表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
心臓探偵 のん
30/56

心臓探偵 のん ③

「晴人? お帰りぃー?」

キッチンで、夕食を作っている理保子は玄関の開く音に気付き言う。

相川理保子は晴人の母親だ。


晴人は母の声には応えず、早足で自室に向かう。


東京郊外の高級マンションの一室が晴人の自宅だ。

都心まで電車で30分もあれば行ける。良い立地条件だ。

父は建築家で、母は専業主婦。

父はマスコミに取り上げられるような新進気鋭の建築家だ。

仕事の依頼は引っ切り無しだ。

その分、父の家族サービスは少し悪くなるが、一般家庭よりは裕福と言える暮らしが晴人には約束されていた。

晴人も都内の進学校に通っていた。


晴人の手術も成功して、入院していたブランクを物ともせず、第一志望の高校にも受かった。

一見希望に満ち溢れた家庭に見えたがーー。


理保子は何となく息子の異変を感じていた。

なぜか最近、態度がよそよそしい。自分達両親を遠ざけているようにも感じる。

だが、それはあくまで感じるだけ。遠ざけられている確証も無く、原因も思い当たらない。

だから、仕事で忙しい父親には相談出来ずに居た。

仕事の邪魔をしたくは無い。

せめて、具体的な何かが有ればーー。


そう思うと、今帰宅した息子の部屋に足が自然と向かってしまう。

廊下をゆっくり足音を忍ばせて進む。

ーーそんな自分に気付いて、なんでそんな事をしなくてはならないの? 理保子は自分に問う。息子の部屋に行くだけよ? まるで自分を安心させるように心の中で言う。


息子の部屋の中から。誰かと話すような声が聞こえる?

誰かが居るの!?

どうすべきか答えが出る前に体が動く。それは、子を守ろうとする母の本能からだった。


「ーー晴人? 誰か居るの!?」


思わずノックもせずに部屋を開けてしまう。


「なんだよいきなりっ! 友達と電話だよ!!」


晴人の手にはスマホがあった。

どうやら、誰かと電話で話していたらしい。


「ごめん。お父さんが帰って来たら夕飯にするから、来なさいね? あと、帰って来たらちゃんとただいまを言いなさい」

「ああ、ごめん。友達に電話するって約束してたの忘れてたの思い出したんだよ。今度、皆んなでボーリング行くからその事でさ」

「ああそうなの。お友達は大事にしなきゃね」

「うん。まだ話の途中だからーー。夕飯にはちゃんと行くよ。ただいま言わなくてゴメン」


どうやら、自分の思い過ごしだったようだ。

息子は特に変わってなどいない。新しい環境で、息子は息子で色々忙しいのだろう。

理保子は晴人の部屋を後にした。



母親の居なくなった部屋で、晴人は再びスマホを耳に当てて話を再開するが……。

その表情は、気を許した親しい友人との会話をしているようには見えなかった。


「やめろ! アイツには何もするなっ!」


「もう嫌だ! 言いなりにはなりたく無いっ!」


「笑うなっ! 違う! 俺はそんな趣味は無い!! お前がやらせたんだろっ!!」


「違う!違う!違う!ーーやめろっ!」


部屋の中では、電話の相手と何か激しく言い争っている晴人の声だけが小さく響く。

母親を意識しては声は殺しているが、その言葉遣いは荒い。


「うるさいっ! もうお前とは話したく無い!!」


晴人はとうとうスマホをベッドに投げる。


何なんだ! 俺は……、俺はまともだ!! ーー糞うッ!


晴人は狂った様に頭を掻き毟り、心の中で叫ぶ。

肩で荒く息をし、怒りなのか、力み体を震わせている。


荒ぶった気持ちの収まらぬまま、天井を仰ぐと、まるで気持ちを落ち着かせようとするようにグッと目を瞑る。

それから、小さく深呼吸した。


晴人は机の引き出しに手を伸ばす。

ーー多少は落ち着いたのか、さっきまでの息の荒さは無い。

だが、指先が小刻みに震えている。

取手に指を掛け、ゆっくり開くと


………………ッ!?


