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箱男事件 ②

翌日、凪さんは1つ上の階に2人を案内する。


ずっと昔に、デザイン事務所が入っていたそうで、給湯室には、まあキッチンと言えば言えるかな?というような流しと、トイレは付いている。


「布団は後で持ってきます。風呂は事務所のやつを使ってください」

凪さんが言う。

「洗濯物はお風呂の時に持って来て頂ければ、私が洗って置きます」

「こんな所だけど、金は掛からないから、解決するまで暫くは此処を使って下さい」

「いや、何から何まですいません」

「テレビなんかはないから、寝る時だけこっち使って、それまでは事務所に居ても構わないんで」


前の住人の荷物なんかはほとんど無いが、人が入らない所為で、床に積もった埃を払うのと、換気は必要だ。

私達は2人に、自分達が寝れる場所だけ適当に作って置いて下さいと清掃用具を渡し、

もう一度、戸川邸へ向かったーー。


戸川邸に着くと、


「凪さん、あれっ!?」


昨夜のように家を覗く男の姿が……。


「おう、今度は逃がさねえ!」

凪さんは車を出ると

「おい! お前ーー」と声を掛ける。


男は凪さんの方を一瞬振り向き逃げ出した。

昨日と同じルートを通り、またバイクに跨り出て来るがーー。


今度はーー


ブオンッ!!

キュルルルルル!!!!


凪さんがすれ違いざまに、バイクの後ろを捕まえた。


「なんだっ!? おい、ふざけるなバイクを手で止めるなんてーー。クソッ!!」


男は叫びアクセルを吹かすが、タイヤが空転するばかり。

凪さんはそのまま、ひょいとバイクごと男を片手で持ち上げた。

まるで中国雑技団のようにーー。

儲からない探偵なんてしなくとも、あれで食べて行けそうだ。

ナイスバランス。いや、腕力でやってるのか。


「やめろっ! やめてくれ!! もう逃げないっ!!」

男は叫んだ。



捕まえた男は観念したように、力無く玄関の階段に腰を下ろしうなだれた。

「お前誰だ? 昨日も覗いてたろう?」

凪さんは男に問う。

40代くらいの細身の白髪交じりの男だ。

「……捜しに、捜しに来たんだよ」

「何をだ?」

「妹をさーー」

男は言った。


「妹って、どういう事だ?」

「俺は32年前に箱を受け取った。11の時だった。そして、妹が居なくなった」

「受け取ったって箱男からか?」

「ああ。あんた箱男を知ってるのか?」


私達は、この人に箱男の話は一切していない。

この人は箱男について、何かを知っているとみて間違いは無いだろう。


「30年以上前だろ? 箱男とは何者だ? どうして、この家が今箱男と関わっているとわかった」

「箱男の話を信じるのか?」

「俺は今、箱男の事で依頼を受けてる。探偵だ。怪異を体験したばかりだよ」

「……。あいつはまだ続けているのか」

「箱男の正体はなんだ? 箱男の目的は?」

「分からない。分からないが、その記録は100年近く前からある。大体が行方不明で片付けられるから、誘拐事件としては公では扱われていないがな。都市伝説、怪異談の類として、日本各地にある。遺族は、1番に容疑者扱いにされる事が多いから、箱男について最初は色々世間に訴えても、じきに口を噤むようになる。それが断片的に残り、都市伝説となるのさ」

「お前も、いや、あんたもかーー」

「俺が容疑者として疑われた事により、俺の家族は離散したよ。その地域に住めなくり、父親が仕事を失い。家庭が崩壊した。父も母ももうこの世には居ない。俺は妹を捜している。それで、壊れた家族が戻る訳じゃないが、それでも妹が帰って来てくれればーー。この家の事はネットに書き込みがあったのさ。子供の投稿だろう。一緒に添えられた写真に、この地区の位置情報が付いてた。後はこの周辺で、偽の名刺でも見せて、子供相手に名の知れた雑誌のライターのフリして聴き込みすれば、すぐに分かる。俺はどんな小さな情報でも、見つけたら確認する。ただ、内容が内容だら、本人にはいきなり聞き辛いから、様子を見ていたのさ」


