死角を探す為に下見に来ている可能性が高いので、事件より前の日と事件直前直後で共通して映って居る人物も怪しい。


「ああ、面倒っちい!!」

のんは頭を、血が出るんじゃないか? と言うくらいかきむしり叫ぶ。

「まだ、30分じゃ無いか。まったく」

「うーん……。居た? 怪しい奴?」

「え? ……そ、そっちは、どうなんだい?」

「さっぱりと言えば、さっぱりだけど。皆んな怪しいと言えば、そう見える!!」

六郎は、確かに……。と思ったが、イヤイヤッ! と首を振り

「とにかく、どんな小さな事も見逃してはいけない!!」

とモニターを睨む。

が、怪しい人物も、過去の映像と事件直後の映像に共通して出てくる人物も見当たらない。

「ああでも、この映像には必ず犯人が映ってる筈だよね?」

のんが見ているのは犯行直後の映像だ。

「まあ、直後の防犯カメラの映像もいっぱいあるから、そうとも限らないらないけど、その可能性はあるよ」


と、その時

「ーーあっ!?」


と、のんが声を上げる。


「えっ!?? 何っ!? どうしたの、のんちゃんっ!!? 怪しい奴!??」

六郎はのんのモニターを覗き込もうとする。


「うっわ! コイツ知り合いだよ!」

のんはモニターを指差し言う。

見ていたのは、事件直前の記録であった。


「……なんだよそれ。真面目にやってよ」

六郎はのんのモニターを見るのを止めて、自分のモニターを再び見ようとする。

「ねえ、見てよ! 前に探してって頼んだ晴人だよぉ……!? コイツクッソ性格悪くなってたよぅ。グレたんだ。捕まえてよぉ。更生させてよぉ。拷問してよぉ」

のんはグズるように言う。

「……なんだよ、それ。まったく」

と言いながらも、六郎は仕方なくのんのモニターを見る。

「あれ?」

「何?」

「俺、この子知ってるようなぁ……?あっ!? そうだ。わかば公園の出口でさっき会ったわ?」


(……一ノヰさん)


「どうしたの? 先生?」

六郎と居る時は、説明を省く為に声に出してのんと駿草は話す。

これなら、聞いていて、分からない所だけ六郎は聞けばいい。


(事件直後の記録を全部調べてみてください)

「事件直後の記録? うん分かった)


それから、事件直後の記録を六郎と2人で調べると、そこにはまた晴人が映っていた。

「……!?」

何かしら、晴人が事件に関係あるのか!? のんの胸に不安が過ぎる。

(六郎君に、過去の記録に、晴人君が映って居ないかったか訊いて貰えますか?)

「……う、うん。六郎さん過去の記録に、晴人は居た?)

「……いや」

「だって! なら関係無いじゃん!」

のんの声は安堵で明るくなるがーー、


(……。晴人君を至急探すように、六郎君に言ってください)

駿草は言った。


「え? どうしてさ。晴人探しは後回しで良いよ? 今は事件解決が先じゃんか」

のんは駿草の言葉に見当違いな言葉を返す。


顔は笑っているが、微かに引き攣っていた。駿草の言葉の意味は分かって居るが、それを認めたく無いのだ。駿草は晴人を疑っている。


「……。」

六郎は急に暗い顔をし押し黙る。

六郎も何かに気付いたようだ。それは、たぶん駿草と同じ事だろう。


「ん? どうしたの、六郎さん?」

のんだって六郎の変化に気付いては居たが、あえてはぐらかす様に言った。

(一ノヰさん)

「ん? 何?先生、改まっちゃってーー」


(もしかすると、晴人君が今回の事件に関係してるかも知れません……)


「えっ! 何言ってんのさ。またぁー」

のんは間に受けず、笑って言うがーー。その心情は言葉と表情とは裏腹だろう。

(……本当です)

「えっ!? 何? 何なの? 先生??ーー六郎さん、なんか先生さぁ……?」

「のんちゃん! これから俺は、晴人君を探す!! あの制服は有名な進学校の物だ。直ぐに見つかる!!」

「……へえ、そうなんだ。私馬鹿だから、制服見ても分かんなかったわ。高校も消去法で、入れる所に入ったしぃ。あははっ……」

のんははぐらかし、話を真面目に取り合おうとしない。

「後は、俺がやるから。君は先に家に帰って。俺に付き合ってたら、門限に間に合わなくなるよ」

六郎はあえて、話を聞こうとしないのんを指摘せず言った。

「どうしたのさ、急に六郎さんもーー。違うよ、晴人は関係無いよ。やだなぁ」

のんの声は、その明るさとは裏腹に震えている。

「……。」

六郎は答えられずにいる。

「なんで、将来刑事になるって言ってる晴人が、こんな事件起こすのさっ!! 全然、おかしいじゃん!! 関係無いよ! 今回は、先生間違ってる!!」

「のんちゃんっ! 犯人かどうかは分からない!! でも、もし関係していたなら、晴人君に身の危険が迫っている可能性があるんだ!とにかく、まずは晴人君を確保しなきゃいけない!!」

のんは『犯人』という言葉を直接耳にし、さらに晴人の身に迫る危機を突き付けられ、ショックで言葉を失う。

「……うっう!」

のんは、失った言葉の代わりに、思わず泣き出しそうになったのをグッと堪えた。

そして、

「私も行くよっ! 今回は行かせてよ!! 危ない事はしないから。門限なんかどうでもいい!」

「……。」

六郎は考えて言う。

「……分かったよ。その代わり、僕の言う事には絶対に従って貰うよ」

「うん!」


警察署から晴人の学校に連絡して(番号通知が出て、素性を確認させれるので)、話しを聞こうとすると晴人は現在行方不明だという。嫌な予感は、当たったかも知れない……。六郎の頭に不安が過る。