引き出しの奥には、医療用のゴム手袋と飴玉が……。

歪む晴人の顔に絶望の影が射す。


翌日、正午ーー。


晴人は登校中の電車を途中下車して、見知らぬ公園に居た。

ベンチに座り、辺りを見回す。

公園内に設置された健康器具を使う老人達、犬を散歩させる人、そして小さな子供を連れた母親……。

公園の名前の書かれたプレートが見える『わかば公園』。


晴人はスマホを耳に当てる。

そして言う。


「……ダメだ。俺には此処じゃ出来ない。無理だ」


スマホをポケットに入れて、ベンチを立つ。

ポケットに今入れたスマホが震える。表示を見ると母親からだった。

登校していないから学校から連絡が行ったのだろう。


晴人はスマホに出る。

「ーーああ、母さん。途中で気分が悪くなって、電車降りたんだけど、帰るか行くか迷ってる間に昼になっちゃって。でも、もう良くなったから学校に行くよ。連絡しなくてゴメン。うん。平気だよ行ける。じゃあーー」


スマホを切り、再びポケットに入れた。


晴人は嘘を言った。今言ったのは事前に用意してあった言い訳だ。

具合など悪くなっては居ない。ただ、気分が悪いのは嘘じゃ無い。

肉体的な事が原因では無いがーー。

気分は史上最悪に悪い。


……はあ。


晴人は大きく溜息を吐く。

そしてまたスマホを取り出し、耳に当て言う。


「ーー黙れ」


その一言だけ小さいが強く言って、またスマホをポケットに入れた。

そして、公園を出た。

足取りは重い。


「ねえ君?」

公園を出ると、急に若い男の人に声を掛けられた。

「なんですか? 」

「今、学校の時間じゃないのかい?」

「え?」

面倒臭いなと思いつつ、

「ちょっと具合が悪くて、学校にも親にも連絡してあります。確認しますか?」

事実を答えた。確認されても、なんの問題も無い。

「いや、ゴメン。その高校、都内でも名門だもんな」

男は晴人の制服の校章を見て、笑って言った。

それが、晴人には気に喰わなかった。

「……。そういう風にレッテルだけで、人を判断しない方が良いですよ?」

ずっと、病気の事でレッテル貼りをされて来た反発だ。

「ごっ、ごめん。俺は猪野沢って言ってーー」

「じゃあ、学校に急ぎますんでーー」

「あっ、ちょっとーー」

晴人は男の声を無視した。


「相川大丈夫か? お母さんから、連絡貰ったぞ?」

担任が困ったような笑顔を浮かべ言う。

教室に入ると数学の授業の途中だった。担任は数学担当だ。

「すいません連絡しなくて。気が動転してしまって」

「いやいや、良いんだ」


学校に着くと母親が連絡してくれてたらしく、担任からは注意より、心配された。

担任は、過去の病気の事を、親に聞き知って居た。


晴人には、その心配が自分へでは無く、担任自身に対してなようにも聞こえた。

生徒に何かあった場合の責任問題への恐れだ。

その事について、特に担任個人には、これといって何かある訳でも無い。

何かというのは、つまり嫌悪感や怒りだ。自己保身は仕方ない。

むしろ、そういう自分がハンディキャップを抱えて居るが故の、他人の気遣いに対しての方が申し訳ないが辟易する物があった。

情けを受けるというのは、上から見られているという事だから。


晴人が席に着くと、直ぐに授業終了のチャイムが鳴った。


ーーと共に、晴人の席に駆け寄る男子生徒数名。


「おい、相川。授業バックれかよ? 良いご身分だぜ。ヤンキーだなぁ?」

1人が笑って軽口を言う。

「ヤンキーってお前。いつの時代だよ?」

もう1人が同じ様に笑って、突っ込む。

「違うよ」

晴人は冷ややかに言うが、その言葉には親密さが感じられる。

「おお、相川はクールだな?」

「クールじゃなく、相川は硬派スよっ! ヤンキーっすから」

「おい、お前らいい加減にしろよ?」

晴人は呆れたように言うが、笑っている。ふざけ合いの範疇だ。