ネットに載せたのは、たぶん緋奈ちゃんの学校の誰かだろう。


「……。知ってる事があったら、なんでも教えてくれ。妹さんを探す事に繋がるかもしれない」

男は凪さんの問いに、少し考えて、懐ろから1枚の雑誌の切れ端を出した。

「……これは?」

「見つけたんだ。俺が受け取った箱と同じ物に見える。戦前のある村の祭りの写真の1つだ。モノクロだが確かにこの箱だった」


写真は、神社の中の様だ。

何かの舞を踊る人達の、後ろの祭壇に、確かに四角い箱が見える。

ーー螺鈿細工?


「この村は?」

「分からない。ある雑誌に投稿された素人が撮った写真だ。撮った人物も、名前しか分からない。その記事の下にあるだろう」


記事は全体的に、日本固有の土着信仰についてのようだがーー。

写真に付いては、


『秘仏が公開された裏日本の某山村における奇祭。御神体を箱とする珍しい祭りだ』


まあ、説明はこれだけだ。

たぶん、日本の土着信仰の1つの例として取り上げられたのだろう。


「ーー撮影者、国川仁左衛門か。ところで、あんたの名前は?」

「俺は久山だ」

「何か分かったら、必ず連絡する。ちなみに久山さん、あんた箱男の顔は覚えて無いのか?」

「なぜか具体的な人相を思い出そうとすると、記憶が霧に包まれるように、曖昧になる。ただ老人、おじいさんだったのは覚えている」

「……じいさんか。たしか、緋奈ちゃんも似た事を言ってたな」


久山さんと連絡先を交換して別れ、戸川邸へーー。


リビングは凪さんの暴れた跡はあるものの、昨日の赤ん坊に繋がるような物は一切無い。綺麗サッパリ消えている。

緋奈ちゃんの部屋も、またそうであった。


家の中を見て回るが、何もおかしな所は無い。あんな事件が起きた家とは思え無い。


「うーん。やはり餅は餅屋、プロフェッショナルを呼ぶしかねえか」


凪さんは事務的な調査をして、呆れる程あっさりと匙を投げた……。


元々そうするつもりだったんだろう。


プロフェッショナルというのは当然ーー。



玄関のチャイムが鳴り、出ると


「凪さん、何ですか? こんな所まで呼び出して? 俺に損はさせない要件てーー」


「よお、来たかプロフェッショナル。銀太くん、君にピッタリの事件だ」


やって来た波久礼さんに、カクカクシカジカと凪さんが経緯を説明する。


「箱男ですか」

「その口振り、知ってんのか? さすがだな」

「ええ。一度、コトリバコが流行った時に、調べた事がある。コトリバコと違い、被害者が実在する。この事件はヤバイです。コトリバコとは、まったく別の事件て事は分かったけど、記事にはならずに取材中止になりました」

「被害者家族に嫌疑が掛かるからか?」

「ええ、子供が消えれば最初に疑われるのは親ですから。通称箱男と呼ばれる共通の不審者の話が出ても、その実在はまったく証明出来ていない。家族への、有らぬ疑いとデマの声ばかり、大きなる。俺は今回は微妙です。記事を書けば、被害者家族を傷付ける恐れがあるし、事件を掘り起こされたく無い家族もいる」

「今回の事件は大丈夫だ。まだ被害者が出て無い。お前は調べたなら、良く分かってんだろう? この事件は明るみに出ないだけで、もしかすると時代を跨ぐような大規模な連続誘拐事件の可能性があるのをーー」

「……。分かりました。今回は取材関係無く、協力します。此処で箱男の都市伝説は終わりにしましょう」


波久礼さんが加わり、もう一度室内調査をするが、ニコマートは反応しない。

やはり、また夜になるのを待つしか無いのか。


ーー私達は夜になるのを待った。


時刻が0:00を回った頃、

あの臭いが鼻を突く。


……オ…ギャ………ァ


………オギャァ


「聞こえてきましたね?」

「……確かに、赤ん坊の声ですね」

波久礼さんが言う。


ーーカシャンッ!


