スレンダーマン 事件①
どうも不死身の1300年に1人の超絶美少女千三百比丘尼こと、八百比丘尼のヤッちんです。
紹介がややこしいですね!
皆さんはスレンダーマンを知っていますか?
スレンダーマンとは、ある不気味な写真が元で広まった海外の都市伝説です。
その古い白黒写真には、奇妙な男と子供達が写っています。どんな男かと言うと、
手足が異様に長く、痩身長躯で黒い背広を着ています。その男が子供達を拐っちゃうという話です。怖いですね。でも大丈夫です。実はスレンダーマンの話は、エリック・クヌーゼンという人が作った作り話なのです。自分で加工した画像に、そういう嘘のストーリーを付けてネットの掲示板に投稿したのが始まりなのですーー。ただ、この話の本当の怖さは、作り話が事実の様に広まり、それに影響された女児2人が友人を相手に殺人未遂を犯す事件にまで発展してしまった事です。興味がありましたら詳しくはググって見てください。
その日は、冬だというのに夏の豪雨のような大雨が、朝から降っていた。
私は仕事の依頼が来てないか、事務所のソファーの上でタブレットPCでメールのチェックをしていた。
「ヤッちん、なんか美少女からの仕事ある?」
とテレビを見ながら、新しく買ったカメラ、プラウベル マキナ67の蛇腹を伸ばしたり縮めたりしている凪さんが訊く。
「無いですよ。というか、凪さんが受けないから普通の依頼すら無い。普通の依頼も受けましょうよ」
「えーやだよ。つか、ヤッちん、タブレットもう使いこなしてるね。パソコンもスマホも何でもすぐ覚えちゃうね。使った事無かったんでしょ? 凄いね。ど天才なのかもね?」
「そんな事無いですよ。分からない事は何でもグーグル先生が教えてくれますし」
前に凪さんは少女(美少女なら尚良い)からの依頼しか受けないと言ったが、実は草薙探偵事務所は、表向きは普通に依頼を取っている。それは勿論『少女オンリー! 美少女なら尚良し!』なんて書いてあったら、摘発受けますし。仕事が探偵と言うより示談屋なので、最初に依頼メールを貰い依頼を受ける場合は1週間以内に折り返し連絡をする。なので、依頼全てに一々返事はしない。無視も有りだ。一応、HPにもそう説明が書いてある。だが、実際はこの相談の時点で少女とそれ以外に振り分けている。でも、内容により無料と謳っているので、多くは無いが老若男女幅広く依頼は来る。よっぽどお金に困ったら、普通の人からの依頼も受けるが。少女の依頼しか凪さんが受けないというのも確かにあるが、普通の人からの依頼は示談金回収が出来ない物、身勝手な相手への言い掛かりや復讐目的と、無料だからと滅茶苦茶な依頼(此方が捕まってしまうような)をして来る人も多い。その点、未成年の場合、本当に純粋に誰にも頼れなくて助けを求めて来る場合が多い。
「ヤッちん、これ酷いよね?」 テレビを見ていた凪さんが、そう言って続ける
「どうして、ゲイとかレズを社会的に受け入れろって言うのにロリコンはダメなんだ! もしロリコンだなんてカミングアウトしたら、社会的に抹殺されるのに!」
どうやら、そういうニュースを見ているらしい。
「それは、同性愛は性別の問題で、ロリコンは性的趣向の問題だからじゃないですか?」
「でも、心の性別が男でも男が好きな奴もいるじゃん!」
「男色ですね。昔も有りましたね。ただ、それは成人同士でお互いに理解し合ってるからで。保護者の必要な少女の場合は、話は別なんじゃないですか? 少年であっても同じです」
「いや、それは性的関係を結ぶぼうとするからであってーー」
この人は何を真面目な顔で言っているんだろう。異常者だわ。
「あ、依頼有りました。美少女か知りませんが、11歳の女の子です」
「マジで! どんな依頼? ストーカー? イジメ?」
「違いますよ。友達がスレンダーマンに拐われたそうです」
「スレンダーマン? 戸川純?」と小首を傾げる凪さんに、ググってかくかくしかじかとスレンダーマンの説明をする。分からない事は何でもグーグル先生に訊きます。
ちなみに戸川純の名曲はレイダーマンです。
「無理だよ。スレンダーマンからじゃ示談金取れないじゃん。居ないんでしょ? 退治も出来ない」
「ですね。悪戯かも知れませんね。じゃあ無視で」
私はスレンダーマンの写真を見ながら、何か記憶の中に引っ掛かる物があった。
「私、これと似たのを見たーー。いや、聞いた? 事がある気が」
「何それ? ヤッちんの昔の妖怪仲間?」
「なっ!?」
この人は、私を妖怪の類と同一視してたなんて……。
と、この時は、子供の悪戯として気にも止めませんでした。
ただ、この時私の中にあった引っ掛かりは、今後の事件に大きく関係して来るのです。
高城さんがやって来た。
「へろー、クラリース。先週の大雨覚えてる? 」
「クラリス? カリオストロ?」
私はソファーに腰掛ける高城さんに、コーヒーを出し訊く。
「ああ、羊たちの沈黙よ」
「羊? 雨は覚えてますよ。冬にしては、珍しい大雨でしたね」
きっと面倒臭い仕事の依頼だ。顔付きで分かる。