学校は、母親が既に捜索願いを出していたので、それについてだと思っていた。

担任の杉浦という男が答えた。声が若い。教職歴は浅そうだ。声が動転している。


「すいません。これから事情を聴きに自宅に伺いたいので、住所を教えて頂けますか? 私は板橋警察署の猪野沢と言います」


六郎はマズイ事だと分かりながらも、電話に出た教師に話を合わせて、晴人の自宅の住所を聞いた。ある意味、晴人の行方は好都合だった。報道規制の敷かれている窒息魔事件の話を出さずに済む。

とは言え、捜索願いの出ている件で電話をして来て、行方不明者の自宅の住所を知らないのはおかしいか? 次の切り返しを考えて置かなくてはなら無いぞ。


だが、


「はい、分かりましたっ!?」


六郎の心配は取り越し苦労となった。

杉浦はことのほか動転しているようで、何も疑わずあっさり了承して住所を教えててくれた。

勿論、直ぐに向かう事を晴人の家に連絡するので、変に住所を教えた事がトラブルになる事は無いだろう。親も警察が直接来てくれるのは心強い筈だ。最悪、学校は署に確認を取ればそこで解決する。話のすり合わせは、どうとでも出来る。親の方は、出向いて警察手帳を見せれば良いだろう。

六郎は住所と連絡先をメモすると、電話を切った。

直ぐに晴人の家に向かおう。親へは車の中で連絡すれば良い。

六郎は心の中でそう呟き、のんの方を見るとーー


「……。」

横で電話を聞いていたのんは、緊張で固まっていた。


「大丈夫だよ。のんちゃん! 晴人君はきっと見付ける!!」

(普段はあれですが、六郎君はやる時はやってくれます)


「うん、ありがとう2人ともーー。そうだね。とにかく晴人を見つけなきゃね!」


家に連絡をすると誰も出ないので、母親の携帯に電話する。

母親は晴人を探しに外に出ていた。

六郎はこれから向かうと告げた。


晴人の家に着くと、母親が待っていた。


家には六郎だけが向かい、のんは六郎に言われ車で待機していた。

のんも家まで行きたかった。この無駄に待つ時間を、探す時間に当てれたらと思うが、それは短絡的な考えだと分かっている。逆に時間を大きく無駄にする結果になるだろう。でも、この待つ時間が口惜しい。その思いを発散しようとするように、グッとシートベルトを両手で強く握る。だが、気持ちの昂りは収まらず、八つ当たりにすらならないーー。


「まだ帰って来てませんか?」

という六郎の問いに

「……。」

母親の様子がおかしい。

「何か変わった事が?」

母親に案内されて行くと、部屋には制服が脱ぎ捨てられていた。

「1回は帰って来たんですね!」

「……そうみたいです」

母親の様子がおかしい。

まだ見つかっていなくとも、一応、息子の無事は確認されたと言って良い状況なのに。

喜んでも良い筈なのに、むしろ酷く落ち込んでいる?

「何かあったんですか?」

母親の顔色が悪い。

「此方に、来て頂けますか……?」

また母親に案内されて、今度は台所にーー。

「少し扉が開いていたので、中を見たんですがーー」

六郎が流しの下の扉を開ける。そこは包丁棚だった。1本ずつ包丁を分けて挿せるようになっている。

「ん? ここ空いてますね?」

直ぐに、1本分包丁を挿して置く所のスペースが空いている事に気付く。

「この包丁セットで買ったんです。カービングナイフが無くなっていて……」

母親は言う。

カービングナイフとは、日本では筋引包丁と呼ばれる。主に肉や魚を切る包丁だ。細身で出刃庖丁に似た形状をしている洋包丁だ。


「どうだった? 六郎さん」

「……早く、晴人君を探さないとまずいかも知れない」

六郎の顔にいつもの気安さはない、刑事の顔だ。

何か良くない状況なのは、のんにも分かる。

「……。」

(どういう状況ですか? 六郎君に訊いて下さい)

(……うん)

「六郎さん、先生が状況を教えてって」

「……。」

六郎は険しい顔をする。

「大丈夫だよ、私は。それより、晴人だよ!」

六郎はその力強い言葉に頷き、状況を伝える。

「一旦家に帰った形跡はある」

「じゃあ、無事なんだね!」

「……でも、また家を出ている。制服から私服に着替えて、……そして家から包丁を持ち出してる」

「……えっ!?」

のんは驚きで頭が真っ白になる。


(署に連絡して、自殺する可能性がある家出少年として、緊急保護して貰いましょう。六郎君に伝えて下さい)


白くなったのんの頭に響く冷静な駿草の声が、意識の底からのんを呼び戻す。

「ーーう、うん分かった!」

のんはしっかりしろと、自分を鼓舞する。

「 六郎さん、先生が警察署に連絡して自殺する可能性がある少年として、緊急で保護して貰うようにって!」

「ーー了解!」

六郎はすぐに警察署に連絡を入れる。


これから人数を集め、捜索を始める事になる。緊急では、避ける人員も、それ程多くは無いだろう。

プライバシー保護の問題や、少年である事から、今の時点では公開捜査も出来ない。

晴人の保護は簡単にはいかないだろう。

六郎は呼び出しのコール音を聞きながら思う。



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