ニコマートのミラーが下がる音がーー。


やはり、幽霊か。ニコマートが反応した。

そう思った時、また壁から赤ん坊が這い出て来る。

波久礼さんはニコマートを構え


カシャンッ!


と、シャッターを切る。


ーーが!?


赤ん坊はそのまま、……ゴトリと床に落ちる。


「おかしい! 捕らえられない!!」

波久礼さんが叫んだ。


……オギャ……オギャアオギャアオギャア

オギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャア


また次々に赤ん坊が壁から現れる!!?


カシャンッ!

カシャンッ!


波久礼さんは連続してシャッターを切るがーー!?


「ダメだ! ニコマートは反応してるのにーー!!?」

そう言った波久礼さんに襲いかかろうとする赤ん坊を、現れた涙牙が払い落とす。


「こりゃダメだ!? 一時退散だ!!」

凪さんが叫んだ。


「どうしたんだよ? 銀太」

凪さんが言う。


私達は一先ず、凪さんの車に避難した。


「分からないです。ニコマートは反応してるのにーー」

「壊れたんじゃねーの?」

「壊れてる壊れて無いで言えば、元々壊れてますよ」

「じゃあ、なんでですかね?」

私が訊く。

波久礼さんは少し考えて

「ーー不本意ですが、助っ人を呼びましょう。涙牙の力は通じそうですけど、数が多い。地道に潰していくのは大変でしょうしーー」


不本意とは変な言い方だ。

波久礼さんは自分の特殊能力に、変なプライドを持ってるような人とは思えないが


波久礼さんはまた少し考えて

「あれ、霊体かも知れないけど、幽霊なんですかね?」

「え? どういう事だよ」

「分からないけど、何か今までと違う感じがする。はあ、アイツの力に頼る事になるとはーー」

「意外にお前って、自意識高い系? 幽霊捕まえられ無かったの気にしてんの?」

「……違いますよ。ちょっと、面倒臭い人なんです」


なるほど、それでか。どうやら助っ人さんは癖のある人らしい。

心霊関係の人だろうか? 気になるーー。



まあとにかく、その日は解散して

波久礼さんが助っ人を連れて、明日また出直す事になりました。


翌日、正午に波久礼さんと待ち合わせをした。

戸川邸の前で待っているとーー


「……アレなんだ?」

凪さんが言う。


波久礼さんのバイクの後ろに乗っている人が頭1つ大きい。


「すいません。遅れました?」

波久礼さんが言う。

「……いや、時間は問題無い。それより後ろのーー」

と凪さんが言い掛けると


「なんや、こんな所までワシを呼びくさりやがって! ワシは高う付くでぇーー!!」


とバイクの後ろから降りて来た男の人が、ヘルメットを取りながら言う。

薄手のロングコートに、顔はなかなかイケメンの茶髪兄ちゃんだがーー


大きい。


凪さんが180cmジャスト位だから、190cmは確実にある。

ちなみに波久礼さんは165cmくらいかな?


「あぁ?」

と、その人は私を見た。


……な、なんでしょうか?


と私は声に出さずに、顔に出す。


「……ま、まさか、貴様ら。ワシに依頼料を払えん代わりに、こんな幼気な美少女ちゃんの体で払おうなんて!! いかんで! いかんでしかしぃぃぃぃーーーーーッ!!」


と、言葉とは裏腹に、私にいきなり飛び掛ろうとする!


ーーひぃっ!??


ドカッ!! バキッ!!!


凪さんの右ストレート一閃!


どんっ! ゴロゴロ!! ずががががががががががががぁーーーーーーーッ!!!!!!!


と、男の人はまるで車にでも跳ね飛ばされたかの様な勢いで道路を転がる。


士鶴(しずる)ーーーーーーーッ!!?」

波久礼さん絶叫。


ああ。

助っ人登場2秒で、死亡……。


ガバッ!