仕事帰りに寄っただけなら、もっとぬけた顔をしている。
どんなふざけた事を言っていても、仕事中の高城さんはちょっと雰囲気が違う。
「コーヒー、いつもありがとうヤッちん。そう、その大雨よ。でね、凪さん。その時、排水溝から川にこれが大量に流れ出てきたわけ」
そう言って、高城さんは画像の表示されたデジカメのモニターを此方に向けて見せる。
「何だそれ? 」と凪さんはそれを取って見る。
私も横に座り、それを一緒に覗き込む。
「あーヤッちんが、近すぎてシャンプーのオイニーがーー。ああ、癒されるぅ。がっつりクンカクンカしたい気持ちを抑えるのが辛くて死にそうだよ」
「良いから、凪さん他の画像も早く送ってくださいよ!」
私に急かされ渋々凪さんは、画像を1枚ずつ先に送って行く。
「……骨? ですか?」
「そうよ」
そこには、有り得ないくらいの量の骨が山と積まれていた。どうやら、そこは排水溝の水が川に流れ出る場所らしい。人、1人入れそうな大きな排水口から、水が流れ落ち、骨の山に滝のように注いでいる。多分、その排水口から大雨の時に骨も流れ出て来たのだろう。
「量は多いが、一個一個は小さいな。動物か? このサイズだと、トンコツラーメン屋が大量不法廃棄って訳でもねえな?」と凪さんが訊く。
「ええ。鑑定に回したら猫、鳩、カラス、ネズミが主だって。知ってる? 今一部で騒がれてるけど、都内からここ数ヶ月動物が急速に減ってるんですって。都内って以外に動物が居るのよ。今言った、野良猫、カラス、鳩、ネズミなんかは、家畜じゃ無いけど、人間社会と密接な関係を持って生きているわけ。だから、都心に結構な数が居る。でも、それがここ数ヶ月でほとんど見掛けなくなったって。多分、その原因がそれよ」
「で、俺に何をしろと? 動物って言っても、ペットでも無いし。動物愛護団体にでも行った方が良いんじゃないか? 下水の中を走り回るのはやだぞ」
「まあ、全部が全部、動物ならね」
「違うのか?」
「実はここ1ヶ月に行方不明の子供が3名ほど出てるのよ。全部、小学生の女の子よ」
「何? JSが3名もだって!!」
「やっぱ、そこなのね……。顔がイケメンでも、本当にキモいわ。死ねば良いのに」と、高城さんは呆れた様に言って続ける「ーーで、その骨の中に人間の子供の骨らしき物が混ざってたのよ。骨になってるから、死因は分からないけど、新しい物だったしDNA鑑定したら身元は分かったわ。想像した通り、最初に行方不明になった小学3年生の女児の物よ。保護者達にDNAを提供して貰って、鑑定した結果、その中の1組の夫婦と99%の確率で親子だった。まだ、伝えて無いけど」
「そんな、行方不明ニュースやってないだろ? 報道協定ーー、誘拐か?」
「さすが、勘が良いわね。実は拐われる瞬間を見てる子が居るのよ」
「なら誘拐した奴を探せば良いだろ? 都内ならどこでも防犯カメラがあるから、どっかしらに映ってるだろう?」
「まあね。映ってたんだけどね。それが……。まあ、これよ」
そう言って、今度はプリントされた写真を高城さんは出した。防犯カメラの画像を処理してプリントアウトした物のようで画像が荒い。
それを見て「なんじゃ、こりゃあ!!」と凪さんが往年の松田優作バリに声を上げるのも分かる。
壁に巨大な蜘蛛のような物がへばり付いている。
「動いてる所も見る? 顔の効く鑑識に言ってスマホにこっそり落として貰ったのがあるから」
見せて持った動画には、1、2秒であるが動く巨大な蜘蛛のような物が映っていたが、画像が不鮮明なのと、あまりに早く動いているのでブレていて動画では良く分からない。
「巨大蜘蛛の仕業か?」
「こんな物、発表する訳にいかないでしょ?」
クモ? うーん。なんか、引っ掛かる。
クモクモクモ? うーん。思い出せ無い。
この引っ掛かりは、スレンダーマンの写真を見た時と同じだ。何だろう?
「コイツが誘拐したのか?」
「裏は取れてないけど、側で誘拐の瞬間を友人の子が見てたって言うの。最初は、言動から少女の嘘かと思われたけど、その防犯カメラの映像が出て来たからね。だからって、この写真持って聞き込みって訳にもいかないでしょ。動きようが無くて参ってるのよ」
「で、他になんか手掛かりになりそうな物はあんのか?」
「手掛かりって言うか、目撃してた子はスレンダーマンに誘拐されたって言ってるわ」
「スレンダーマン?」「スレンダーマン?」思わず、私と凪さんの声が揃う。
数日前に来た依頼に出て来た名だ。
「今、排水溝の中をウチで調べてるけど、まるで迷路よ。場所により有毒ガスの発生もあるし、どこから骨が流れて来たのか捜査は難航してるわ。そう、あともう1つ嫌な情報。この動物の骨には歯型が付いてたんだって、獣では無く人間のね。しかも焼かれたり煮られた跡もある。つまり、調理されて喰われたのよ。勿論、少女の骨にもあったわ。塩以外の調味料なんかは出てないから、複雑な調理ではないけど、確かに食べる為に調理してーー、コイツは食べているわ」
高城さんは強く嫌悪するような目で言った。
私はその目に、胸に突き刺さるものを感じた。
つづく