「そう言えば、変な黒いスーツの男に今朝お前の事を聞かれたぜ?」


「……え? 何だって?」

「お前の日頃の事とか訊かれたけど、まあそのまま答えても何も無いから、そのまま答えといた。探偵とか言ってたかな?」

「刑事じゃねーのか? とうとう何かをやらかしたな?」

「あれかな? 逃亡犯?」

友人の1人がふと言った。

「逃亡犯?」

晴人は訊き返す。

「これだよ」

とその友人は、スマホの画面を見せ言う。

それは、ネットニュースの画像を拡大した物で、スキンヘッドに中心に寄った顔、蛇の様な小さな目、特徴的なヤバそうな顔の中年男顔が写っていた。

「国…母……実?」

晴人は男の画像の下の文字を読む。

「そう、逃亡中の老女連続強盗殺人犯だよ。お前、何で知らないんだよ? 今、スゲーテレビとかでもやってるじゃん? 色々前科もあるらしいし」

「ああそうなんだぁ。最近、全然テレビもネットも見てないからなあ」

「お前なあ、まだその辺に潜伏してるかも知れないんだから、危機感持てよな」

「まあ、でもさすがに国母の件とは関係無いだろ。ーーで、マジで何してたんだよ?」

「え? ……。別に」

「別に、じゃねえだろぉ?」

小突いて言う。

「止めろって」

「止めろじゃねえよぉ~。タイマン張るか!? ヤンキー」

「お前ら、うざい。マジしつこい」

そんな晴人に

あははーー、と、級友達は面白がって笑う。


「なんか、隠してるなぁ。さては誰か殺したろぅ?」


そう1人が言った瞬間


「ーーうるせえなぁーッ!! 違うよッ!!」


突然、晴人が教室中に響き渡るような声で怒鳴った。


………………。


皆んな静まり返り、今までのじゃれ合いとの整合性が取れない晴人の行動に引いていた。


教室の他の生徒も同じく静まり返り、何事か!? と晴人をに注目した。

教室中の視線が全て晴人に注がれる。


からかって居た友人の人が

「す、すまん!? 相川ーー」

とヒクついた笑いを作り、一歩晴人に近付いて、肩に触れようとした。


その言葉で我に返った晴人は


「ーーち、違うんだ!? ……皆んな、ごめんっ!!」


そう言い、その場から逃げるように教室を飛び出した。


晴人はそのまま、学校を飛び出す。


「うるさいッ!!? 黙れッ!!」

晴人は走りながら叫ぶ。

すれ違う人が振り返る。

それでも晴人は、走り続けた。

もう回りの目を気にする事もない。

頭の中に、響き続ける得体の知れない声。

ある日、突然聞こえ出した。

さっき、教室でもずっと頭の中で、自分に語り掛けて来ていた。

あの怒号は、その声に対してだった。

その声は、頭の中に響くのに、声に出した言葉にしか反応しない。


その声と、心での疎通は無いのだ。


その事から、妄想や幻聴で無いのが分かった。

いや、もしかすると、精神に異常をきたしたゆえの、特殊な幻聴かも知れない。


だが、言い返さずには居られない。

言い返さなければ、声に洗脳されてしまいそうだ。争い抵抗しなくてはいけない。

だから、人に聞かれる可能性を考えて、晴人が考え付いたのは、スマホで話してる振りをする事だった。

もし1人で話していて見られても、怪しまれずに済む。

異常者のレッテルを貼られずに済む。

今までは病気に苦しむ者として扱われ、これからは異常者として扱われるなんて真っ平だ。


何か言い返さなければ、頭の中の声は永遠に一方的に言い続ける。

今も自分を罵倒し続けている。


(お前の頭は狂っている!)


(俺はお前の心の声だ!)


(お前は人を殺したくてしょうがない!)


(殺し方は俺が教えてやる)


声は眠っている間も止まない。

晴人の精神は衰弱し切っていた。


(お前は自分がやった事を忘れたのか?)


「アレは、お前がーーッ!?」


(俺じゃない。やったのはお前だろ?)