「痛いやんけっ!! ワレッ!」


おお立った……。


士鶴と呼ばれる人は立ち上がると、ダダダダダッ!と凪さんに駆け寄り

「殴られる瞬間、後ろに自ら飛んだんやっ! なかなかのパンチやが、当たらな、意味無いわっ!!」

と、血だらけの顔で凪さんになぜか勝ち誇って言った。


「……おっ、おう」

さすがの凪さんもドン引きだ。


「冗談や! 大阪ンジョークやでぇ!!」

アメリカンジョークと掛けてるのかなぁ……。

「そーりーまどまぁーぜる」

と声トーンを変えると、膝間付き、私の手を取りキスをする。


ぎゃっ!!?


「テメぇッ!! この野郎っ!! いい加減殺すっ!!」


「すいません凪さんっ!!」

と、波久礼さんが止めに入った。

「コイツ腕は良いんですけど、女癖が悪くて。相手が可愛ければ、大人子供関係無いクソカスなんです!」

「酷いなあ、銀太。再従兄弟(はとこ)のお兄ちゃんに向かってーー」


再従兄弟?


「やめろっ! お前と血の繋がりがあるなんて思われたく無っ!!」


「どうした? 喧嘩か?」


後ろで人の声がーー。

段々、周りのギャラリーが増え始めた。


「とにかく、中に入りましょう。此処でやってると目立ちます」


私達は取り敢えず家の中へ入った。


取り敢えず、リビングのソファーに腰掛ける。


「再従兄弟と言うと?」

私は士鶴さんに訊いた。

「銀太の祖父さんが、俺の祖父さんの弟や。ワシは比嘉士鶴(ひがしづる)、26や」

「お、大阪の方ですか?」

「大阪生まれ、埼玉育ち、ダサそな奴は大体友達やで」

「……お前、大阪人と埼玉県民、両方敵に回したな。つか、全然霊能者ぽく無いな?」

「何言ってんねん! ウチの家系は強力なユタの家系やで!! ワシはその血を受け継ぐエリートやで!」

「ユタ? なんだそりゃ?」

「沖縄のシャーマンや。基本巫女が多いけど、男も居なくはない。ワシは昔から強力な霊力があって、それを独学で磨いたんや」

「ほう。銀太は沖縄出身かよ。ちゃんと霊能者の血が入ってるじゃねーか? やっぱお前も霊能者なんじゃねーの?」

「祖父が沖縄出身てだけで、沖縄では暮らしてませんよ。大叔母さんがユタだったって知ったのも高校になってからだし」

「ところで、凪さんやったっけ? あんたとそっちの可愛子ちゃんはーー」

「ヤッちんです」

「ヤッ、ヤーー」

「ヤッちんで良いですよ?」

「ほうか。ならヤッちんとあんたの関係はなんや? 兄妹や無いやろ? まさか、親子っ!?」

「え? 同級生だよ」

「同級生? 嘘つけ、あんたいくつや?」

「18」

「嘘つけやっ!! どっちも18には見えんわ!」

「本当だよ。ヤッちんは隣に住んでた幼馴染で、実は昔俺には弟が居たんだ。双子の。でも高校の時に事故で死んだけどな。俺はそれで、弟の意思を継ぎ、ヤッちんを甲子園まで連れてくって約束したねん。今日も、朝一で素振り1000回して来たで」

「そんな! まるでタッチみたいやんけっ!!」


……いや、それまんまタッチのあらすじ言ってるだけです。


「あの?」

「なんだよ、ヤッちん?」

「凄く和んでますけど、凪さん、家の方を見て貰わなくてもいんですか?」

「夜にならなきゃ、分かんねえだろ? 」

「そうなんですか?」

「そんな事無いでぇ」

「分かんのかよ! じゃあ、早く見ろよ!!」

「いや、見るまでも無い。この家は呪われとる。霊体なのに、銀太のニコマートに捕らえられなかったのは、それが呪力によって作られた存在だからや」

「じゅりょく? ですか?」

「そや、ヤッちん。呪いの力や。霊体には変わりは無いが、箱に仕掛けられた呪詛(じゅそ)により発動するトラップみたいなもんや。呪詛ちゅうのは、誰かが目的を持って呪いを掛けるって事や。呪詛により作れたモノは、普通の霊体とは違う。言い方は、的確とは言えんが人工幽霊みたいなもんや。まあ、ゼロから作ってる訳じゃなく、何らかの霊を媒体にしてるだろうから。多分、銀太の力がもっと強くなれば、捕らえるようになるやろうが、こいつはそういう己自身の霊力を磨くような努力をせんからな」

「ーー俺にはそんな力ねえよ。修行とかしてるような暇も無い」

「じゃあ、その呪いを解いてくれよ?」

「無理や」

「なんだよ! せっかく来たのに使えねえなぁ」

「失礼やな! 普通の呪いなら、呪い返しも出来るけど、この家に掛けられた呪いは並や無い。家から全く邪気を感じない。それは、それだけ完璧なトラップに仕上がってるって事や。家に入ったのはそれを見極める為や。箱は確かに貰ったけど、箱自体が消えとるんやろ? それは完全に、トラップをカモフラージュさせたって事や。普通なら、その元凶である箱さえ有れば、呪詛を解く事が出来る場合も多いが、それを出来なくさせとる。かなりの術者やで。こういう場合は、もはやその術者を探すしか無い。そいつに解かせるか。解かなくも、どういう素性か分かれば対応も出来る」

「待て、じゃあ俺ら罠の中って事じゃねーか?」

「そや」

「呪いってのは、タイマー式か?」

「それは、罠とは言わんやろ? 罠っちゅうのは、獲物が入ったらええ頃合いで発動するもんやで」

「……。」


ーーバンッ!!


と、いきなりリビングのドアが閉まる。


ええ頃合いやで……。


「どうすんだよ。また出てくるぞ? お腐れベイビーが。ほらぁ変な臭いがして来たじゃねえか」


ーー肉の腐敗臭が鼻を突き出す。


……オギャア

…オギャア………


壁から、また赤ん坊がワナワナと這い出て来る。


「ダメだ! 全然ドアが開かないっ!!?」

波久礼さんがドアノブを掴み、体重を掛けて押しながら言う。


「ほら、言わんこっちゃねぇ。俺の出番かぁーー」

「大丈夫や、ワシがおまじない掛けたから」

「おまじない?」

「せや、ヤッちん。ワシの手を握りぃ」

「お前ヤっちんに変な事すんじゃねーよっ!」

「違うがな。ワシに触れてる間、この家に掛けられた呪いが、ワシ達を認知出来なくなる。ほら、だから見てみぃ」

と士鶴さんは、壁から半分出た赤ん坊のほっぺをムニッと掴む。

赤ん坊は無抵抗だ。


「ほら可愛ええもんや、ワシを認知出来て無いから、されるがままや。皆んなで手ぇ繋げば、連鎖的に皆んな認知されんようになるんやで」

「じゃあ、お前と銀太が手を繋いで、銀太と俺が手をつけて繋いで、俺がヤっちんと手を繋げばいい」

「そんなん、やや! そんなんやったら、此処で死んだ方がマシやっ!!」

「お前はアホか。早く銀太と繋げよ」

「嫌や!死んでも嫌やっ!!」


「ーーああ、面倒くさいっ!」

私は士鶴さんの手を握り

「こっちは凪さんっ!」

と空いてる手で凪さんの手を握り

「波久礼さんは、凪さんの手を掴んで下さいっ!!」


「はっはい!」

波久礼さんが、凪さんの手を握る。


すると……。


「ほんとだ……。赤ん坊の動きがと待った……!?」


「ただ、みんなは一度認知されてるから、じきに誤作修正して動き出すで。急に消えて一瞬パニック起こしてセンサーが誤作動しているようなもんやからな。せやから、早よ此処から出にゃならんで」