頭の中の声は笑う。


「……ち、違うッ!?」


(違わないだろ? 自分のその手に残る感触に訊いてみろ?)


「……。」


(どうだ? お前の両手は、なんと言ってる?)


「……ッ!?」


(答えられないか? ーーあの少女の柔らかい肌の感触、暖かい口内の肉、息遣い。全て覚えて居るだろう。そして、苦しむ姿。ーーを見て興奮する自分)


「……違うッ!?」

そう言うものの。おぼろげではあるが、確かに自分は……。

晴人は浮かんだ思いを打ち消す。

そんな晴人に声は追い打ちを掛ける。


(テメーは頭がおかしいんだよ? 異常者なんだよ? 人殺しが大好きなんだよ。小さな女の子が窒息するのを見ながら興奮してたんだよ。俺には分かる)


「……ち、違うッ!?」


(違わねえ。俺はお前だ。受け入れろよ? 楽になれよ?)


こんな状態で、のんに会える訳が無い。

下手をすれば、自分がのんを傷付ける可能性だって……。


この声は本当に俺の心の声なのか?

俺はいわゆる多重人格者なのか?

もし、そうなら観念して、この事を誰かに打ち明けるしかない。

でないと、また誰かを傷付ける可能性がある!??


「……お前は、お前はなんだっ!? お前は俺なのか?」


(ーーいや。俺が、お前じゃ無い。お前が俺になるんだ。俺は早川満寿男だ)


「……早川…満寿男?」


(ああ。おかしな事を考えるなよ? 俺はその気になれば、完全にお前を支配出来る。実は、あの時だって、俺はお前を少しだけ操っていた。勿論、最後の決定をしたのはお前だ。あそこで俺の後を継げるかの判断が出来た。詰めの甘さはあったが、まあ初犯だからな。合格だ。嫌だろう? 自我を奪われ、包丁振り回して大々的に捕まるのは? 親だってタダじゃ済ま無いぞ? まだお前は未成年だが、そんな事をすれば直ぐに動画を撮られてネットで拡散、特定だ。俺なら上手くやれる方法を知ってる。バレずに、やれる)


「……。」


(ーーそうだ。あの可愛い女の子。制服着てたから女子高生だろ?タイプじゃないけど、 あの子、殺すよ? あの子に、お前特別な思いがあるだろう? お前の態度を見れば分かる)


「……分かった。俺はお前になる。だから、下手な事をするな」


晴人は落ち着き辺りを見ると、学校近くの歩道トンネルの側まで話しながら来ていた。

スマホを見ると、母からの通知履歴の行列がーー。

多分、学校から連絡が入ったのだろう。

晴人はそれを無視した。


家に帰ると、母の姿は無かった。

学校にでも行ったのか? それとも、警察か? ただこの時点で、まだ事件にもなっていないから、すぐ警察が動く事は無いだろう。事件に巻き込まれた可能性が無い限り、捜索願い止まりだ。


晴人は制服から、すぐに私服に着替えた。

さっきも声を掛けられたし、自分の通う高校の制服は目立つ。

都内では知ってる人間も多い。


それから、台所へ行き肉切り包丁を1本抜き取る。

それをタオルに包んでリュックに入れる。


(どうするんだ? そんなもん)

「殺すんだろ?」

(お前、さすがにこれは目立つだろう?)

「黙ってろ。俺には俺のやり方がある。お前なんか思い付かない凄いのを見せてやるよ?」

(絶対にバレるような真似はするなよ? お前と俺は一蓮托生なんだからな)

「随分と弱気だな? 俺は糞ほど探偵物のミステリー読んでるんだ。ビビんじゃねーよ? 完璧な完全犯罪を見せてやるよ」

(ビビってなどいるかっ! 良いだろ見せてみろよ。お前のやり口をーー。ただしーー)

「安心しろ。俺はまだ16になったばかりだ。最悪捕まっても2人じゃ、死刑は無い。18歳未満だから、無期懲役すら無いかもな。俺ら良いコンビになるぜ」

(……。随分と吹っ切れたな。完全覚醒か!? ……人が変わったようだな!)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