「早く言えよボケ! とっとと出るぞ。ドア開けろよ、士鶴。お前以外手が塞がってるだからな」

「銀太も空いとるやろうが……。まったく」

そう言いながらも、士鶴さんはドアを開ける。


さっき波久礼さんが、押しても引いても開かなかったドアが普通に開く。

確かに呪い(罠)は無効化されたようだ。


士鶴さんみたいに、本当に私の事が解らないか、ちょっと足でつついてみるか。

両手は、ロリコンオジサンとエロ兄ちゃんで、塞がっているので、私は足先を伸ばす。


「ーーああ、言っとくけど、あんさんらは絶対に触れたらあかんで。ワシは最初から、この家の一部として認知されとるから大丈夫やが。さっきも言ったように、今はコイツらはあんさんらを見失ってるパニックを起こしている状態やから、刺激を与えれば無差別に襲い出すで。そうなったら、ワシも襲われる」


ひっ!?


やっばぁー……。もう少しで触れる所だった。

私は恐る恐る足を引っ込める。


「……まあ、それでもまだ手はあるけどな」

士鶴さんは呟くように笑って言った。



ドアから廊下に出ると、廊下も赤ん坊だらけだった。

前より、確実に被害が広がって居る。

赤ん坊を踏まないように、迅速に、素早く進むのは、手を繋いだ状態じゃなかなか難しい。


その惨状を見て士鶴さんが口を開く。


「呪力が強まっとるな。呪いってのは、毒が回るように段々効いて来るもんなんや。フラシーボ効果なんて科学的には言っとるが、それもあるが、それは呪いを掛かり易くする導入剤みたいなもんや。実際はこうやって、人を狙い危害を加える。ただ、普通は眼で見えても、実体化して襲うまでは中々無い。大体は恐怖で精神的に追い詰めて、自滅を望む……。位が関の山やが……。この呪いを掛けた奴はかなりの手練れやでーー」


私達が外に出るとーー


バンッ!!


大きな音を立てて玄関が閉まる。

誤作を修正して、出ようとする私達に反応したのだろうが一足襲い。


「取りあえず、この家には呪いが解けるまで入らん方がええ。入った所で、何か出来るわけやないし。入らん分には、危険性は無いやろ。これは人じゃなく、家に掛けられた呪いや。術者を探す方が先やが……」

士鶴さんは考える。

「手掛かりは、今の所これ位だな」

と凪さんは、雑誌の切れ端を懐から出す。

「なんやそれは?」

「箱男事件の被害者家族がくれた物だ。箱男に渡された箱がこれに似てるらしいがーー」

凪さんは士鶴さんに記事を渡し、カクカクシカジカと、久山さんから聞いた話を伝える。

士鶴さんは写真の記事を見ながら

「ほぉーー。なになに、秘仏が公開された裏日本の某山村における奇祭。御神体を箱とする珍しい祭り。撮影者、国川仁左衛門かーー」


裏日本ーー。


「裏日本て言うのは、昔に使われてた言い方ですね。太平洋側を表とした場合に、日本海側を裏というーー」

「ヤッちんは、若いのに博学やな」

「……いえ」

そりゃ1300年生きてますんで。私は思わず苦笑いする。

「ただ、日本海側のどっかの村ってだけじゃ範囲が広過ぎる。まず国川仁左衛門って奴を見つけるのが先か……。やが、雑誌の切れ端だけじゃ、どないしようもないか。かなり古そうな記事やし。せめて雑誌の名前が分かれば何かーー」

という事で、この記事の掲載されていた雑誌を久山さんに訊くがーー。


実はまだ久山さんが高校生の頃、たまたまどこかの図書館か資料館で見た雑誌にあった記事を見つけ、破って持って来てしまった物だそうで、分からないという事だった。


また国川仁左衛門という名前も調べたが、撮影者には辿りつけなかったそうだ。


私達は取りあえず、場所を波久礼さんの家に移す事にした。



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